その地にも、風は吹く。
薄紫の霧に覆われた呪われた地。
滅びの原野と呼ばれる、死の荒野にも。
風が吹き、砂を巻き上げ、それがその領域を広げることはなくとも……彼の地を歩く者の行く手を阻むことはためらわない。
歩く者は、ただ一人。
否、それを一人と言うべきか。
赤毛の犬の頭を備えた、人ならぬ大きさの体躯を。
歩みは鈍く、限界は近い。
そいつの赤い瞳に映るのは、永劫に晴れぬ薄紫の霧と、巻き上げられた砂の嵐ばかり。
防砂を兼ねた分厚いマントの隙間から獣毛と甲冑に覆われた手を伸ばし、そいつは小さく呟いた。
人の声で。
まだ若い、少年の声で。
「この世界を、もう少しだけ……!」
伸ばす手の先にあるものは、救いか、それとも……彼方の、幸せな思い出なのか。
力なく開かれた赤い瞳に最後に映ったのは。
少年も良く知る、黒金の騎士の……。
〜The last one step〜
第1話 『20年後の世界』
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