5.真夜中の出立 「……というわけでござる」 会議を終えた半蔵がその足で向かったのは、リーティとムツキのいる地下の営倉だった。 今日の会議の報告と、協力の依頼に来たのである。 「なるほどなぁ。で、オレも案内役に?」 「お願い出来るかな?」 そんな半蔵の監視役として付き添っているのは、セタだった。彼はソフィア隊の副長としてソフィアに同行すると同時に、突入部隊の指揮も任されている。 「断る理由ないもんなぁ。でも、終わったらそのまま八達嶺に残って良いのかな?」 「もともと姫様はみんなには無事に帰ってもらいたいと思っていたからね。構わないと思うけど、一応確認しておこう」 半蔵とリーティに視線を向けられ、セタは穏やかに微笑んでみせる。 もともと捕虜交換も目的の一つだ。それをその場で済ませると言えば問題ないだろう……もっともそんな理由など付けなくても、ソフィアは構わないと言うだろうけれど。 「姫様も同行なさるのか。豪気な姫様だな」 豪気というか、命知らずというか。 少しは万里も見習って良いのではないかと思いつつも、そんな万里が見たいわけでもないので、それ以上は考えないでおく。 「だったらいいや。引き受けるよ。……爺ちゃんは?」 「残る。本音を言えば、八達嶺に巨人どもが突っ込むなどぞっとせんが……街に被害を出す気や、そのまま八達嶺を貴公らの傘下に収める気はないのだな?」 「それで済むなら、突入部隊をもう少し充実させるね」 それこそ攻めるだけなら、攻撃力の高いアーレス達を使えば良いのだ。あの夢に見た白木造りの市街地ならば、クリムゾン・クロウが本気で暴れればあっという間に制圧できてしまうだろう。 けれどそれは、ソフィア達の思うこの先にはそぐわないものだ。 「ああ。昼間、隙あらば斬るような目で儂を見ていた小僧か」 「アーレス君かい? 虫の居所でも悪かったのかな?」 別にそんな視線で牽制されずとも、ムツキに何かしようという気などさらさらない。少なくとも、ソフィア達が万里の味方であるうちは……だが。 「まあよい。……いずれにしても、王子が無事に戻るまでは人質は必要だろう」 「爺ちゃん、そういう言い方は……」 苦笑するリーティに対しても、顔の半分を厚い布で覆ったムツキの表情は口元すら変わらない。 「それに……少々、きな臭い匂いがしてな」 そんな男同士の会話に掛けられたのは、穏やかな女性の声だった。 「少し、よろしいかしら?」 豊かな感情を感じさせつつも、その奥底は仮面に隠して見せようともしない。そんな声に、ムツキは十分以上の聞き覚えがあった。 「どうした」 からからと回る車輪の音は、彼女の乗る車椅子の音だろう。この地下の営倉までには狭く急な階段があったはずだが、そこをどうやって抜けてきたのかはムツキには想像も付かなかった。 「ちょっとムツキさんに、お手伝いして頂きたい事がありまして」 「やれやれ。昼間は尋問、夜は労働。八達嶺で働いていた頃よりも人使いが荒い気がするぞ?」 そう言いながらも、外に出る事自体はやぶさかではない。ムツキはゆっくりと立ち上がり、営倉の扉へと歩き出す。 「まあ、捕虜だしねー。俺じゃダメなのかい?」 「ムツキさんの神獣でなければ出来ないお仕事ですので」 それに、リーティの神獣は飛行型。この状況下で逃げる必要などない事は分かっているが、万が一という事もある。 「じゃ、今度は俺が人質か。裏切らないでよ? 爺ちゃん」 「くだらん事を言うな」 ひらひらと手を振るリーティに、ムツキは厚い布で目元を隠したまま、苦笑いを一つ。 「せっかく成りかけた和平だ。儂らの姫様を裏切るような真似なぞせんわ」 |