細い繊維を梳いて作られた紙に落ちたのは、大粒の涙であった。
次々と滴るそれは墨文字を濡らし、滲ませ。やがて震える細い指が、握った手紙の端をくしゃりという音を立てて歪ませていく。
「……あんまりです。お父様」
押し殺すような怨嗟の言の葉に、彼女の傍らにいた青年は、細い肩を生身の左腕で抱き寄せるだけ。
彼も帝都から届いたばかりのその手紙に目を通してはいた。けれど北の王国生まれで南の帝国の習わしに疎い彼としては、その手紙の真意を読み取りきる事は難しい。
ただ彼女の反応に、それが彼が思うよりはるかに重大な事なのだと思いを巡らせるのが精一杯。
「ペトラ……ごめんなさい……。ごめんなさい………っ」
愛しい夫に抱かれ、狐の耳をあやすように撫でられながら。
狐の性質を備えた女性の泣き声は、ゆっくりと広間に広がっていく。
〜The last one step〜
第2話 『亡国の王子』
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