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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第3話 そして、巻きおこる嵐(その10)



Act11:バック・アタック

 「くそ……。ディルハムどもはキリなしか……」
 もう何体のディルハムを狩っただろう。通常の鎧なら問題はなかったのだろうが、
ディルハムの場合は中身も全部金属鎧のようなものだ。いくら業物の槍とは言え、普
段の10倍以上の負荷を加えられては疲労の蓄積も早い。
 「あと2、3回という所か………」
 それと同じく、ジェノサリア本人にも疲労の色は濃かった。普通のベルディスに倍
する巨大な翼は羽ばたかせるだけでも大きな負担を強いるのだ。それを最大限に使っ
た急降下攻撃を連発していれば、動きが取れなくなっても仕方がない。
 「こうなったら……」
 空中に留まったまま、一人呟く。
 彼女にも切り札がないわけではない。ただ、それを使う局面かどうか……その判別
は今だ難しいところだった。
 「そこの有翼人!」
 と、そこに掛けられた声。
 「何………?」
 殺気……いや、気配すら感じなかった。ジェノサリアは内心だけ慌て、その声の方
を向く。
 「……何者だ?」
 そこにいたのは、巨大な鋼鉄の竜に乗った黒い鎧の騎士。鋼鉄の獣に乗っていると
言うことは、『霧の大地』の兵士の一人なのだろう。
 「今、あの街の背後にディルハムの奇襲部隊が展開している」
 声からすれば、男。それも、まだそれほど年ではない、人間の声だ。
 「叩くならば、今だ」
 騎士はそう言うと、ジェノサリアの方に一本の槍を放り投げる。
 「対ディルハム用に作らせた、強化槍だ。修理が必要なその槍よりは役に立つだろ
う。使うと良い」
 「……私の質問に答えろ! 貴様は何者だ!」
 再びのジェノサリアの誰何の声に、黒鎧の騎士は短く返事を返した。
 「……マナト。お主らが護っている娘の、兄だ」


 「さて……と。本当に奇襲とは、全く面白みのない……」
 木陰に身を潜めたまま、白髪の青年は隣に潜んでいる青年に小さく声をかける。
 「あれが標的か? 全くヴァートを感じないが……」
 こちらの青年は、白髪の青年と対照的に、髪も瞳も漆黒だ。
 「彼らは人間ではありませんからね。容赦は不要ですよ」
 目の前にいるディルハムは15体ほど。ユノス=クラウディアに奇襲を掛けるため
に街の裏手に回り込んだ、奇襲部隊のディルハムだ。
 「……敵に容赦などしない。敵は壊すのみだ」
 黒の青年はそう言った瞬間、ヴァートの鎧を身にまとわせていた。それと同時に、
持っていた2mを超えるほどの大剣からも凄まじいばかりの障気が溢れ出す。
 「結構です」
 白の青年の方も、持っていた力晶石の小さな欠片にそっとヴァートを流し込んだ。
 それに応じて力晶石の欠片が『成長』を始め、長大な馬上槍へとその姿を変える。
 「準備が良いなら出るぞ。シ……」
 「ここでは、フォリントと名乗っています」
 簡潔に訂正する白の青年。その瞳はいつもの学者バカの呑気さとは程遠い、鋭く冷
徹な光を静かに湛えている。
 「……ならば、行くぞ」
 「ええ」
 そして、二人は戦場へと繰り出していった。
 ある意味あまりに一方的な、殺戮の場へと。


 「?」
 ユウマは、突如吹き出してきた凄まじい闘気の流れに目を細めた。
 「裏手の方か………。面白そうだな」
 好奇心を一杯にした口調で、ぽつりと呟くユウマ。
 やる事のない時だったらさっさと裏手の方に行ってしまったろうが、あいにく今は
ディルハムを待ち受けるという任務が残っている。
 「さっさとディルハムを倒して、行ってみよう」
 この男の子には戦いの前の緊張感など無縁の物らしい。それどころか、この歳で戦
いを楽しむ余裕すら持っている。
 「………来たな」
 市場の方から、それなりに見慣れた鋼鉄の鎧が何体か歩いてきた。今回は全て剣使
いのディルハムらしい。バリエーションがないと言えばそれまでだが、ユウマとして
は相手の得物が何であろうとあまり関係はなかったりする。
 「ティウィン! お客さんだぞ。相手をしてやろう!」
 階下のティウィンにそう怒鳴り、ユウマは眼魔と共に大地亭の屋根から飛び降りた。


 「おや……」
 屋根の上をナイラと共に走っていたシークは、ぴたりと足を止めた。
 「どうした?」
 対するナイラは相変わらずの覆面姿だ。さすがにディルハム相手だと、正体がばれ
るのはまずいらしい。
 「いえ。どうやら裏手の方はもう終わってしまったようで……」
 ほんの数分前に街の裏手から立ち上り始めた凄まじい殺気が、今では何事もないよ
うに消えているのだ。最後まで殺気が弱まったりする事はなかったから、とりあえず
ディルハムではなく殺気の主が勝利を収めたのだろう。
 「そうか……。ならば、我々も急がねばな」
 「ええ」
 雑魚の兵卒級ディルハムではなく指揮官級のディルハムを潰していけば、この圧倒
的不利な戦いにも勝利することが出来るはず。シークはそう考え、ディルハムの戦術
に詳しいナイラとこうして屋根の上を走っているのだ。
 「これだけの部隊規模なら、多分この辺に……いたな」
 足元を見ると、数体のディルハムが集まっている。この内のどれかが指揮官級だろ
う……と、ナイラは予想を付けた。ディルハムの外装はどれもこれも同じ部品を使っ
ているので、兵卒級も指揮官級も、さらにその上の将軍級も全く見分けが付かないの
だ。
 「全く、不便な物ですね……」
 シークはため息を吐くと、腕を水平に構えた。
 「どうするんだ?」
 「こうするのですよ。リストリクト!」
 ゆっくりと腕を引いていき………鋭く一閃させる。
 「なるほど……」
 「雑魚には用がありませんからね」
 腰に差さっていたレイピアを引き抜くと、シークは高い屋根の上からひょいと飛び
降りた。
 動きを完璧に封じられたディルハム達の真ん中へ、ゆっくりと。
続劇
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