次回予告

「リリは……そうですね。準備が整う十月の半ばには、メガ・ラニカに戻ってもらう事になります」
　華が丘を去るその時に、大魔女の名を持つ彼女は、静かにそう言い残していた。
「嫌だよ……。ボク、みんなと……セイルくんと離れたくなんか……ないよ……」
　世界と仲間。天秤が傾くのは、どちらへか。


「瑠璃呉陸、ルリ・クレリック。不純異性交遊……そして、それに伴う重大な結果により、時の迷宮へ一年間の追放刑とする」
　十六年前。少年と少女に下された審判は、まだ若い二人には苛烈を極める物だった。
「要するに、子供が生まれるまで帰ってくるなって事か……」
　それは、二人の時を越える旅の始まり。


「ツェーウーを封印したのは、あたしと葵ちゃんとローリちゃん、それから菫さんと………封印の中核を担った」
　重なり合うのは、Myth of Near。
「死んだ俺の叔母さん……柚子さん、ですか」
　世界に最も近き神話。皆殺しのソニアの物語。


「ファファ。手紙、何て書いてあるの？」
　少女の元に届くのは、小さな幸せの報告だ。
「うん。ランドさんとラピスさん……赤ちゃん、生まれたんだって！」
　その幼子に付けられる名を、少女たちはまだ知らずにいる。


「百メートル走、次の出走オッズはこれだよ！　掛け金は購買のパン一つから！」
　あんパン、ジャムパン、焼きそばパン。
「賭け事は禁止と言ったでしょう！　……って、はいりもやらないの！」
　教師の自覚が未だ生まれない親友に、二十年来のため息は途切れる様子を見せなかった。


「家族揃って陸の家に居候ってのもカッコ悪いでしょ。あんたのパートナーが暴走したら、手助けくらいしてあげるわよ」
　乱暴な隣人の言葉に、少女が示すのは強い意志。
「レムレムは……暴走なんか、させません！」
　その宣言に、隣人が浮かべるのは獣の笑み。ブランオートの、月の魔女の笑み。


「あんた達がそのコンパスを持ってるって事は……。そうか、時の迷宮で会ったのは、晶ちゃん達だったのか」
　少女の持つ異世界の指針に、男は十七年前の記憶を思い出す。
「1992年なら、ひたすら南東を目指せば着くはずよ」
　かつて違う名を名乗っていた一年を呼び起こし、女は祈りを込めてそう呟くのみ。


「もう十六年に……なるんですね」
　呟くのは、華が丘高校魔法科・十六年の歴史の中で、最も始めにパートナーを失った娘。
「実感などありませんよ。この墓の下には、柚子さんはいないのだから……」
　パートナーだった少女の母親は、先祖より伝わる墓標の前で、ぽつりとそう呟くのみ。


「女王トビムシが華が丘に出てきた抜け道が見つかったって、ホントか？」
　かつてゲートを通らずに現れた、異世界の怪。この世界を崩壊の危機に陥れた、今は亡き異形。
「ああ。今、メガ・ラニカから来た騎士団が警備に当たってるらしい。確か……ハルモニア騎士団って……」
　その騎士団を率いる将の名は……ギース・ハルモニアという。


「風神、雷神。お前らホントに、キュウキ……とかいう怪物なのか……？」
　少年の問いに、双の刃は沈黙を守ったまま。
「…………ったく。こういう時くらい、答えろよ」
　その呟きと共にちり、と走る紫の雷は、世界を支える力に等しきものだ。


「抜け道の封鎖が完了するのは……」

「リリさんがメガ・ラニカに連れて行かれるのは……」

「そうね。そのキュウキに魅入られた子が無事でいられるのは、おそらく……」


　十月十八日。
　華が丘高校の、体育祭の日。



次回、リリック／レリック　第７話
『わたしたちにできること』



「あなた達に出来ることなんか、何もない。ただパートナーと仲良く過ごしていれば……それでいいのよ」


　つづくよ！