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−第2話(中編)・Prologue−
 『ユノス=クラウディア』という街がある。  エスタンシアの降下した地・モンド=メルヴェイユのさる街道添いにある宿場街 だ。  周囲を乱気流の吹く険しい火山性山地…ラフィア山地に囲まれており、街道以外に はまともな侵入経路など見当らない。この天然の要害とも言える地形は、コルノやプ テリュクスの侵略を防ぐ絶好の防壁として機能していた。  さらに、今はエスタンシア大陸がある。  敵とも味方とも知れない未知数の力を秘めたこの浮遊大陸が睨みを効かせている以 上、コルノ・プテリュクス両陣営とも、うかつな侵略行動は絶対に不可能なものと なっていた。  すなわち、コルノやプテリュクスから独立している街と言う事になる。歩いて数日 の所にあるエスタンシア大陸から入ってくる冒険者、そして、突如として湧き始めた 温泉を目的とした湯治客など旅人の数は非常に多い。  街は、静かだった。  まるで、嵐の前の静けさのように。



読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第2話 嵐の前の……(その3)



Act5:3−Days・二日目

 「う〜ん………。共通点…ねぇ……」
 シュナイトはユノス=クラウディアの入り口近くにある広場…『時計塔広場』のベ
ンチに腰を下ろし、小さくそう呟いた。手元には丁寧な字で色々書き付けてある、羊
皮紙の束がまとめられている。
 彼はディルハム(歩くプレートメイル)とエスタンシア人との関係を調べていたの
だ。だが、分かった事といえば…
 「歩くプレートメイル…正式名称はディルハム。出現回数は今の所三回か……。一
度目は一体のみで、エスタンシア人の吟遊詩人とナイラさんが撃退。二度目は複数、
これは俺達が撃退…っと。三度目は三日前に一体、これは通りすがりのエスタンシア
人が破壊…鍛冶屋ギルドで純粋に金属の塊と判明してる……か」
 他に分かったのは、二度目の襲来時に出た死傷者の情報と、残された轍くらいのも
のである。
 死傷者はディルハム討伐に出た傭兵達だけで一般人の犠牲者はいない。どちらにし
ても、ユノス=クラウディアの街始まって以来の大事件として記録されることになる
だろう。轍の方は見て分かる通り異様な太さの物が一本しかなく、何が通った跡かよ
く分かっていない。
 「目的も何も全然分かんないな……。まあ、いいか…」
 考え込んでいると、頭上から唐突に大きな音が響いてきた。
 このユノス=クラウディア最大の名物『時計塔』の鐘の音である。これは一日に数
度鳴る鐘のうち夕方に鳴る、『夕方の鐘』だ。
 「これもどういう仕掛けなんだか…。噂の『シャーレルンの遺産』ってやつでもな
いらしいし……」
 古代文字とおぼしきレリーフの彫られた円盤の円周上を回転して動く、二本の薄い
板。短い板は一日の間に2周、長い方は一日に20周以上すると言われているが、こ
の運動がどういう魔法的意味を持つ物なのかは分かっていない。正確には、『時計
塔』とその下にある神殿らしき建物には古代からの結界が張ってあって、侵入する事
が出来ないのだ。
 ただ一つ分かっているのは、一日に数回鐘が鳴る仕掛けが施してあるという事の
み。こちらの鐘は生活に都合の良い時間に鳴るので、ユノス=クラウディアの街では
生活の目安として活用されていた。
 「何かの魔法の仕掛けではあるんだろうがなぁ…」
 羊皮紙の束を置き、綺麗な鐘の音にシュナイトは耳を澄ます。昼食によった氷の大
地亭で響いていた騒音…温泉の入浴施設が出来るらしい…とは比べものにならない程
に綺麗な音だ。
 と、『時計塔』を見上げたシュナイトの背中に、ぶつかってきた人影。強めの地震
に、足元を取られたらしい。
 「失礼」
 短く謝り、人影はそのまま『時計塔』の方へと歩いていく。声の調子からどうやら
女性らしいが、マントとフードに隠されて中の顔は見えなかった。
 そのような人物はこのご時勢にそれほど珍しくないはずなのだが……
 「あれは……」
 何となく見覚えのあるその姿に、シュナイトは小さく首を傾げた。


Act6:湯煙の惨劇(笑)

 かたん……
 軽い音を立て、堅く閉ざされていた鎧戸が開く。『氷の大地亭』の建物の手入れは
意外と良いらしい。
 そこから現われたのは、一人の影。フード付きの分厚いマントをまとっている筈な
のに、その動きは軽やかだ。
 宙を舞うかのように、軽いステップで夜の街へとその身を踊らせる。
 「日も沈んだな…。ならば、これは必要ないか…」
 小さく呟き、影は優雅な動作でフードを払い除けた。
 現われたのは、美しい青年の顔。
 白銀の長い髪が申し訳程度に灯った街灯に反射し、きらきらと光を放つ。
 「さて……。我が姫君は一体どこにおられるやら…」
 そして、青年…シークは、夜のユノス=クラウディアの街へとその姿を消した。


 「時間ごと…なのね」
 クリオネは脱衣所に掛けられている看板を眺め、そう呟いた。
 ポッケの開業した入浴施設は、最初の2時間は男湯、残りは深夜まで女湯として使
われる事になっているらしい。脱衣所の隅にはその時間を示すためのバカでっかい砂
時計がででんと置かれていた。砂は全部落ちているから、今は女性の入浴時間だ。
 「せや。お客さんには出来るだけ広い入浴スペースを提供したかったからな。ま、
その辺はちゃんと管理しとるさかい、心配せんでええで」
 番台に腰掛けたままで答えるのは、謎のケモノのポッケ。さすがに彼は人間じゃな
いから、女性客からのクレームは付かない。
 今日は温泉の営業開始日。結局利権を取れたのは『氷の大地亭』の温泉場だけだっ
たが、そこはそれ。これから徐々に事業拡大していけばいいという事で……。
 (いずれはレディンはんと…くっくっくっ……)
 新たな野望への第一ステップとしては、まずまずの出だしだとポッケは思ってい
た。
 「まあ、いいわ。変な人はいないみたいだし…」
 辺りを見回し、クリオネは誰ともなしに呟く。徹底的に釘を刺しておいたおかげ
で、今は守護精霊のディルドはここには居ない。
 「それじゃ、お代はここに置くから」
 番台に硬貨を数枚置き、タオルを取る。
 「まいど。今後ともご贔屓にな」


 「ルゥちゃん、大丈夫?」
 「うん。平気だよ、ご主人さまぁ」
 ユノスはルゥの返事を聞いた後、洗面器をゆっくりと傾け、ルゥの背中に少しずつ
お湯を掛けていく。
 「に、にゃぁぁぁぁ〜っ」
 が、ルゥはあんまり大丈夫ではなさそうだ。注射を打つ直前の子供のように、身を
硬くして必死に我慢している。
 ルゥは水が苦手…という事は、もちろんユノスも知っていた。しかし、ルゥの強硬
な「ご主人さまと一緒にお風呂入るの〜っ!」だとか、「ご主人さまぁ。お風呂入っ
たら、洗いっこしようね〜」という意見には逆らえなかったのである。
 まあ、正確にはその後に放たれたルゥ必殺の『無言のぷれっしゃぁ』に負けたのだ
が。
 「はい、おしまい」
 ルゥの背中の泡を全部流しおわったユノスは、彼女の背中を軽く叩き、終わった事
を伝えてやる。こうでもしないと、ネコのような耳まで押さえて我慢しているルゥに
は伝わりそうにない。
 「ご主人さまぁ。今度はルゥが洗ってあげるね〜」
 今までの泣きそうな表情はどこへやら。打って変わって元気になったルゥに、ユノ
スは穏やかな笑みを浮かべた。


 「ユノス=クラウディアか……。街の名前と一緒とは…いかにも偽名という名前だ
な」
 肩より少し下あたりまで湯に浸かりながらそう言ったのは、カイラ。彼女曰く、
「この浸かり方が一番健康に良いのだ」という事らしい。
 「ですが、何か事情があるのではないでしょうか…?」
 心配そうに答えるのはクレスだ。当のユノスは、洗い場の方でルゥの背中を流して
いる。
 「まあ、それはそうなのだろうが……気になるな」
 「何がですか?」
 青く長い髪を丁寧にまとめたクレスは、髪を留めたピンの位置が気になるのだろ
う。それを触りながら、相槌を打つ。
 「考えても見ろ。あの娘と、街を騒がせる奇妙な鎧…ディルハムと言ったか? あ
やつらの出現時期は一致しているのだ。何かしら繋がりがあるとは思わんか?」
 この街に来て数日の間、彼女の耳に入ってきたのはディルハムの事が大半を占め
る。もともとそういう不明瞭な事が大嫌いな彼女は、物凄く気になっていたのだ。
 「けれど、それは時が来ればユノスさん自身が話してくれると信じていますから
…」
 クレアは楽しそうにじゃれあっているユノス達を眺めながら、のんびりと答える。
 「そうか……」
 上っ面だけでそういう事を言う奴なら張り倒した挙げ句に説教の一つもしてやろう
と思っていたカイラだが、どうやら目の前の美女は本気でそう言っているらしい。
 カイラは張り倒して説教するのをやめた。
 「その時が早く来ればいいな」
 「はい」


 ラーミィは風呂場の隅で一人、夜の空を見上げていた。
 掌でお湯をすくい、指と指の隙間をそっと開く。
 (露天風呂なんだもん。どうせならアズマと…)
 指の間から抜けていくお湯を眺めながら、取り留めもなくそんな事を考えていると
……
 「ラーミィ……ラーミィってば!」
 「? アズマの声…?」
 幻聴だろうか。それにしては、妙にはっきりと聞こえるような気がする。
 「まさかぁ。ここは女湯だよ」
 慌てて考えを否定するラーミィ。
 だが、さらに聞こえる声。
 「ラーミィ、こっちだ、こっち」
 その声のする方向に目を遣ると……
 いた。
 岩風呂の隅の入り組んだ形になっている所だから、他の女性客にはまず見つからな
いだろう。そこに、アズマがこっそりと隠れていたのだ。
 「アズマ! まさか………のぞ…」
 いくらアズマと混浴がいいな…とか思っていたラーミィとは言え、あまりにも唐突
な混浴モードである。何はともあれ、慌てて胸元を隠す。
 「バカ! 違うよ。考え事してたら、出そびれちゃったんだ…」
 アズマは行方不明の兄の事を考えていた。だから、男湯が女湯に変わった事に気が
付かなかったのだ。女性客が入ってきた段階で、ようやく自分の危機に気が付いたの
である。
 「これからどうするの? アズマ」
 他の女性客に気付かれないよう、ラーミィも小さな声でこそこそとアズマに話し掛
ける。
 「温泉が閉まるまで隠れとくしかないだろ…。後でポッケに言ってこっそり出して
もらう事にするよ」
 本気で情けなさそうに答えるアズマ。見つかったのがラーミィなのが、せめてもの
救いだろう。
 「あ、ラーミィ」
 「何?」
 アズマの方を見ないようにして、ラーミィも答える。誰もこちらの方を見てはいな
いが、視線で気が付かれてはアズマがヤバい。
 「黙っとくのがイヤだから一応言ったけど、お前の方も絶対に見ないから」
 「うん…わかった」
 ラーミィは自然を装って岩風呂に背中を預け、そう答えた。
 嬉しいような、少し淋しいような、そんなフクザツな気持ちで。


 「お客さん、凝ってますねぇ……」
 レディンは客の青年…シュナイトの背中に乗っかったまま、さらに力を込める。
 「そうかな? 俺はあんまり凝ってるとは思わないんだけどね……いたたたた」
 「ほら、痛いって事は凝ってるって証拠ですよ」
 この男、賭博師然とした外見に似合わず、意外にもマッサージが得意であった。慣
れた手つきでシュナイトの凝った場所を軽快に解していく。
 ここは、温泉に隣接して建設された、娯楽室。風呂上がりの客目当てのギャンブル
のテーブルだけではなく、マッサージ台まで完備された、何とも豪華な代物だ。
 レディンはポッケからそこの管理を任されていたのである。いや、レディンはこの
娯楽部門の指揮権を貰う事を条件に、ポッケに協力していると言ってもいい。
 「そっかぁ…。まあ、最近は色々あったからな…」
 「例の『歩くプレートメイル』ってヤツの事ですか?」
 レディンは実際に見た事はないが、街に流れる噂は大量に仕入れている。相手の話
にあわせられる巧みな話術も、こういう仕事には必要不可欠なのだ。
 「へぇ…。お兄さん、情報が早いね……。ん?」
 そんな世間話をしていると、シュナイトの脳裏に一瞬、何かの姿がよぎった。
 先程見かけた、フードの人物……。
 「そうか。さっき見たあの人…ナイラさんだ!」
 「ナイラ? たし…!」
 いきなり起き上がったシュナイトに対応し切れず、レディンはマッサージ台から床
に落下してしまう。
 「か、3mのヴァスタシオン使いの覆面の姉さんですか?」
 それでもお客さんに話を合わせようとしたのは、見上げたプロ根性…と言うべき
か。
 と、天地が逆転して映っているレディンの黒い瞳に、男の子の物らしい足が映し出
される。
 「彼女の話、僕にも聞かせてもらえるか?」
 現われたのは、フルーツ牛乳を持って、片手を腰に当てた男の子……ユウマ・シド
ウだった。


 「あら? ユノスさん。どうかされましたか?」
 隣に入ってきたユノスの妙に元気のない様子を見て、ラミュエルは思わず声を掛け
た。
 「ううん。別に…何でもないです」
 ラミュエルの方をちらりと見遣ると、再びどよ〜んとした空気を背負ってユノスは
お湯の中にしゃがみこむ。
 「ルゥさん。ユノスさん、どうかされたんですか?」
 今度はラミュエルはユノスと一緒に入ってきたルゥ(お湯の中に入るだけあって、
流石に少し硬かったが)に声を掛けた。
 「ルゥも分かんないの。ご主人さまと一緒に体洗ってたんだけど……」
 こちらもあまり元気がない。ただこちらは、お湯の中にいるという事と、ユノスに
元気がない事が原因だろう。
 「その時に何かあったんですか?」
 「う〜ん……」
 ルゥは首を傾げる。が、少しして口を開いた。
 「ルゥね、ご主人さまの体洗ってたの。それでね…」
 ごにょごにょごにょ。ルゥはラミュエルの耳元で二三言ささやく。
 「はぁ……ルゥちゃんよりは大きい…ですかぁ…」
 ラミュエルはルゥのフラットな胸元をちらりと見、それからユノスの胸元に目を
遣った。
 「う〜ん……」
 何となく、温泉の中だというのに解いていない三つ編みをもてあそび始めるラミュ
エル。何というか、流石に彼女の事がいたたまれなくなったのだ。
 「に……」
 そのお湯の中でゆらゆらと揺れる三つ編みを、ルゥはじっと見つめていた。


 「あら……?」
 風呂からさっさと上がってきたクリオネは、思わず小さな声を洩らした。
 どこの風習か、入り口に掛かっている『女湯』と描かれたノレン。その近くに、見
慣れた男の子が立っていたのだ。
 「ユウマ君。どうかしたの?」
 そこに立っていたのは、ユウマ・シドウ。顔を真っ赤にして、直立不動の姿勢で
立っている。
 まさかこの歳でお風呂上がりの女の子をナンパしよう…などというわけではあるま
いが…。今日は男湯は終わってしまったし、ユウマがこんな場所にいる理由がクリオ
ネにはそれくらいしか見つからない。
 「き、ききき…君を…待っていたんだ!」
 顔を真っ赤にした挙げ句、ユウマは全然違う方向を向いて返事…というか、叫び声
を返す。普段と少し違う湯上がりのクリオネの雰囲気に、さすがに戸惑っているのだ
ろう。
 「その歳でナンパ?」
 クリオネはその言葉に、ごくごく簡潔に答える。その声は、冷静…というよりも、
『冷たい』とか『冷めた』のレベルに達していた。
 「ち、ちち、違う!」
 瞬時に否定するユウマ。何度か深呼吸をして息を整え、ようやっといつもの口調で
口を開く。
 「ナイラの居場所が分かった。この街の『時計塔』の広場で今日、シュナイトが見
たそうだ。多分、あいつはそこにいる」
 まだ視線はそらせたままだったが。
 「なるほど……で、私を待ってた理由は? さっさと行けばいいのに」
 先程の冷たさのなくなったその問いに、ユウマは小さく笑みを浮かべ、答えた。
 「協力してくれる者を出し抜くような真似は僕の美学に反するし、第一美しくない
からな。行くぞ!」


 「に………」
 目の前で揺れる、『ふさふさしたもの』。
 「うにに……」
 それは、いたく彼女の『人以外のモノの本能』を刺激していた。それはもう、刺激
しまくっていた。
 「にゃぁぁぁぁっ!」
 もう、我慢できない。
 ルゥはラミュエルの三つ編みに、容赦のない特攻をぶちかましていた。

 ゆらり……
 ルゥにぶちかましを掛けられてお湯の中に沈んだラミュエルは、ゆっくりと立ち上
がった。丁寧に編み上げた三つ編みが含んだお湯の重さに負け、ばさりと広がる。
 ぎぃぃ……
 ゆっくりとした動作で足元のルゥの方を向く、ラミュエル。何とゆーか、アクショ
ンが大変怪しい。
 「にゃ……?」
 さすがにその場の激ヤバな雰囲気を悟ったのだろう。いつの間にむしり取ったの
か、ラミュエルの三つ編みを留めていた髪留めをくわえたまま、ルゥは落ち込んでい
るユノスのもとへと水中ダッシュで離脱する。
 ぎぃぃぃぃ……
 目標が居なくなったからだろうか。ラミュエルは再び顔をぎぃぃっと動かし、目標
を求める。
 ぃぃぃ……
 動かしていた頭が止まり、無表情だった口元が、「にやり」と歪む。
 「え?」
 いきなり視線が合ってしまったのは、ラーミィ・フェルドナンドであった。


 「え、えーっ……と…」
 ラーミィは困っていた。
 さっきまではのんびりとアズマと嬉し恥ずかしの混浴タイムを楽しんでいたのだ。
温泉が閉まるまでアズマとゆっくりして、お客さんが誰も居なくなってからポッケに
頼んで二人でお風呂から出れば、万事問題はなかったはずなのに。
 「あの…その……」
 目の前に歩んでくる、大柄な女性。背中の翼もお湯を吸っているから、危なっかし
いバランスでゆっくりと…しかし確実に…ラーミィのもとへ歩み寄ってくる。
 その様子は、結構…いや、かなりコワい。
 「は、はろー」
 とりあえず、手なんかゆらゆらと振ってみるラーミィ。
 ざばり
 と、ラミュエルの歩みが止まった。
 「? ど、どうかしましたかー?」
 キュピーン!
 その瞬間、ラミュエルは目から激しい光を放ち、ラーミィに向かって猛然とダッ
シュを掛けた!
 「こ、この人なんかコワいよぉぉっ!」
 響き渡るラーミィの叫び!
 そこへ現われたのは…
 「ラーミィっ!」
 岩風呂の片隅にこっそり隠れていた、アズマ・ルイナーであった。


 「へぇ…君も恋人募集中…なのかぁ…」
 「お互い大変ですね……」
 シュナイトの背中に鍼を打ちながら、レディンはのんびりと相槌を打つ。何時の間
にかマッサージから鍼治療に移行していた。
 どどぉぉん………
 その途端、地面がぐらぐらと揺れる。
 「? 地震かな? にしては、やけに激しいような…」
 「変な悲鳴が聞こえませんでしたか?」
 鍼を打とうとした手元が狂わなかった事に内心ほっとしながら、小さく相槌を打つ
レディン。
 「悲鳴……どうかな? レリエルは聞こえたか?」
 だが、台の傍らに置いておいた魔剣からの返事はない。夕方に無理矢理叩き起こさ
れた挙げ句に、温泉にまで強制連行させられたのだ。
 早い話、拗ねているのである。
 「レリエルってば」
 返事のない魔剣をゆさゆさと揺すり、シュナイトは再び声を掛けた。
 「女湯を覗いたバカでもいるんじゃねか? 悲鳴って女湯の方から聞こえたしよ」
 「まさかぁ」
 ようやく返ってきた返事に、苦笑するシュナイト。
 まさか、そのバカが本当にいたとは知りもせずに。
続劇
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