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17.激戦開幕

 黒い渦に飛び込んだ先に広がるのは、黒大理に覆われた巨大な広間だった。
「ここが……ネクロポリス」
 空間に穴を開けるというイメージは良く分からなかったが、何かの通路を作るというより、壁に穴を開ける感覚に近いのだろう。それらしき空間や回廊のような物はなく、渡った先で気が付けば、そこは既に目指す場所であった。
「ふむ……人の住むべき場所ではないな」
 一面に広がる黒い床、黒い壁、黒い天井。
 瑠璃の話からすればここがネクロポリス唯一の大広間……庭園にして闘技場にして格納庫……となるのだろうが、そこには一滴の水も、一輪の花も、一粒の砂さえも落ちてはいない。
 はるかに広がる一面の黒大理の空間は、まさに巨大な墓標の如く。
 そこは文字通り、死者の都と呼ぶに相応しい場所だった。
「二人とも、呑気にしてる場合じゃないぞ!」
 敵もこちらの奇襲を予期していたのだろう。周囲には既に見慣れた翼の巨人達が歩み寄り始めている。
「分かっている! 総員、迎撃用意!」
 広間の天井は高くはあるが、それでも滅びの原野やイズミルの空ほど自在に飛び回れるほどの高さはない。迫り来る巨人達を構えた槍で薙ぎ払い、少しずつ前へと進んでいく。
「ここはこの雷帝に任せておけ!」
 そんな包囲の一角をほんの一撃で切り崩したのは、頭上から放たれた強烈な雷光であった。
 範囲攻撃も警戒していたのだろう。翼の巨人達は間を十分に取った布陣をしていたが、だからこそ数体を薙ぎ払えば、かなりの空間を生む事が出来る。
「頼む! 総員、雷帝に続いて道を切り開け!」
 そこに巨体をねじ込ませ、次弾の雷でさらなる空間を切り開いていく黄金の竜を追いながら、アレクも鋼の槍を振りかざす。


 攻撃部隊の最後尾に位置するプレセアが黒大理の世界に降り立った時。眼前に広がるのは、まさに蹂躙と呼ぶに相応しい光景であった。
「……相変わらず、凄いですわね。鳴神様は」
 周囲を翼の巨人達に囲まれているものの、それでもこの短時間で防御陣地らしき物が既に形になりつつある。
「プレセア! もう降りて大丈夫なの!?」
 そんな大蜘蛛の操縦席に響くのは、機体の後部に設えられた兵員スペースからのジュリアの声だ。
「もう少しお待ちになって。今降りたら、鳴神様の雷とシュヴァリエの戦いに巻き込まれますわよ」
 瑠璃からもたらされた情報では、巨大な広間を中心に人間用の細い通路が伸び、その先に居住区があるという話だった。対シュヴァリエ戦はアームコートや神獣が必要だろうが、作戦の本命となる都市内の探索や姫君達の救出は、ジュリアたち歩兵が主役となる。
「右手にホエキンがある! まずはそちらを制圧するぞ! 柚那、珀亜!」
「承知!」
「了解。連中を少し潰しとかないと、こっちもいつまで経っても降りられないしね!」
 後方から様子を見守っていれば、巨大な箱を背負ったヴァルキュリアの声に二体の神獣が続き、戦域はさらに広がっていく。
「イクス准将。ホエキン内部は我々アルツビーク小隊で制圧に向かいます。ヴァル達が周囲を制圧し次第、突入します」
「了解ですわ」


続劇

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