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8.次の世界へ

「カズネぇ………っ!」
 荒野に響き渡るのは、押し殺すこともない泣き声だ。
「…………うぅ」
 ダンも、ペトラも声を我慢する事なく。
 セノーテさえも、俯いたまま。
「どうしたんだい?」
 そんな彼らに掛けられたのは、頭上からの声だった。
 大型の部品を幾つも背負った補修用のアームコートである。イズミルの周辺を回るだけのつもりだったのだろう。開けっ放しになっていた操縦席から顔を覗かせるのは……。
「父様……」
 ククロ・クオリア。
 セノーテの父を名乗る男であった。
「あー。こりゃ、ひどくやられたねぇ……」
 ククロは操縦席から身軽に飛び降りると、ダンの膝枕で瞳を閉じた半身のカズネをひょいと覗き込む。
「やられたねぇって、ククロさん……!」
 いかにククロが技術畑の人間と言っても、限度というものがあるだろう。流石のペトラも声を荒げかけるが、ククロは気にした様子もない。
「ほら、早くニーズホッグに乗っけて。工廠に連れてくから」
「…………へ?」
 言われて、気付く。
「全身義体のカズネがこのくらいで死ぬわけないだろ?」
 当然とばかりに呟くククロの言葉に、ダンがカズネの口元にそっと耳を寄せてみせれば……。
「…………寝てる」
 小さな寝息は正常で、生死がかかっている雰囲気などどこにも感じられなかった。
「こらカズネ! 起きろ!」
「……んぅ。何よ……」
 内部の人工筋肉の幾つかが断線しているのだろう。力の入らない手をだるそうにしながら、カズネはうっすらと目を開く。
「あ、ククロー。いまから修理?」
「そうだよ。下半身まるまるなくなってるから、消化器と子宮は再生になるなぁ……」
 キングアーツの義体技術だけでは諦めるしかなかった特殊な臓器も、神揚の技術を応用することで問題なく再生出来る。自分達で切り開いた技術ながら、便利な時代になったなと思う。
「え、ご飯食べられないの!?」
「消化器関係はまあ、セノーテの予備部品で応急処置は出来ると思うけど……」
 小さく何事かを考えていたククロだが、やがてダンの肩をポンと叩いた。
「あと三年は我慢できるよね? ダン」
「……ちょっとククロさん。何をですか?」
「そりゃ、赤ちゃ……」
 慌ててククロの言葉を大声で誤魔化そうとするダンに、カズネはきょとんとした顔をしたままだ。
「何よダン」
「お前は知らなくていい……」
「ああそうだ、ペトラ。セノーテもそのへんはちゃんと作ってあるからね」
 教える教えないで言い争いを始めたカズネとダンを微笑ましそうに眺めながら、イズミルきっての天才技術者は思い出したようにそんな事まで口にする。
「え、あ、その…………セノーテ!?」
「ペトラが、望むなら……」
 白熱する口喧嘩と、顔を真っ赤にした二人。
「ほらほら。早くしないと工廠の作業台埋まっちゃうよ。送っていくから、乗った乗った!」
 そんな四人を背中の荷台に追いやって、ククロは上機嫌で操縦席へと昇っていくのだった。


続劇

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