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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第3話 そして、巻きおこる嵐(その7)



Act6:そして、明かされるコト(その2)

 
 「まさかお前が来てるとはなぁ……」
 大地亭の庭で夜空を見上げ、シュナイトは苦笑しつつ呟く。
 「意外でしたか?」
 そんなシュナイトを見て、くすくすと笑うティウィン。
 まあ、無理もないだろう。領地の中ですら一人でろくに歩けなかった弟なのだ。ど
ちらかと言えば、来ていると思った方が不思議かもしれない。
 「ははは………父上や母上は元気か?」
 弟の質問には答えず、適当にはぐらかすシュナイト。
 よく考えると、当分領地に帰っていない気がする。何せ、弟のここまでの成長が予
想できなかった位なのだ。当然、両親の顔もかなり見ていない。
 「ええ。叔父様や叔母様達も皆さんお元気ですよ」
 そう言いつつ、懐から一通の書簡を取り出すティウィン。
 「父上からの手紙です」
 「これを届けるためにわざわざデュシスから来たのか?」
 いくらこのユノス=クラウディアがエスタンシアのすぐ近くにあるとは言え、シュ
ナイトの故郷からはかなりの距離がある。少なくとも、たかが手紙を届けるためだけ
に軽く出て来られるような所ではない。
 「いえ。僕も修行の途中ですから」
 「………そうか」
 弟の更に意外な発言に心の中で驚きつつ、シュナイトは受け取った書簡をがさがさ
と広げた。
 その途端。
 「やっほー。シュナイト兄ちゃん、元気ぃ?」
 広げた紙の中央から、10cm程の小さな人影が立ち上がったではないか。
 「こっちはみんな元気だよ。たまには僕みたいに、ウチの方にも帰ってきてね〜」
 立ち上がった影はひらひらと手を振ると、そのままどこへともなく消えてしまった。
どうやら、幻覚の一種らしい。
 羊皮紙製の手紙の上に残っているのは丁寧な字で書かれた文章と……可愛らしい女
の子の絵。先ほど現れた、幻覚の娘だ。
 「琴月か………。あいつ、魔法画士になったんだな」
 父親からの手紙に目を走らせつつ、親戚の娘の名前を口にするシュナイト。
 手紙の内容は何と言うこともない。彼の実家、ソードブレイカー家の近況報告と、
たまには帰って来いというごく普通の内容だ。
 「ええ。僕がこの旅に出るちょっと前に、ふらっと戻ってきたんです」
 と、ふと思い出したのか、ティウィンは懐からもう一通の手紙を取り出した。
 「それと、この手紙も兄様宛てに……」
 「ん……?」
 こちらの手紙は普段デュシスで使われている羊皮紙ではなく、ヴァストーク辺りで
よく使われている『紙』の手紙だ。シュナイトの交友関係は広いが、『紙』などとい
う珍しい素材で手紙を送ってくるような友人はそういない。
 『紙』の手紙に几帳面に描かれた墨の文字を、シュナイトは丁寧に追っていく。
 「へぇ、アヤミか……久しぶりだな」
 差出人の名は、アヤミ・ヒル。ヴァストークの冒険者ギルドの娘だ。ヒルの家はソ
ードブレイカー家とも家族ぐるみの付き合いがあるから、シュナイトもその少女のこ
とは良く覚えていた。
 「今度帰るときにちょっと寄ってみるか………」
 デュシスとヴァストークは全然正反対の方向である。だがあえてその事は気にせず、
シュナイトは夜空を見上げつつ呟いていた。


 「何かの祟り……かな」
 ラーミィはカウンター席に腰を下ろしたまま、ぽつりとそう言った。
 「祟りって……何か悪いことした覚えのある人……?」
 辺りの席に適当に散らばって座っている『氷の大地亭』のスタッフ一同を見回しつ
つ、クローネが言う。
 だが、その問いに返事はない。皆疲れ切って返事を返せない状態なのか、本当に覚
えがないだけなのかは分からなかったが。
 「にしてもねぇ……。この状況は異常だよ、冗談じゃなく。祟りだか呪いだかは知
らないけどさ」
 今日も相変わらず、酒場は謎の大盛況状態だったのだ。おかげで開店からほんの数
時間で材料の方が底を突いてしまい、まだ日が沈んで少ししか経っていないのに酒場
は看板となっていた。
 「ラーミィちゃんもナイラさんも、手伝わせちゃって悪いね。ホントに」
 クローネの言葉にラーミィとナイラは黙って首を横に振る。彼女達は別にクローネ
のためにやっているわけではなく、他の人の為に手伝っているのだ。結果的にクロー
ネ……というか、氷の大地亭のためになっているというだけで。
 「あの、皆さん……」
 ふと、ユノスが唐突に口を開いた。
 「お疲れの所悪いんですが、私の話……聞いて貰えますか?」
 「……ここ一連の騒動のお話ですか?」
 クレスの問いに、真剣な表情で頷くユノス。
 「それは俺達だけで聞いて良い話題じゃないな」
 そう言うと、アズマは椅子を蹴ってがたんと立ち上がった。
 「他の連中も呼んで来ないと……」
 


 「そっか……。お前にもようやく新しい主が……か」
 漆黒の影は小さくそう言い、屋根の上に身軽な動作で腰を下ろした。昼間の眠たげ
な彼と同一人物とは思えない、優雅で華麗な動きだ。
 「は、はい………」
 その傍らにちょこんと腰掛けているのは、小さな妖精の娘。
 (正直、グラハインの所をおん出されたって聞いた時はどうしたもんかと思ったが
……)
 噂で聞いた話では、何やら致命的なミスのせいで仕えていた家を追い出されるハメ
になったと聞く。だが、流石のレリエルもそんな事は口には出さない。相手を傷つけ
ることになるし、何よりレリエル自身があまりそこまで干渉するのは好きではないの
だ。
 更に言えば、マスターを得られなかったという話になれば、今まで一人のマスター
とも出会えなかったレリエルの方が圧倒的に分が悪い。
 「ちっと頼りなさそうだが………」
 庭の方で自らの主と話をしている少年を軽く眺め、レリエルは小さく呟く。
 と、ザキエルからの視線に気付き、さらりと一言付け加えた。
 「まあ、お前の主だ。こっちの方の強さは保証付き……だろうな。何たって、俺様
の主の弟君だ」


 「で、ティウィンはこれからどうするんだ?」
 手紙の件が一段落してから。シュナイトは、隣に座っている弟にそう問いかける。
 「僕は………」
 ティウィンがこのユノス=クラウディアに来た目的は、家からの手紙をこの隻眼の
兄に届ける事だった。今は兄にも会えたし、その目的も果たす事が出来た。少なくと
も、この街でする事は特にない。
 「もうちょっと、ここに残ります」
 だが。
 「あのディルハムっていう古代の遺産とか、気になりますし……」
 それに、何やら戦いが起こると聞く。自分の力がどこまで通用するかは分からない
が、少年は少しでも兄や周りの人間の力になりたかった。
 「そっか……」
 旅に出た時には領地の中でも一人で歩けなかった弟のものとは思えない、しっかり
した言葉だ。シュナイトとしてはそれが嬉しくもあり、何やら寂しくもある。
 「まあ、とにかく気を付けてな。怪我だけはするんじゃないぞ」
 そう言いつつひょいと立ち上がるシュナイト。
 「さて、と。そろそろ風呂にでも入って寝るか。まだ温泉ってやってる時間だよな
………。ティウィン、久しぶりに一緒に入るか?」
 「はい!」
 何年ぶりかのシュナイトの問いに、ティウィンは元気良く答えた。


 こんこん
 叩かれたドアの音に、シークは読みかけの本をサイドテーブルへと置いた。
 「何ですか……?」
 本の内容は暇つぶしに借りてきた物語の本だ。だが、いくら暇つぶしの本とは言え、
クライマックスの山場で遮られたのだから機嫌はあまり良いとは言えない。
 こんこん
 「今開けますよ」
 再びのノックに不機嫌さを露わにしてそう答え、シークはドアを開け放つ。
 「……おや。ナイラさん、貴女でしたか」
 そこにいたのは、ナイラだった。
 「ユノス様が話があるそうだ」
 「なるほど……了解しました」
 ユノスの話と言えば、多分ここ一連の事件の真相についてだろう。シークはナイラ
に返事を返すと、そのまま階下へと向かおうとする。
 そのシークを、ナイラが呼び止めた。
 「……お前、何故私だと気が付いた?」
 覆面を取った姿のナイラがシークに会うのは、確かこれが初めてのはず。だが、シ
ークは何の戸惑いもなく自分のことをナイラと呼んだのである。
 そこが、少し気になったのだ。
 「瞳……ですよ」
 「瞳?」
 繰り返したナイラに、シークは軽く頷いてみせた。
 「貴女のその瞳を見れば、誰かくらいはすぐに分かります。たとえ、覆面でその素
顔を覆い隠していたとしてもね……」


 「私が生まれたのは、ラフィア山地の奥……丁度、皆さんが『霧の大地』と呼んで
いる処です」
 酒場のカウンターにちょこんと座り、ユノスは少しずつ自分の事を語り始めた。他
の一同は酒場のテーブルの適当なところに座り、彼女の話を無言で聞いている。シュ
ナイトとティウィンも、露天風呂に入る前にとこちらへやって来ていた。
 「『霧の大地』がいつ頃出来たのかは分かりません。私達の伝説では、シャーレル
ンとのいさかいに負けたご先祖様達が作り上げた街……という事になっていますが」
 「その辺の所がよく分からないのよね。霧の大地の伝説って、一体何なの? 神様
とか大地の力とかっていう話はよく聞くんだけど……」
 クリオネの呟きに、ユノスは言葉を続ける。
 「そうですね……。なら、そこから話を始めましょうか……」


Act6.5:伝説

 昔、今より遙かに進んだ文明があった。その中で最も大きかったのは、伝説のシャ
ーレルン王国。そして、その伝説の王国を取り囲むかのように、幾つかの王国があっ
た。
 シャーレルンは自らの領土拡大のため、ある王国は駆逐し、またある王国は辺境へ
と追いやっていった。
 その追いやられた王国の一つが、『霧の遺産』。シャーレルンの魔法文明とは異質の
技術体系『カガク』を操る、鉄と炎と水の王国だ。
 かつての王都であったユノス=クラウディアの街から追いやられた『霧の遺産』は
ラフィア山地の奥へと身を隠し、『カガク』の力で新たな街……『霧の大地』を作り
上げた。
 火山性山地であったラフィア山地は『霧の遺産』の力の源である『大地の奥の炎』
は豊富にあったし、良質の鉱脈もあったから鉄を作る事も容易だったのだ。圧倒的に
足りない人手は『カガク』の力で生み出した蒸気動力の人間や獣を使う事で補い、劣
悪な環境さえも『カガク』の力を振るい、自分達の過ごしやすい環境を造り上げる事
に成功したという。

 だが、『霧の遺産』に残された大半の人間達は、シャーレルンと戦おうとはしなか
った。いくら彼らの誇る『カガク』が凄い力を持っていても、シャーレルンの誇る超
兵器『光剣救主』にはかなわなかったからだ。
 もちろん、シャーレルンとの徹底抗戦を唱えた人間達も僅かながらいた。その者達
の行方は……今は問うまい。
 ともかく、継承者達は完成した『霧の大地』に閉じこもり、『霧の大地』の閉鎖さ
れた人工環境の中で、細々と生き延びる道を選んだのである。


 それから、1000年近い月日が流れた。


 『霧の大地』は、二重の滅びの危機にさらされていた。
 一つは、血の限界。もともと閉鎖環境にある『霧の大地』である。種族を絶やさぬ
ようにと繰り広げられた血族間結婚は、1000年という膨大な月日の間に限界を越
えていたのだ。
 そしてもう一つは、『霧の大地』内の人工環境の管理を一手に司っていた『王』の
暴走。『霧の遺産』のカガク技術を結集して創られたバベジと呼ばれるこの環境管理
システムには、撲滅されたはずの徹底抗戦派によって一つの命令が施されていたのだ。
 『外の世界の人間との、徹底抗戦』
 バベジの奥に眠る『大地の奥の炎』の暴走を狼煙に、ディルハムの大部隊で世界の
全てを相手に戦い、勝利する事。それが、バベジに課された今の使命である。
 1000年も昔に施された命令だから変更は既に効かないし、だからといってこの
絶望的な戦いに身を投じる事もためらわれた。


 そして、『霧の大地』に残された僅かな人間達は、一つの結論に達したのだ。
 『霧の大地の、廃棄』という、結論に。
 

Act6(Return):そして、明かされるコト(その2)

 「話が膨大すぎて、今一つよく分からないわね……」
 それはそうだろう。こんな話をいきなりされて信じられるようなヤツなど、そうは
いない。正直、書いた作者本人だってちょっと突拍子もないかなぁ……などと思って
いるのだから。
 「結局、ユノス達の目的はその……バベジとかいうヤツを倒す事なんだろう?」
 非常に簡単にまとめるユウマ。
 「はい。バベジを破壊すれば、『霧の大地』の全てが止まるはずです」
 「で、その人間側……なのか? バベジと戦える戦力は?」
 ユノスの話では、バベジを止めようとしている人間は数少ないように聞こえた。少
なくとも、ディルハムは全部相手にしなければいけないのだろう。ディルハムのあの
戦闘力を考えると、かなりまとまった数の人間でなければ勝ち目はない。
 「人間は…………私達を入れて、20人ほど……でしたっけ?」
 「この間、長老が亡くなられたとマナト様が言っておられた。実質前線での戦闘に
耐えられるのは、私とマナト様……ユノス様の兄上だ……それから、ユノス様を入れ
れば3人だ。後は老人ばかりだからな」
 血族間結婚の繰り返しによる血の限界で、霧の大地にはユノス以降子供は産まれて
いないのだ。危機というのは、本当に深刻な意味で危機なのである。
 「さ………!? なるほど……。そりゃ……下界の人間に助けを求めに来るはずだ
よな」
 堂々とそう言ったナイラに、絶句するシュナイト。いくらナイラやマナトとか言う
男が強いとは言え、そんな戦いは無謀を通り越して自殺行為でしかない。
 「とは言え…………被害は我々にも及んでくるのだ。現に三日後にはディルハムの
部隊がこの街を襲撃するのだろう?」
 ここ数日姿を消していたベルディスの女性……ジェノサリアが、ぽつりと呟いた。
 「降りかかった火の粉は、払わねばなるまい」

続劇
< Before Story / Next Story >



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