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22.明かされる真実

 薄紫の風の中。
 薄紫の大地を滑るようにして現れたのは、突撃槍を備えた細身の騎士だ。
「アーデルベルト君」
「セタか。姫様は」
 後ろには黒金の鎧をまとう騎士と、蛇に似た長い尾を持つアームコートの姿も見える。装甲がほとんど汚れていない所を見ると、出てきたのは敵の撤退が始まる直前あたりという所か。
「それより、兄様が魔物に連れ去られたって……どういう事!?」
 そう。
 ソフィア達がその場所に辿り着けたのは、リフィリアから位置を聞いていたからだ。正確には環の話を聞かないソフィアの代わりに、セタが受けた連絡を通じて知ったのだが。
「俺たちも今着いたばかりですので……。今のところ、アーレスに確認している段階です」
 ソフィアの詰問にアーデルベルトが視線を向けたのは、その場に腰を下ろしている、この場で唯一の目撃者だった。
「……聞いての通りだ。あと、多分アンタの部下がもっと深い所に埋まってるぜ。あの小うるさいガキとか」
「埋まってる……?」
 呟くアーレスの指した辺りは、確かに大地が根元から崩されたような様相を呈していた。だが、その現場を見ていないセタやククロには、そこで何が起きたのか想像も付かない。
「なら、早く助けなきゃ……! リフィリア、ジュリア!」
 ソフィアは慌てて土の中に向けて呼びかけるが、ハギア・ソピアーの通信機は沈黙を守ったまま。
「ダメだよソフィア。電波は土の中じゃ通じない」
 通信機の信号は、空気を介して行われるものだ。薄い壁程度ならすり抜けもするが、土の中はさすがに厚すぎる。
「姫様、少しお待ちを。スレイプニルで試してみますわ」
 代わりに進み出たのは、アーデルベルトに同行してやってきた蜘蛛型の機体だった。八脚のうち一本を地面に突き刺し、何やら始めている。
「あれは?」
「音を振動に変えて地面に伝えてるんだよ。面白い事するなぁ」
 振動ならば、地中に対して電波より有効に機能するだろう。ククロの説明に分かったのか分からないのか、ソフィアはそれを心配そうに見つめているだけだ。
「アーレス。アレク王子が連れ去られた時の事、詳しく聞かせてもらおうか」
「俺だって確実なわけじゃねえよ。アレクが後ろから見えない敵に斬られたから、そいつを倒そうと思って突っ込んだら……いきなり地面が崩れたんだよ」
「見えない敵……?」
 アーレスの話は、セタにはほとんど理解出来ない事だった。相手は神術を使う神揚の民なのだから、理解出来ない事があるのは分かるが……。
「もしかして、トカゲに似た奴か」
 だが、アーデルベルトは見えない敵に関しては心当たりがあった。もう少し情報が早く回っていれば対処出来た事なのかと、僅かに唇を噛む。
「多分な。で、俺が土の中から出てきた時には九本尻尾や斬られたアレクは姿を消してたから、連中に連れてかれたんだと思っただけだよ。……辺りにライラプスはなかったんだろ?」
 アーデルベルトやプレセア達がアレク達の戦域に辿り着いた時には、隆起した大地とそこから半身を起こしたアーレスの機体があるだけだった。
 既に九本尻尾や他の魔物の姿もなく、もちろんアレクのまとうライラプスの姿もなかったのだ。
「……リフィリアちゃんと連絡が取れましたわ。ジュリアちゃんも無事で、あと投降した兵が一名いると」
「トカゲの奴か?」
「いいえ。昌ちゃんの部下を名乗っているそうですから、違うかと。捕虜としての待遇を求めているそうですわ」
 確か、清浄の地でジュリア達と会っていたという少女の名だ。彼女の部下だとリフィリアが判断したなら、少なくとも敵対するような相手ではないだろう。
「待遇は認めると伝えてくれ。責任は俺が取る」
「工兵隊に連絡取ったよ。すぐ回収に来るって」
 補修部隊の隊長機であるククロのアームコートだが、土の中に埋まったアームコートを掘り出す事までは補修の想定に入っていない。
 ならば、工兵部隊が来るまでは待機する事しか出来ないのだ。
「ねえ……」
 そんな一同に掛けられたのは、成り行きを茫然と見守っていた少女の言葉だった。
「魔物が……投降?」
 そこで彼らは、ようやく気付く。
 この場にソフィアがいたことに。
「それに、昌の部隊って…………どういうこと?」
 そして……彼女に何一つ、打ち明けてはいなかった事に。

続劇

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