-Back-

読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第5話 そして……(その7)



「それじゃ、ユノスちゃんはその……もう一人のあなたに会いに?」
 バベジの話を聞きおわるなり、ティウィンはそんな言葉を洩らした。
 ティウィンの方もバベジから、彼がここに至るまでの経緯を簡単に説明してもらっ
たのだ。自らに体内に眠るウィルスに冒され、全ての力を奪われてしまった今では…
…霧の大地の神どころか、ディルハムの一騎すら指揮に入れることは出来ないと言う。
「まあ、姫の事は彼女を信じるしかないでしょう。マナト卿や他の方々もいることで
すし」
 『姫』という呼び方にティウィンとザキエルはほんのちょっとだけ複雑な表情をし
たが、すぐに思考を切り替えて頷いた。神殿から離れたこのベースでは、いくら心配
しても状況は改善されない。
 いま出来る事をするしかないのだ。
「まず、ここのディルハム工廠をいつまでも起動状態にしておくわけにはいきません
ね。まだここには数百騎のディルハムが眠っています。この全てがあいつの指揮下に
置かれる事は絶対に避けなければ……」
 今外で戦っているディルハムの指揮は指揮官級ディルハムではなく、バベジが一手
に管理していた。どういう術を使っているのか、兵卒級ディルハムの一騎一騎のあら
ゆる動きまで管理出来るのだという。兵の一体一体まで一人の指揮官が管理するから
部隊行動のミスは絶対にないし、それどころか何千分の一秒という想像を絶するタイ
ミングでの一斉攻撃すら出来てしまうのだ。
 しかも、操られるのはあの鋼鉄の兵隊……ディルハムである。もともと強いディル
ハムの軍隊が、そんな非常識な指揮系統を手に入れれば……
「確かに、全世界を相手にして戦争する事も出来るかも…」
 そんな事になれば、ただでさえ混乱したこの世界はさらなる混乱の中に落とされて
しまう。ユノス=クラウディアで起こった以上の戦いが、全世界で巻き起こる事にな
る。
「バベジさん、ディルハム達を止めるには、どうすればいいんですか?」
 それだけは、避けなくてはならない。
「何……そう難しい事ではありませんよ。そこの壁に封印されたレバーがあるでしょ
う? 実体のない私は触れませんが……ティウィン君、君やザキエル嬢ならば触れら
れるでしょう?」
 バベジの指差した方向……ザキエルの浮かんでいるすぐ傍らには、確かに一本のレ
バーがあった。余程大事なレバーなのか、霧の大地の言葉で描かれた細長い封印の紙
片が何十枚と貼られている。
「そのレバーを倒せば、このベースに通じている全ての動力を閉じる事が出来ます。
そうすれば、ディルハムを起こす事は出来なくなりますよ」
「それじゃ……」
 その言葉にティウィンは腰の剣を抜き、封印の紙に向かって躊躇無く振るった。
 無数の紙片が何千年かぶりに封印していた物より離れ、ひらひらと宙に舞う。
「え? けど、それって……」
 しかし、ふとザキエルが呟いた言葉。
「ベースの力で生きておられるバベジ様は、どうなるのですか?」
 その言葉に、ティウィンはレバーに伸ばした手を止めた。


 どくん……
「…………キリがないな」
 ほんの一薙ぎで数体のディルハムを真横に叩き斬ると、ユウマは軽く跳躍し、別の
ディルハムの群の中に躍り込んだ。
「これでは、保たんぞ」
 着地と同時、落下点のディルハムをより凶々しく変化した魔剣で真っ二つに叩き斬
った。ディルハムを断ち斬り、大地へと叩き付けられた魔剣……眼魔の刃は大地にぶ
つかる瞬間に一瞬ぐにゃりと曲がったかと思うと、無数の爪状の刃へと姿を変え、デ
ィルハムを叩き斬った後の隙を見せているユウマに襲いかかってきた数体のディルハ
ムを一騎も逃す事無く串刺しにする。
 どくん……どくん……
「それだけ圧倒しておいて、何を言う」
 と、傍らに舞い降りてきたジェノサリアが皮肉げに口を開いた。彼女の今の所の最
大同時撃破数は、セラフイリュージョンを使った場合の4騎。それもヒットアンドア
ウェイを使った戦法で攻めるものだから、強引な力押しで攻めているユウマに比べれ
ばやはり効率が宜しくない。
「フッ……。これしきの輩など、問題ではない」
 朱翼の美女より視線を逸らしつつも、ユウマは悠然と答えた。自信があるわけでも、
油断しているわけでもない。
 今の彼には、それだけの実力があるのだから。
「問題は……」
 ドクン!!!!
「この、僕自身だ……」
 その、刹那。
 ぶわぁっ!
 ユウマを包むかのように足下から噴き上がる、漆黒の炎。炎……否、既に火柱と呼
ぶべき黒き暴君はユウマだけでは飽きたらず、そのままこの世の全てを喰い尽くさん
という勢いで辺りのディルハムを容赦なく呑み込み始める。
「ちっ……。暴走か、あれは……」
 ジェノサリアは何とかその場から離れる事が出来たものの、彼女の機動力すらも凌
ぐ勢いにまで成長した炎は既に彼女の眼前にまで迫っていた。
「ん……?」
 ふと、感じる気配。
 感じる、視線。
 誰かが、見ている。
 私を。
「ふっ……。そうか」
 迫り来る炎の『中心』を不敵に見据えると、その美貌をわずかに歪ませ、くすり…
…と笑みを浮かべる。
「戦いたいというのだな? この私と……」
 戦の女神の如き美しくも猛々しい笑みを浮かべたまま、真紅の翼を持った美しい女
は迫り来る炎の中へとそのまま飲み込まれた。
 そして。
 弾ける、炎。
 現れるは、全身に異様な文様を刻み込みし漆黒の魔人。
 現れるは、竜の如き二本の角と翼を備えし紅き堕天使。
「久しぶりに遠慮なくやれる相手のようだな。ユウマ・シドウ!!!」
 嬉しそうに叫ぶジェノサリアに、三眼の魔人からの返事はない。ただ、掌に紫の輝
きを放つ光の刃を生み出し、巨大な蝙蝠の翼を広げて堕天使の待つ天空へと舞い上が
るのみ。
「語りたい事は剣を以て語れ……か。行くぞ、ジェノサイド……イリュージョンッ!」
 蒼穹を覆い尽くさんばかりにその分身を発生させたジェノサリアは、刺青の如き紋
様の刻み込まれた口元を僅かに歪ませて紫電の光刃を構える魔人に向かって自らの最
強奥義を放っていた。
続劇
< Before Story / Next Story >



-Back-
C-na's 5th Dimentional Labyrinth! "labcom.info"
Presented by C-na.Arai