21.黄金色の絶望を越えて 足元に広がるのは、固い石畳の道ではない。 土を固め、砂で覆っただけの簡素な舗装だ。金属や皮の軍靴を所々で取られそうになりながら、ソフィア達は八達嶺の市街地を駆け抜けていく。 「これが……神揚の街……」 辺りに並ぶ建物も、キングアーツのそれとは全く違う。 堅牢さよりも簡便さを重視したのだろう。木造のそれらは、石造りのメガリ・エクリシアの町並みと比べればいかにも弱く、頼りなさそうに見える。 「ああ。今日はだいぶ静かだが……」 「リーティや半蔵がいれば、どっちが賑やかか分かったのにね」 けれど、そこを歩く人々の様子は変わらない。 それぞれに動物の耳や尻尾を備えてはいたが、手足を金属に置き換えたキングアーツの民と同じように街を歩き、市場を覗き、大きな声で話したり、笑い合ったりしている。 「そうなんだ……。ホントにキングアーツも神揚も、変わらないんだね……」 誰かがそう呟いた瞬間、頭上を抜けるのは轟と響く強い風。 辺りの布製の天幕がばさばさとはためき、舗装の砂が勢いよく舞い上がる。 「ッ!?」 その疾風の中に見えたのは……。 「あれは……」 黄金の翼を備え、悠然と空を舞う竜の姿。 「雷帝……鳴神殿か……!」 「ねえ、あのドラゴンって!?」 あれほどの威圧感を備えた竜が、八達嶺に何匹もいるとは思えない。だとすれば、今頭上を抜けた巨竜は……! 「ああ。…………ウィンズ大尉」 黄金の竜は、さして手傷を負っているようでもなかった。だとすれば、ただ一人、竜を足止めするために残ったセタは……果たして、どうなってしまったのか。 「……どうするの? 戻る?」 ジュリアの言葉に、誰もが微妙な表情を浮かべたまま。 戻るべきか。それとも、進むべきなのか。 「……行きましょう」 その言葉を紡いだのは、彼女達の長たる少女だった。 「セタは約束したもの。また後でって」 そして、果たせる約束しかしないのだと言ったのだ。 ならばソフィアは、彼の言葉を信じて進むしかない。 「奉」 「分かった。なら、急ぐぞ! 鳴神殿が戻ったなら、街の警戒を増やされる可能性もある!」 先行した半蔵からの連絡もまだ来ない。 陽動部隊の対処に向かった神獣達は戻ってきてはいないから、作戦は順調に進んでいるのだろうが……。鳴神の一喝と彼の兵の働きがあれば、その状況も一気に覆されてしまうかもしれなかった。 |