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 広い会議室の照明は、そのほとんどが落とされていた。
 しかし、光はある。OHPから投射された、スライド写真の光が。
「多久君」
 その写真を苦々しげに見やりながら、超高級ブランドのオーダーメイドの背広をまとった男はもっと苦々しげにその名を呼んだ。
「はい」
 答えるのは白衣の男、多久カズヱ。隣には魚沼係長もいた。
「このさとうあきおという男、君が選んだと聞いたが……。どうにかならんかね?」
 スライドに映るのは、破壊された巨大メカ……ではなく、破壊された店舗と破壊された乗用車と破壊されたビル……etc。
 いわゆる、被害報告というやつだ。
「素晴らしい破壊力。ぼくの雷守は完璧ですね。チョー完璧というべきか、マッハ完璧というべきか……」
「これでは能力者のケンカと変わらん」
 自己陶酔にドロップキックし、高級背広の男は苦々しげな顔を露骨に歪めた。
 能力者同士のケンカで余計な被害を出さないようにするのが、飯機攻人プロジェクトの本分である。それが能力者のケンカに成り下がってしまっては、本末転倒もイイトコロだ。
「ドロップキック完璧ですか? それはちと、語呂が悪いような……」
 鼻血を流しながらも、一歩先を行く天災の陶酔が止む事はない。
「というわけで、我々は雷守の遂汎者を独自に募集する事にする」
 広い会議室の照明が灯り、OHPの光が消える。部屋にいた数人の男達が次々と退席し……後に残るは、天才と呼ばれた鼻血男がただ一人。魚沼ですら、姿を消していた。
「どうぞご随意に。尤も、ヒイロを越える遂汎適合者はいないと思いますが……ね」


飯機攻人キャプテンライス
第3話 完全なる汎機攻人


「へー。再募集すんのか」
 広報から回ってきた回覧を見やり、平穏はどうでも良さそうに呟いた。
「あ、そこ邪魔」
 将棋盤が乗ったままの机の上を拭こうとした清掃員を一言で退け、投げやりに隣の席へ回覧を回す。
「へー。再募集すんの」
 平穏から回ってきた回覧を見やり、コマチもどうでも良さそうに呟いた。
「あ、そこ邪魔」
 切ったばかりの爪しか入ってないゴミ箱を拾い上げた清掃員を一言で退け、投げやりに回覧を隣の席へと…………
 隣の席が無かったので、清掃員の男へと渡す。
「って捨てないの。つーか読もうよ」
 持っていたままだった爪切りで男をぶん殴っておいて、コマチ。
「……なんだ。この再募集というのは」
 ようやくどうでもよさげでないリアクションが返ってきた。清掃夫から。
「見ての通り。つーか、別に掃除しなくていーよ」
 不思議なことに、帝都都役所特殊部地域万能物件処理課実働係第一班の占拠しているスペースは驚くほどキレイになっていた。一日に17度も雑巾掛けされれば、そりゃキレイにもなるだろう。
「掃除は俺のソウルワークだ。チリ一つとて見逃しはせん!」
 命に替えても! 男は力説。
「ウチの課以外もやってろよ。邪魔だし」
「管轄外だ。掃除ごとき、ただの待機任務だからな!」
 所詮隠れみの。男は断言。
 で、だ。
「そんな話はどうでもいい。この再募集というのは何だ。中途採用」
 お前は中途採用ですらないだろ……というのは面倒なので言わないでおいて、平穏はやれやれ、と将棋の駒の角で頭をかいた。
「雷守の遂汎者の新規募集だよ。ちゃんと書いてあるだろ」
「第3話で主人公交代は……早過ぎないか?」
「何の話だ」
 いや、別に。
「雷守は俺がいれば十分だろう」
「……まあ、そうなんだけどさ」
 役所の正門が開く1時間前に出勤し、役所の最後の職員が帰るまでサービス残業し、最低賃金に文句一つ言わず、命の危険を伴う任務に無保険無保証危険手当無しで率先して飛び込み、代休と休日手当無しの日曜出勤も当然とばかりに快諾する。
 ある意味、これ以上の人材はいないだろう。
 というか神様でもここまで勤勉には働かなかった。
 だが。
「お前、最終学歴は?」
「高校」
 雷守の遂汎者には大卒以上の学歴が要求されていた。
「着戦の免許は?」
「偽造」
 雷守の遂汎者には偽造ではない着戦の免許が要求されていた。
「能力者試験は?」
「何だソレは」
 雷守の遂汎者にはB級以上の能力者資格が要求されていた。
「今までのお前の活動の被害総額、知ってるか?」
「正義には犠牲がつきものだ」
 雷守の遂汎者には社会的な常識が要求されていた。
「……まあ、そういうコトだ」
 正義ヒイロには、全ての条件が欠落していたのだ。


 遂汎者失格の烙印を押されて死体になっているヒイロをほったらかして、係長と多久が戻ってきたのはそれから少ししての事だった。
「あー。みんな、回覧板は見てくれたかな」
「みましたー」
 口々に返答する帝都都役所特殊部地域万能物件処理課実働係第一班の面々。
「というわけで、我々はその募集の審査員をする事になったから。来週のその日は空けといてね」
 口々に非難を上げる帝都都役所特殊部地域万能物件処理課実働係第一班の面々。再募集の審査会は日曜だったからだ。
 貴重な日曜日を潰してまで能力者のドタバタに巻き込まれたくなんかない。
「ぼくだって休出なんてしたかぁないよ。けどまあ、仕事だから」
 お役所仕事級の割り切りでブーイングをぶった切り、係長は即断即決。
 そして一週間が過ぎ、審査会の当日がやってきた。


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