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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第4話 越えるもの・残るもの(その5)



「さて……と。どうするべきか……」
 大剣化させた眼魔で飛んでくる火球を何とか防ぎつつ、ユウマは小さく呟いた。2
mもある大剣だから、大した広さのない廊下では使いにくい事この上ない。
 だが、仮に眼魔を思い切り振り回せる状況でも、ユウマは同じ言葉を呟いていたに
違いないであろう。
「HAHAHA!」
 目の前……廊下の向こうで好き勝手絶頂に火球を打ちまくっているのは、誰あろう
ラーミィ・フェルドナンドその人なのだから。
「スゴイデース。ミーの力、誰にも負けないネー! まさにヒャッパツヒャクチュー
ヨ!」
 アヤシゲなイングリッシュっぽい発音で叫びながら、間断なく火球を放つラーミィ。
火球は何やら絶妙なコントロールがされているらしく、壁を焼くような気配はない。
イッてしまってはいるが、確かに全弾とも一寸の乱れなくユウマ達の方に降り注いで
いる。
 まあ、スゴイといえば、スゴイ。
「ちっ……。相手がラーミィじゃ、どうしようもねえ……」
 ユウマよりやや遅れて現れたアズマも、ユウマの大剣を支えたままで動くに動きか
ねていた。近寄ろうにも、膨大な量の火球が弾幕となって近寄れないのだ。それに、
仮に近寄ったとしてもどうするか……。
「まあ、あのクスリが切れたら元には戻るんだろうけど……果たして、それがいつか
……ってのはねぇ……」
 そして、三人目は例の銀髪の女性だ。彼女は特にユウマの影に隠れる事もなく、そ
の辺に突っ立っている。火球が一発も当たっていないところを見ると、自前で防御結
界でも張っているのだろう。
「けど、何とかしなくちゃ…。待ってろよ、ラーミィ……」
 真剣な口調で言うアズマに、一同は小さく頷く。その割に良策が一つも思い浮かば
ないのが難点だったが。
「お困りのようですね……」
 ふと、背後から掛けられた声。聞き慣れた声に振り向いたアズマとユウマの前にい
たのは、見た事もない長身の青年と、一人の美女であった。
「私が、何とかして差し上げましょうか?」


「シークか。珍しいな、お前が昼間に出歩いているなど…」
 ナイラは小さく呟くと、洗い終わったモップをひょいと構える。本能的にそうなっ
てしまうのだろう。ただの掃除のはずなのにモップの構えに一部のスキも見受けられ
ない所がご愛敬である。
 あっちの世界に行ってしまったラーミィの被害は大した物ではなかった。そこらの
床にも何らかの防御が張ってあったのだろう。せいぜい床が少し焦げ、何枚かの窓が
妙な形に溶けてしまった程度だ。
「ええ。色々ありましてね、昼間でも貴女とご一緒できるようになりました」
 そう言うシークもひょいとモップを取り、ナイラの傍らでモップ掛けを始める。も
ともと体を動かすのは苦手ではないから、初めてにしては様になっていた。
 母親が見たら怒るか泣くかする光景だろうが、シークとしてはナイラと話が出来れ
ばいいわけで、特に気にした様子もない。
「それにしても、良く私だと分かりましたね……」
 ローザに『刻』を進めて貰ったシークは、外見も雰囲気も以前とはかなり変わって
いる。無理もないと言えばそうなのだが、アズマとユウマが最初に彼を見た時、それ
がシークとは気付かなかったのだ。
「瞳……かな」
「瞳?」
 繰り返すシークに、ナイラはぽつりと答えを返した。
「『貴女のその瞳を見れば、誰かくらいはすぐに分かります。たとえ、覆面でその素
顔を覆い隠していたとしてもね……』 お前が言っていた言葉だぞ? 忘れたか?」


「全く、子供というものは……どうして皆ああなのかのう……。親の忠言など、一寸
と聞きもせんわ」
 グラスに注いだワインを軽くあおり、ローザは機嫌がよいのか不機嫌なのか分から
ない調子で呟く。それに応じるのは、銀髪の女性。
「そうねぇ……。ウチにも三人いるけど、どれも無鉄砲で……。見てて危なっかしい
ったらありゃしない」
 無理矢理同席させられたユウマはそう言った女性の方を見て物凄くイヤそうな顔を
したが、女性はそれをさらりと流していたし、女性とユウマの関係を知らないローザ
はその理由が分からない。
「いや、子供だけではないぞ。妾の亭主など、何年も何処をほっつき歩いておるのや
ら……それを探しに行かせた息子まで、どこぞの女の為に貴重な若い頃を無駄にしお
って……馬鹿者どもが」
「あら、あたしの旦那様もそんなもんよ……」
 ローザの言葉にくすくすと笑う女性。どちらも幾らか酔いが回っているのだろう。
饒舌になったローザは、女性のグラスに年代物のワインを惜しげもなく注いでいく。
「じゃがのぅ……悪い奴らではないのじゃ」
 ふとボトルを置き、ローザはぽつりとそう言った。
 それはそうだろう。嫌いでないからこそ、息子を夫捜しに旅出させ、今日とてわざ
わざ呼び出しに応じ、彼の無茶な願いまで聞き入れたのだから。
「そうなのよ。くやしいけど、可愛いのよねぇ……」
 酒のせいで少し潤んだ瞳でワイングラスを見つめる女性。と、その隙を突いてそぉ
っと逃げようとしていたユウマを慣れた手つきでひょいと捕まえ、そのままぎゅっと
抱きしめる。
「……今夜は飲みましょ。貴女とはいいお友達になれそうだもの」
「うむ。このように気分良く酔えたのは久しぶりじゃ。今宵は心ゆくまで飲み明かそ
うぞ」
 何やら意気投合しつつある二人の女性。彼女達の酒盛りに思いっきり巻き込まれた
形のユウマは……二人に気付かれない程度の、小さな小さなため息をついた。


「レリエル……」
 中庭のベンチに体を預け、青年は傍らで酒を飲んでいる黒い少年に声を掛けた。
「お前、俺が霧の大地に行ってる間、ここで待つ気はないか?」
「ないね」
 一瞬の間を置く事もなく、少年は返事を返す。無愛想ながらも、凄まじく強い意志
を感じさせる……少年の言葉。
「俺様は大将が何と言おうと、ついて行くぜ。あ、ザキエルに言うのも無駄だかんな。
あいつは……俺様よりも何倍もやる気だからよ」
 先日の図書館で誓い合ったのだ。とは言え、そんな事をいちいちしなくても、どち
らも本気で主を守ろうと決めていたに決まっているのだが。
「あの……」
 と、何となく険悪になりかけた二人の間に掛けられた声。
「悪ぃ。用事、思い出した……」
 そちらをちらりと見るなり、シュナイトはいそいそと立ち上がり、どこかへ行って
しまう。
「あの……」
 シュナイトとティウィンは明日の朝食を図書館で食べるのどうか、それを聞きに来
たのだ。ちなみに、フォルは今日も泊まりで研究をしているので、彼の朝食は図書館
で決定である。
「悪いな。大将、別にあんたの事嫌ってるわけじゃねえんだ。あんま、気にしないで
くれよな……」
 何となく手持ちぶさたになっているユノスの肩をぽんと叩き、レリエルはそのまま
夜空へと舞い上がった。


「あれ?」
 ラーミィは、ふと目を覚ました。
「ボク…………どうしてたんだろ?」
 ベッドに入るまでの記憶が、全くと言っていいほど無い。それどころか、どうして
ベッドに入っているのかすら分からなかった。
「えっと……確か……そうそう。お昼過ぎに銀髪のおねーさんが来て、リアお姉ちゃ
んの手紙をくれて……」
 指を折々、覚えている限りの今日の記憶を思い出していく。そうこうしているうち
に、一本二本と折っていた指が突如、止まる。
「そうだ……リアお姉ちゃんのくれた薬を飲んで、それから……」
 それ以降の記憶が、ない。
 ポケットを探ると、まだ薬の瓶が残っていた。三包みあった黄緑色の薬の包みが二
包みになっているから、やはり一つは飲んだのだろう。
「……ボク、倒れちゃったのかな?」
 と、そこに至ってベッドサイドのアズマにラーミィは気付いた。アズマはずっと付
き添っていて疲れたのか、小さく寝息を立てている。
「あ、アズマが運んでくれたんだ…。ありがとね、アズマ」
 まだ本調子ではないのか、少し元気のない笑みを浮かべると、ラーミィはアズマの
頬にそっと唇を寄せた。


 静かで幸せっぽい……そして、一部では色々と困り気味の夜は、そのままのんびり
と明けていった。
続劇
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