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2.力の証明

 夕焼けの中。鈍く光る関節を重々しく軋ませ、巨大な甲冑兵士は大地に膝を着いた。
 獅子の意匠が施された胸当てがゆっくりと開き、その中から小柄な少年が姿を見せる。
「今日は12匹っと。こーら、動くなって」
 開口一番にそう叫び、自らの重装獣機『ハイリガード』の肩鎧に嬉々として撃墜マークを書き込んでいく。
 その数は既に50に届こうとしていた。連日の出撃に加え格下の『魔物』が相手の大半はいえ、少年が獣機を駆るようになってわずか数日。桁外れのペースと言って良いだろう。
「随分とスコアを稼いでいるようだな。ロゥ・スピアード」
 愛機に何やらやっている少年を皆が遠巻きに眺める中、声を掛ける銀色の獣機があった。
 制圧隊の副長にして指揮官代理、シェティスの騎体『銀翼のシスカ』である。
「まあな。副長は今日何匹落とした?」
「21……だったかな」
「ちぇ。さすがにアンタにゃ敵わねえか」
 興味なさそうに呟くシェティスに気のない返事をしながら撃墜マークを刻み終わり、ロゥは満足げにそれを一瞥。
 ふと、思い出したように口を開く。
「そういや、副長は獣機に撃墜マークとか入れねえの?」
 己の強さを示すためや修行の証として、自らの武具に倒した敵の数を刻み込む傭兵や武芸者は数多い。だが、この隊で獣機にそれを刻む者をロゥは一人として見た事がなかった。
「せんよ。『シスカ』が嫌がる」
 その言葉と共に音もなく『シスカ』の胸部装甲が開き、中から銀髪の少女が姿を見せた。ロゥと同じく『魔物』討伐から戻ってきたばかりだというのに、汗一つかいた素振りがない。
「そんなもんかねぇ……」
 もちろん、倒した敵の数など気にしない者も同じようにいる。たまたま、この隊にはそういった輩ばかりがいるのかもしれないが……。
「そうだ。副長さんよ! 明日は二人組でやってみねえ? 二人で組みゃ、スコアも50は堅いぜ。きっと!」
「ふむ……考えておこう。……シスカ!」
 凛とした。それでいて穏やかな声で少女が愛機の名を呼ぶと、主と同じ銀をまとった鋭角の獣機は自ら片膝を折り、少女の乗った掌をゆっくりと地面に降ろす。
 銀色の獣機の繊細な掌から優雅に舞い降りると少女はロゥに軽く手を振り、迎えに出ていた赤い髪の女と自らの天幕へ去っていった。


「随分調子に乗ってるみたいだね。あの坊や」
「驕るだけの成果は上げているが……通過儀礼だよ。自分達もよく喧嘩していたものだ」
「……喧嘩してた? 誰と」
 女の問いに少女はふふん、と笑い、答えない。
 おおかた整備兵あたりと揉めるのだろう、と適当に見当を付け、赤い髪の女もその話を忘れた。獣機使いの事は畑違いだし、いいスコアを上げた新人が天狗になるのはいつもの事だ。
「それより雅華。作戦草案は?」
 やや意地の悪い笑みから一転。16歳の少女も指揮官代理の顔に戻り、頼もしい参謀代理に報告を求める。
「周辺の地形資料は今日の報告で全部揃うよ。基幹作戦も3つには絞っといたから、後はあんたらで適当に決めな」
「助かる」
 グルーヴェ軍の方針は満場一致で魔物の巣『赤い泉』の殲滅に決まっていた。後背の憂いを断ち、ついでに補充兵との練度を上げる。もともと対魔物戦隊であるシェティス達にとって、『赤い泉』は手頃な相手と言えた。
 それに、動きの鈍いスクメギはスパイの報告を待ってから動いても遅くない。
「ま、明日の本番じゃ、私らの分まであんたらに働いて貰うけどね」
 敵勢力の偵察と周辺に巣くう下位魔物の掃討は今日で終わり。本体の布陣も目星がついた。
 泉本体の制圧戦は、いよいよ明日。



続劇
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