28.夏はまだ、終わらない
「………明らかに、性別が反転してるわね」
華が丘高校に駆け込んだルーニに、たまたま保健室にいた魔法医はあっさりとそう言い切った。
「まあいいんじゃない? ロリっ子がショタっ子に変わったって、そんなビジュアル的に変わんないわよ。可愛いし」
「よくない! つか、あいつらはどうなるんだよ!」
ルーニが指したのは、保健室に連れてこられた、リリと八朔だった。その辺りで混乱していたので、とりあえずサンプルという名の代表として連れてきたのである。
残りの生徒も、大半が自分たちの教室に集まっていた。
「でも、何でこんな……薬とかで、何とかならないんですか?」
未だに女の子の声に慣れないのだろう。小柄になってしまった八朔は困り顔のまま、そう聞いてくる。
「事件の原因になったアイテムというのは、どうしたの?」
「天候竜が持って行ったらしい」
晶から聞いた話では、上に放り投げたポーチは、直後に上空を通っていった天候竜の牙に引っかかり、そのまま何処かに行ってしまったという。
ポーチは裏通りで買った出所不明の品だと言うから、中に彼女も知らない薬品か何かが入っていたのだろう。
「なら、まずはそれを見つけてからの話ね。原因が把握できない限り、対策の取りようがないわ」
晶がイタズラで買ってきた薬だというなら、まだ対処のしようがあったのだ。最悪、メガ・ラニカに手紙を出して確認するか、解呪の薬を取り寄せる手もあった。
だが、その薬そのものが分からなければ、解呪の魔法も、対抗薬も作りようがない。
魔法は物理法則を越える超常の力だが、超常の力は超常の力なりの法則があるのだ。何でも解呪する都合の良い魔法など、魔女王でも使えない。
「どうやって見つけるんですか!」
立ち上がったのは、この暑い中でコートを羽織った長身の少年……リリである。
なにせ、八朔とは反対に体格が二サイズ近くも上がってしまったのだ。さらに男の姿で女物のワンピースを着るわけにもいかず、ブランオート家でもらったままだったコートを肩から羽織る羽目になっていた。
帰ったら、父親の服でも借りなければ家から出られそうにない。
「天候竜の巣にでも行ってくるしかないでしょうね」
ローリはそう言うが、天候竜の巣の場所など見当も付かなかった。
図書館で資料を漁れば、探す事が出来るだろうか……。
だが、その前にもっと大きな問題がある。
「そうだ! 臨海学校はどうするんですか? もう明後日なんですけど……」
八朔の言葉に、リリも顔を青ざめさせた。
明後日からは、臨海学校だ。いかにお気楽なリリでも、たった一日で天候竜からポーチを取り戻し、さらに解呪の魔法まで準備できる……などとは思わない。
「そんなの当たり前だろう」
何事もなく言い放つルーニに、二人は安堵のため息を吐く。
さすがに臨海学校は中止だろう。一年の生徒全員がこの状態では、まともに事が進むはずもない。
「普通に参加してもらうわよ」
やはり平然と続けるローリに、ルーニも当然のように頷いてみせるのだった。
夏は、まだ終わらない。
続劇
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