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13.誰隠伊弉浪隠沙灯隠 (たそがくれいざなみがくれしゃとがくれ)

 薄紫の世界をゆっくりと進むのは、異形の群れ。
 制御を神獣の意思に任せ、騎体の内に身をもたせかけるのは奉である。
「……何だったんだ、今日のあれは」
 両手に目をやれば、未だ痺れの残る感覚があった。あの津波以降、攻撃の第二波はなかったが……お互いに今日は危険と、アレク達も早めに帰還する事になっていた。
「分からぬ」
 呟きに返ってきたのは、傍らを進んでいた珀亜からのもの。どうやら独り言が思念となって流れ出し、傍の珀亜に届いてしまったのだろう。
「だが……あの波の向こうに、確かな悪意……いや、殺意を感じた」
 遠くからの意思だったから、その殺意が誰に向いていたかまでは珀亜にも分からない。
 アレクか万里か、それとも他の誰かに対してだったのか……。
「他には分からんか? 珀亜」
「津波を起こした者はいたのは間違いないだろうが、流石に遠くて見えなかった。……それ以外は、何も」
 そもそも水上からあれだけの技を放てる時点で、犯人は大幅に限られてくる。キングアーツの鉄の鎧は空を飛べないはずだし、飛行型の神獣であそこまでの攻撃力を持つ個体も八達嶺には存在しない。
「水中型の神獣もいないしな」
 後は神術くらいだが、そこまで強力な水を操る神術師にも、その場にいた誰も心当たりがなかった。
 そもそも神術であれほど大きな術を使うなら、同じ神術師である奉や柚那なら何らかの予兆くらい感じ取れたはずだ。
「……万里?」
 そんな話の中に混じるのは、昌の声。
 だが、呼びかけたそれに万里からの返事はない。
「万里。万里ってば」
「え……あ、うん。どうしたの? 昌」
 三度目に呼んだ所で、ようやく答えが戻ってくる。
「どうしたじゃないよ。どうしたの、ぼーっとして」
「……ごめんなさい」
 先程の津波の一件がまだ尾を引いているのか、とも昌は一瞬思ったが……。
「アレクの事?」
「ふえぇっ!?」
 ぽつりと呟いた柚那の言葉に返ってきた思念は、それよりはるかに分かりやすい物だった。
「……分かりやすいわねぇ」
「分かりやすすぎー」
「分かりやすいです……」
「…………も、もぅ……。そんなんじゃないです!」
 万里の思念には、いまだ恥ずかしさや混乱が混じったまま。
 便利な思念通信だが、つい独り言が溢れたり、感情がきちんと制御出来ない内はノイズが混じりがちになるのが難点と言えば難点だった。
「あれ。今日はトウカギさん、何も言わないの?」
 そんな中、いつもならぼやきの一つも言ってくる、万里の兄貴分の言葉がない。
「……アレク殿なら、まあ……いいだろう」
「へぇ……何かあったんだ?」
「何もねえよ」
 謎の襲撃者の正体を珀亜と考えているのかとも思ったが、どうやらこちらの話もそれなりに聞いていたらしい。
 不機嫌そうに呟く奉の様子にようやく周囲から笑いが沸いてきた中……。
「あーっ! やっと繋がった! 昌! 姫様っ! 大変だよ!」
 周囲の思念通信網を揺らすのは、慌てたようなリーティの声だ。
「どうしたの、リーティ」
 今日のリーティは非番だったはず。市場に買い物に行くついでに、タロの店にご飯でも食べに行くと聞いていたのだが。
「シャトワールがニキ将軍に連れていかれて……っ!」
「何ですって!?」
 慌てた意思を隠す気配もないままの言葉に、一同は慌てて騎体を走らせ始めるのだった。



続劇

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