「こんなはずじゃ、なかったのに……」
それは数百年の間、ずっと繰り返されてきた言葉。
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
存在と引き替えに巻き戻した歴史。
弾き出された刻の向こうで彼女が見守る中。
甦った愛しき者がした事は、新たな歴史で彼女を知らずに笑って過ごす事ではなく……彼女への想いを歪ませたまま、世界を薄紫の霧で包み、南と北に退ける事だった。
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
魂が流れ着いたのは、刻を越えて存在する古代の遺産。
大いなる英知の片隅で、彼女が静かに見守る中。
彼女の遠い裔が行なったのは、愛しき者の裔と結ばれる事ではなく……彼女の遺した力を使い、巨大な帝国を築き上げる事だった。
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
幾度も幾度も繰り返される時巡り。
世界の果てで彼女が泣きながら見守る中。
彼女の裔は、ひとり、またひとりと歴史の外へと弾き出されていく。
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
その光景が繰り返される度に心は乱れ、擦り切れ、それでも刻を外れた魂は、燃え尽きることを許されなくて。
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
全てを終わりにしたい。
そう願いながらも、それは叶わず。
「こんなはずじゃ……」
涙も尽き、声も枯れ果てたそこに伸ばされたのは、小さな手。
「こんな……はずじゃ」
神でも、王でもない。
ただの少女としての名を呼んでくれた、その手は……。
〜The last one step〜
第6話 『最後の一歩』
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