戦いは終わった。
指揮官である狐頭九尾の怪物の撤退に合わせるかのように、魔物の群れは彼らの住処たる南の巣へと退いていった。本来であれば追撃を掛けるはずの鋼鉄の騎士達も、その時ばかりは彼らを追う気力など持ち合わせているはずもなく……。
それから、数日の後。
「兄様………」
白い蒸気と、灰色の煤煙に包まれたその街。
普段ならアームコートの出撃や物資の輸送で賑わう、メガリ・エクリシアの大通り。
その終着点、城前の広場に広げられているのは、彼らが属するキングアーツの王国旗。
旗を掲げるという習慣は彼らにはない。
彼らの旗は、鋼の手足。
彼らの紋章は、鋼の戦衣。
王の技巧たる義体とアームコートこそ、彼ら王国の兵達が掲げる旗の代わりとして相応しいものだったからだ。
そんな王国旗が用いられるのは……王国の名の下に散っていった英雄を、弔う時だけ。
「兄……様ぁ………」
アレクサンド・カセドリコス。
キングアーツ第二王子にして、キングアーツ南部開拓軍 メガリ・エクリシア司令官。
王位継承権は、第二位。
「兄様ぁ………っ!」
肩を震わせる小さな身体をそっと抱き寄せてやりながら、銀髪の青年も溢れる涙を止める事が出来ずにいる。
「あの戦いで、上手くいくはずじゃなかったのかよ……」
そのはずだったのだ。
あの戦いで、全てが終わって。
アレクも、環も、ソフィアも。
そして、アレクが選んだ少女達も……。
全てが上手くいくはずだったのに。
「何でお前が死んじまうんだよ……。やっとここまで来たのに……今度は上手くやるって言ったじゃねえか……アレク……!」
青年の慟哭は、もはや友には届かない。
煤煙に烟る空に、空しく消えていくだけだ。
第4回 前編
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