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イマドキのリストラ事情



その6 イマドキのリストラ事情

 昼下がりの公園。
 遊んでいた小さな子供達やその母親達は昼食を食べに戻っているし、弁当を持ったサ
ラリーマンやOL達が来るにはまだ幾分か早い。
 奇妙な空白の中にある、昼下がりの公園。
 そんな場所に、一人の青年がいた。
 開きっぱなしの就職情報誌で顔を覆い、ベンチにもたれ掛かっているその姿は、束の
間の微睡みを楽しんでいるようにも見える。
 と、そこに、一人の少女が現われた。学校を途中で抜け出した女子高生だろうか。昼
休みにお弁当を食べにきたOLと言うには、妙に年若く見える。
 「やっと……見付けた!」
 男の顔に掛かっていた就職情報誌を問答無用でひょいと取り上げ、少女は叫んだ。
 「や、ミユキちゃん。久しぶり……」


 「そっかぁ……。まだお仕事見つかってないんだ」
 カズマの隣に腰を下ろし、ミユキはカズマの話に相槌を打つ。
 「まぁな。ま、無差別に回ってるから何とかなるだろうけどよ。いざとなったら知り
合いの会社に転がり込むって手もあるし」
 そういえば、こないだ借りた3万ってまだ返してなかったな……などと考えながら、
カズマは中学以来の悪友の顔を思い出す。
 「けど、よくこんなトコまで探せたな。見つかるなんて全然思わなかった」
 この公園はミユキの会社からは電車で30分くらいの所にある。引っ越し先の住所は
会社の連中はもちろん、前のアパートの管理人にも言っていないし、知られるはずはな
かったのだが……。
 「あたしも結構探したんだよ。そしたら、居酒屋でカズマくんの友達って人に会って
ね。あいつだったらよくここに居るよ……って教えてくれたの」
 この近辺でカズマの住所を知っている連中など、たかが知れている。その中でミユキ
の事を知っている人間となると。
 「……ハジメか。あの野郎」
 あれほど内緒にしとけって言ったのに……。こりゃ、あの3万はチャラだな……と、
カズマは心の中で勝手に決めた。
 そんな事を考えていると、どこからともなくサイレンの音が聞こえてきた。この辺の
役所は今だに12時の教育サイレンを慣らす習慣が残っているのだ。そこに至って、カ
ズマはようやく一つの疑問に気が付いた。
 「そういえばミユキちゃん、今日会社は? まだ昼休みじゃないだろ?」
 「ああ、会社かぁ……」
 その質問に、ミユキはいつもの本当に可笑しそうな笑顔を浮かべる。
 「あそこ、あたしも辞めたんだ」
 「は?」
 カズマは一瞬、耳を疑った。
 「辞めたの? あの会社」
 「うん」
 バカみたいに繰り返されたカズマの言葉。その言葉に、ミユキは元気よく首を縦に
振った。


 「そっか……。辞めたのかぁ……」
 カズマはミユキの本心を聞いていたから、彼女の退職も予想できない事態ではなかっ
た。だが、まさかこんなに早く辞めるとは……。
 「何か会社の方、大騒ぎだったけどね」
 相変わらず可笑しそうに笑うミユキ。まあ、それはそうだろう。会社の看板となるべ
き若き幹部候補が何の前触れもなく辞表を出したのだ。さすがにリストラ候補生だった
カズマとは待遇が違う。
 「で、これからどうすんだ?」
 カズマは僅かだか退職金もあるし、当分は失業保険も出るから、何とか食い繋いで行
ける。しかし、ミユキはそうはいかない。実質、一ヵ月程度しか働いていないのだ。
 「う〜ん……。特に何にも考えてないけど……そうだ」
 ミユキは何を思いついたのか、今までで一番機嫌のよさそうな笑みを浮かべ、一言だ
け呟いた。
 「カズマくんとこに……永久就職でもしようかな」
イマドキのリストラ事情・おしまい
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