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20.激闘! キバ対キバ

 華が丘高校体育祭・午前の部、最終競技。
 騎馬戦。
「はーっはっはっはっは!」
 グラウンドに響き渡るのは、高らかな少年の笑い声。
「ウィル、ちゃんと座ってろ! 危ないぞ!」
 男子三人によって作られた騎馬の上で仁王立ちになっている相棒に、八朔は強めの声を掛ける。
 例え立ち上がっていても、騎馬である八朔の肩を支えにしているなら問題はない。だが、よりにもよって腕組みまでしているのだ、この男は。
「ふっ。この私が、馬上で立ったくらいで転ぶなんて思うかい?」
 確かに、移動中も背中のウィルが揺らいだ様子はない。いつもの活動のおかげか、バランス感覚には圧倒的な自信を持っているのだろう。
「バカっ! 上に問題が無くても、馬には問題がな……わぁぁっ!」
 三人の練度の問題ではない。問題は、既に試合開始のピストルが放たれている点だ。
 競技は騎馬戦。
 いわゆる、格闘戦だ。
 攻撃を仕掛けてくるのは騎士だけではない。他の騎馬も攻撃を……いやむしろ、三人ぶんの勢いが叩き付けられてくるぶん、そちらの方が問題ですらあった。
 だが!
「…………ふっ」
 痛烈な横撃を掛けられた八朔達の背中に、既にウィルの姿は無い。
「失礼っ!」
 優雅に宙を舞い、着地したのは敵騎馬の上。再跳躍のついでに相手のハチマキを引っ掛けて、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
「八朔!」
 手の中のハチマキの数は三本。
 そして、八朔達の周囲にいた騎馬の数も、三騎。
「ウィル、もうちょっと掛かる!」
「なら、肩を借りるよ!」
 体勢を整えつつある八朔の肩を蹴って、少年はさらに遠くへ飛翔する。紅組の他の騎馬と戦っていた白組騎馬へと優雅に降り立ち、さらに遠くへ飛翔飛翔。
「もう大丈夫だ!」
「よし!」
 くるりと宙を一回転し、ウィルは何事もなかったかのように自身の騎馬へ。
「…………ほらね? 馬の問題を何とかするのは、騎士の役目さ」
 そして、こうして戦ってくれることを理解した上で、ウィルはわざわざB組から八朔を引き抜いてきたのだ。
「なるほどな……。なら、突っ込むぞ!」
「ああ!」
 体勢を整えたローゼリオン組は、さらなる勢いを持って激闘の中央へと突き進んでいく。


 騎馬戦も半数の騎馬が既に地に伏し、いよいよ佳境を迎えていた。
「あと半数ほどか……まだ行けるかい? 八朔」
「おう。今は向こうが激戦区っぽいな」
 とはいえ、ウィルの戦い方は相当に目立つものだ。下手に激戦区に突っ込むよりも、周囲を遊撃して回った方がやりやすいかもしれない。
「八朔! テメェ! 裏切りやがったな!」
 短いミーティングを遮るようにそんな声を掛けてきたのは、良宇に乗っているレイジだった。
「……っていうかお前、俺がウィルを手伝いに行って良いかって聞いたとき、わかったって言ったじゃねえか!」
「…………そうか?」
 そう言われても、記憶にない。
「そうだよ!」
「むぅ……」
 再度肯定されて思い出そうとしてみても、やっぱり答えた覚えがない。
 まあ、八朔が向こうにいるからには、そうなのだろう。
「まあそれならそれで、やっつけりゃ済むことだろうが! 行くぞ、良宇!」
 レイジの声にパートナーも短く答え、移動開始。
「ならウィル、こっちも行くぞ!」
 それに応じて八朔も動きだし……。
 やがて、ウィルが跳躍する。もちろんただの跳躍ではない。魔法を加えた、常人ではありえない大跳躍だ。
「掛かったな!」
 飛翔したウィルが下降軌道に移ったのを見計らうようにレイジが突き出したのは、自身の魔法携帯だ。
 指す方向はウィルではない。
 八朔だ。
「ちょっ! おま……っ!」
 叫ぶ八朔の足元に絡むのは、粘付く変異を与えられたグラウンド。べたべたと貼り付くそれは、騎馬担当の三人を捕らえたまま離そうとしない。
 ルール無用の華が丘高校の騎馬戦だ。もちろん魔法を使っても問題はないが……。
「ふん。俺が運動が苦手なことくらい、ちゃんと分かってるっつの!」
「初めから相打ち狙いか……」
 ウィルがレイジの元へと降り立つと同時、良宇は今までとは逆方向に全力で走り出す。
「強い将を叩き落とすなら、作戦としてはアリだろ」
 レイジ自身、運動はそこまで得意ではなく、強力な支援魔法も使えない。今まで残っていたのは、ひとえに良宇の体力によるものだ。
 故に、騎馬ではなく騎士を直接狙うウィルの戦い方とは絶望的に相性が悪い。
 しかし、レイジのハチマキを奪い取ったウィルも、戻るべき騎馬へ戻れなければこのまま崩れていくレイジ達と道連れだ。
「強敵と認めてもらえたのは嬉しいね。………ただ、ごめん」
 叫び、ウィルは大跳躍。
 確かに並みの人間の出せる跳躍距離ではないが、それでも結界に捕われた八朔達の元へ戻るにはほど遠い。
「八朔!」
「おう!」
 ウィルが跳躍すると同時、八朔がポケットから取り出したのは、自身の魔法携帯だ。
 口の中で早口の呪文を唱えると同時、魔法携帯から流れ出すのは全く別の着スペル。
「……多重詠唱!? けど、何を今更!」
 アドリブならともかく、決まった魔法の組み合わせであれば、そう難しいテクニックではない。しかし、魔法の解除ならとっくに使っているだろうし、この状況で使える呪文など……。
「でぇぇいっ!」
 呪文の連続完成と同時、ウィルの細身が八朔の腕の動きに従うように、強烈に引き寄せられていく。
「引き寄せって、あんなに強かったか……?」
「………体力を強化したんじゃないのか?」
 良宇に言われ、はたと気付く。
 引き寄せの魔法で寄せられる重量は、術者の力に依存する。ならば、魔法でその体力を底上げしてしまえば………。
「さすがだね、相棒」
 八朔が引き寄せる間に、他のメンバーがエピックを解除したのだろう。ウィルが八朔の肩に戻る頃には、騎馬はしっかりと元の形に戻っている。
「このくらいはな……」
 戻ると同時にピストルの音が木霊して、騎馬戦の終了を高らかに告げた。
「さて。午後の騎馬棒倒しと騎馬玉転がしもよろしく頼むよ、八朔」
「いや、ちょ……おま…………」
 満足そうに微笑むウィルに、慣れているはずの八朔も力なくため息を吐くしかない。


続劇

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