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14.軽挙-mode

「まったく。セタといいイクスといいお前達といい、軽挙にも程がある!!」
 青い空に響くのは、本日二度のアーデルベルトの怒鳴り声。
「全くです。何か悩んでいるとは思っていましたが、まさか本当にやらかすとは……」
「……いきなり呼び出されたから、何事かと思えば」
 そして、その隣で吐かれた、コトナと奉のため息だ。
「はーい」
「ごめんなさーい」
 それに頭を下げるのは、工廠に呼び戻されたジュリアと柚那の二人組である。
 既に二人のアームコートは工廠の中に運び込まれ、整備兵達のチェックと補給が始まっていた。貴重な戦力でもあるし、状況不明の敵陣真っ直中まで行ってきたというその報告から、機体にどんな損傷があるかも分からないためだ。
「中佐さんもそう怒ってばかりいるとハゲるぞー?」
「別に好きで怒っているわけじゃない。プレセアじゃあるまいし」
 整備の手伝いに来たのだろう。混ぜっ返すエレに、露骨に嫌そうな顔を浮かべてみせる。
 普段なら、この手の仕事はもっと格上の鳴神や環たちの役割のはず。しかし彼らは忙しく、あるいはそれどころではない状況だったため……結局、彼らにお鉢が回ってきてしまったのだ。
「それで、敵陣には入れたんですの?」
 アーデルベルトの愚痴の中に自分の名前が入っていた事に嫌そうにしながらも、プレセアは二人にそう問うてみせる。
 確かに二人の行動は軽挙ではあったが、敵陣への偵察代わりになった事も確かだ。相手に転移術が使える事を気取られたのは問題だが、なかった事に出来ない以上、せいぜい有効に活用するしかない。
「ううん。近くまでは転移出来たんだけど、近付こうと思ったらあの翼の巨人がたくさん出てきてね……」
「一応転移出来るように目印は置いてきたんだけど」
 離脱間際に放ったトリモチを鏃に付けたジュリアの矢には、こちらで使っている転移用の目印も組み入れておいたのだ。儀式をきちんと行なったわけではないから簡易的な物でしかないが……。
「なら、また転移出来るのか?」
「向こうの位置を確かめようにも、目印が見つかりにくくってさ……。簡単には転移させてもらえないっぽいのよね」
 簡易的なのが悪かったのか、空間が安定しすぎている所為か、それとも敵の城そのものに対神術の防壁でもあるのか。
 感じ取れる反応はいかにもあやふやで、頼りないものだ。
「……ふむ。クオリア、奉。クロノスの調査はどうなっている?」
「相変わらずだよ。中身が分かんないから、解析に手間取ってる」
 もともとロッセしか分からない機能を無理矢理に解明しようとしているのだ。本来なら数ヶ月、数年単位で行なうべき所をほんの数日で結果を出そうという無茶をしているのだから、手間取るのも当たり前の話だった。
「……その作業、ミカミに手伝わせてみるか」
「へぇ、処罰じゃないんだ?」
 普段であれば、命令違反は厳罰だ。キングアーツ流に言えば、営倉で数日の謹慎……といった所かと思っていたのだが。
「まあ、そっちの方がいいだろうな。今は少しでも可能性が欲しい」
 柚那が転移の神術を使えるなら、その感覚がクロノスの制御に応用出来る可能性もある。少なくとも、ろくに使い方も分からない状態で足踏みしているよりはいいはずだ。
「なら柚那、こっちだよ」
 柚那がククロと奉に連れられて去った後……。
 残されたのは、もう一人の命令違反者であった。
「……私は、何をしたらいいですか?」
「そうだな……。とりあえずプレセアの仕事を手伝ってやってくれ。相当色々溜まって、苛ついているようだ」
「別にもう苛ついてなんか……!」
 その件は、鳴神に散々絞られた後だ。
 あれだけの説教を受けた事など、それこそ士官学校以来だっただろう。
「そういう所が苛ついているというのだ」
「……まったくもう。アーデルベルト君も、相当ですわよ」
 そんな捨て台詞を残したプレセアが、ジュリアを連れて本営へと引き返し……残ったのは、ほんの数名。
「で、アタシ達はどうすんだ?」
「暇なら、こちらの作業を手伝ってください。……向こうが仕掛けてくる可能性もある以上、出来るだけの策は取っておきたいですから」
 攻撃を仕掛けるなら、その間のイズミルの防御は今以上に手薄になる。メガリや八達嶺からも増援は呼んでいるし、さらに後方からの補充も頼んではいるが、仮に間に合ったとしても対シュヴァリエ戦の経験のない者達ばかりなのだ。
「……了解」
 既に作戦の開始まで、あと半日を切っていた。
 だが、まだすべき事は山のようにある。


続劇

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