「……あの娘は見つからんか……」
玉座なき王の間に響くのは、静かな男の声だった。
夜の闇の中。
油の灯火も神術の明かりもないその広間には、幾つもの影がわだかまっている。
「アーレス・鏡を逃がしたのも、失策だったな」
「……良いではありませんか」
男を穏やかにたしなめるのは、女の声だ。
彼の言葉の端々には、気持ちを抑えようとしながらも隠しきれない苛立ちが宿っていた。長年を共に過ごして来た女には、それが手に取るように分かる。
「既に手は打ってあります」
籠の外へ逃げたとて、結局は同じ事。
それに籠から逃げられるのであれば、その外をさらに大きな檻で囲ってしまえば良い。
脚輪を付け、リードで繋いでしまえば良い。
「全ては、我らが主の意のままに」
女は小さく呟き、玉座なき広間でそっと片膝を着いてみせる。
そこに蠢く闇は、彼女の言葉に答える事もなく、ただ静かにわだかまっているだけだ。
〜The last one step〜
第2話′『海賊と姫君』
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