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9.最初の、一歩へ

 それから、しばらくの時間が過ぎました。

 大陸は滅びの原野がなくなって、とても混乱していたけれど……みんな戦うどころじゃなくなって、土地の調査や南北の土地の配分、開墾で忙しくしています。

 イズミルは危ない時期もあったけれど、母様や万里様、プレセアたちみんなのおかげで、キングアーツとイズミルの緩衝地域として今も無事に残っています。
 山を挟んだ東西のルートも開拓されて、南北を結ぶたった一つの交易都市……という地位はなくなってしまったから、どちらかといえば両国の話し合いのための中立地帯っていう感じですけれど。

 とはいえ、大陸中央の交易都市という条件は相変わらずですから、実のところは滅びの原野があってもなくても、イズミルの役割は変わらなかったのかもしれません。

 そんなわけで、世界は少しずつ、変わっています。

 たくさん話し合って、理解して……それでも通じない事はあるけれど、それでも、みんなで少しずつ歩み寄りながら、それなりに上手くやっています。

 それは、あたし達も同じで……………。

「おーい!」
 遠くから掛けられた声に、娘は開いていた日記帳を閉じ、そっと立ち上がた。
 緑の草原を渡る風が、娘の長く美しい金の髪と真っ白なワンピースを揺らし。その傍らにある苔むした巨岩を撫でて、空の彼方へと昇っていく。
「……どうした」
 黒地に金の装飾の残る巨岩……かつての愛機をちらりと見遣り、美しい娘は静かに首を振ってみせる。
「ううん。何でもない」
 駆け寄ってきた男の方へと視線を戻せば、その向こうには彼より少し小柄な青年と、幼子を抱えた白銀の髪の娘の姿も見えた。

 膨らみかけのお腹を愛おしむように軽く撫で。その手を、頭上にゆっくりとかざす。
 娘の指にはまるのは、金の月を刻んだ指輪。

 そして、娘が口にした言葉は……。


終劇

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