-Back-

13.ティアハート・オンビート

「ソカロ殿は、獣機についてどこまでご存じかしら?」
 オルタに突きつけた細剣をゆっくりと引き戻し、イルシャナは静かにそう問うた。
 戻された剣は光と共に宙に消え、後には何も残らない。
「確か……古代の戦で、赤の一族に対抗するために作られた存在。鋼の中に人の魂を移し込んだ、六番目のビーワナだと」
 そして、その種族の長こそが、目の前にいるイルシャナなのだと。
 ソカロが知るのは、以前レヴィーでドゥルシラから聞いた情報が全てだ。
「そうね。それで、正解でしょうね」
 では、とイルシャナは軽く手を振って見せた。
「これをどうやっているか、ご存じ?」
 再び現れたのは、先程オルタに突きつけられた細剣だ。今度も、抜く瞬間どころか剣を提げてすらいなかったはず。
「もう一つ」
 次にイルシャナが腕を振ると、剣が消え、代わりに彼女の腕が鎧に覆われていた。
 超一流の魔術師なら、イルシャナのような芸当も出来るだろう。だが、イルシャナは魔術師ではないし、後に控えた老人達がそれらしい魔法を使った様子もない。
 しかし、ソカロは知っていた。
 もっと単純に、何も無い所から武器や鎧を創り出す方法を。
「……オーバーイメージ」
 想いで作った器の中に、ティア・ハートの膨大な力を注ぎ込んで形を成す奥義。想いのままに作れるのなら、鎧や剣の器を作れば、確かにイルシャナの言った事も可能だろう。
「だが、貴女はティア・ハートを持って……」
 イルシャナがまとっているのはごくごく簡素なドレスだ。外見を飾るアクセサリにも、ティア・ハートらしきものが付いている様子はない。
「……いるのですね?」
 ティア・ハートを持たずともオーバーイメージが使えるイルシャナ。
 机の上に置かれた、ティア・ハートらしきアーティファクト。
「躯の内……いや、その体も全てオーバーイメージですか」
 その二つが、繋がった。
「意外と簡単な仕掛けでしょう?」
「それが『鼓動するティアハート(ティアハート・オンビート)』……」
 持ち主の意志に感応するティア・ハートなら、人の魂を封じ込める事も不可能ではないはずだ。
 そして恐らく、ティア・ハートを包むプレートに、オーバーイメージを手助けする仕掛けが組み込まれているのだろう。
「考えてもみなさいな。巨大な鋼鉄兵をラッセの女の子に変える技術なんて、いくら古代の技術でも出来ると思って?」
 寂しげに笑うイルシャナは、どう見ても普通の女の子だ。ソカロが今まで出会ってきた獣機達も、ごく普通の女の子だった。
「それに、性格的に相性の良い獣機が、駆り手の使いやすい武器まで持っているなんて、都合が良すぎない?」
「……言われてみれば」
 イーファは槍、メルディアは弓、ロゥは矛。
 確かに彼等は、獣機に乗った時でも超獣甲しても、各々が使い慣れた武器を持ったままだ。
 だが、それも想いのままに生み出せるとなれば、辻褄はあう。
「だから、他人にはあまり触れて欲しくないの」
 そう呟き、イルシャナは執務机の上に置かれたプレートをすいと取り上げた。愛おしげに胸に押し抱き、言霊を籠める。
「……目覚めなさい、ウシャス」


 はるか彼方から、剣戟の音が聞こえてくる。
 グルーヴェ軍部本拠地であるアークウィパスは、中枢を包む外郭迷路まで合わせれば数キロの広さを持つ。裏側にいれば、たとえ正面側で激闘が繰り広げられていようと木霊程度にしか聞こえない。
「始まったわね……」
 アークウィパス裏門を望む茂みの中。その音を聞きながら、少女は静かに呟いた。
 周囲に気取られぬよう、こっそりと移動を開始する。
「ええんか? ご主人。こんな所、見張りの兵士に見つかったら……」
 その後ろにはもう一人、少女がいた。ご主人、と呼んでいるからには前の少女の侍従なのだろう。
 眼鏡の奥の瞳は困惑……というよりも、諦めの色に包まれている。
「これ以上事態が悪化したりしないわよ」
「まあ、そりゃそうやけどなあ」
 はぁ、とため息を吐き、侍従の娘もごそごそと主の後へ続く。
 本当は主の暴挙を止めたくはあるのだが……
「行方不明なんかにさせないんだから。イーファ」
 その呟きを聞いてしまっては、止めるに止められない。
「何者ッ!」
 しかし、茂みを抜けた所であっさりとバレた。
「……で、どうするんや? ご主人」
 五十人ほどの兵士に一斉に槍を突きつけられ、眼鏡の侍従はもう一度ため息を吐いた。


 それから五分ほどの後。
「全く、俺達が来なかったらどうするつもりだったんだ? メルディア」
 二人の闖入者は拘束を解かれ、アークウィパス裏門の詰所にいた。
 周囲に兵士はいない。いるのは傭兵らしき少年と黒いコートの青年、そして彼らに仕える少女達だけだ。
 もともと彼らはグルーヴェ軍の別働隊を警戒しての守備隊だ。侵入者の出自が分かれば、長々と構ってなどいられない。
「……強行突破」
「ンなコトして抜けられると思ってるのか? らしくない」
 ぼそりと呟いた少女に、少年は大仰なため息を吐いてみせる。
 彼女達の実力なら、守備隊の包囲は突破出来るだろう。だが、それをやってしまえば取り返しが付かなくなる。無論、彼女の目的を達するなど出来るはずもない。
「まあいい。ロゥは彼女を案内してやってくれ。ここは俺が引き受けよう」
 二人のやり取りを無言で見守っていた黒コートの青年が静かにそう言い、詰所の扉を開いた。
「……いいのか? クワトロ」
「良いも悪いも、仕方ないだろう」
 メルディア達だけ行かせれば、この先も面倒ごとを起こすだろう。戦力面を考えるなら守備隊から案内を出す方が堅実なのだろうが、二人が何か問題を起こした時、彼らではフォローしきれない。
「……だな」
「何? どうかしたの?」
 不思議そうな顔をするメルディアに、ロゥは諦めたように首を振る。
「いや、付いてきな。ハイリガード!」
 幼子が姿を変えた巨大歩兵に乗り込んだ三人は、アークウィパスの内郭へと姿を消し……。
「さて……と。ラピス!」
 黒コートの青年も、自らの獣機を呼び寄せた。
 控えていた娘から渡された二丁の銃身を確かめ、ホルスターからすいと引き抜く。
「お前達も下がっていろ」
「どうしたんです? クワトロさ……」
 だが、そう問い返した男の言葉は、最後まで続かなかった。
 息を飲む兵士達とは対照的に、クワトロの表情には薄い笑みが浮かんでいる。
「想定外だったな……まさか、貴様等が来るとは思わなかったぞ」
 先程はメルディア達が潜んでいた茂みから姿を見せたのは、グルーヴェ兵士ではなかった。
 人ですらも、なかった。
 白い有機的な外殻は、兵士の槍など寄せ付けぬ強固な鎧。
 ぎちぎちと鳴る顎は、兵士の鎧など意にも介さぬ強靱な刃。
 三対の細い脚は、兵士の足など及びも付かぬ快速を叩き出す。
 あらゆる面で人を凌ぐ、異界の存在。
「ま……魔物……」
 兵士の一人が漏らした単語が、その名。
 姿を現したのは一匹ではない。背後に見える丸い影は、百を超えて見えた。
「後退して雅華に支援要請! お前らじゃ連中は倒せない!」
 兵士達の間に混乱が起きるより早く、クワトロは鋭く声を叩き付けた。
「は、はいっ!」
 アークウィパスの奥へと駆け込んでいく兵士達の中、青年と少女だけはその場にじっと立ったまま。クワトロの手に抜き放たれた銃身は既に十字に構えられており、いつでも戦える態勢だ。
 無論、いかにクワトロとてたった一人で魔物に立ち向かえるとは思っていない。
「ラピス!」
 だから、少女の名を呼んだ。
「レディ」
 少女も応え、男の背中に身を添える。
 ゆらりと昇る戦の気配に、茂みの影達がどよめいた。多関節の足を鳴らし、悪寒の源を叩き潰そうと進撃を開始する。
「残念。一歩、遅かったな」
 だが、たった一人迎え撃つ男の口元にあるのは、不敵な笑み。
 敵ここに在ら不。
 故に我、敗れ不。
「超獣甲ッ!」
 無敵の言霊の解放と同時、迫り来る魔物の群れが次々と爆裂する。


 遠くから聞こえてくる剣戟の音に、ベネはやれやれと呟いた。
「外が騒がしくなってきたね……」
 彼女達がいるこの留置所は、アークウィパス中枢よりも裏側に近い、かなり離れた場所にある。仮に中枢が陥とされたとしても、こちらに手が回ってくるのはそれからずっと後になるはずだ。
「そろそろ逃げるか。シグ」
 とはいえ、裏側からも戦闘の音が聞こえてきた。要塞攻めの常道、別働隊もいたらしい。
「ふぁーい」
「あ、このバカッ!」
 懲りずにパイを口にしていたシグに、直下型のグーを叩き付けた。
「えー。でも、パイ冷めちゃうよぅ」
 もったいない、とぼやく少女に、もう一撃グーを打ち込んでおく。
 鍵が開いている事を確かめ、扉を開こうとして……。
「……何!」
 慌てて飛び退いた空間を、巨大な斬撃が横切っていった。
 人間の技ではない。この斬撃を出せるであろう獣機の駆動音は、どこからも聞こえてこなかった。
 がらり、と崩れ落ちる扉の向こうに、ぬめりとした体表が見えた。
「魔物!? 何でこんな所に!」
 二撃、三撃。打撃が放たれるたびに小さな建家は形を失い、辺りの様相を露わにしていく。
 人の気配を感じて集まったのか、ベネ達の小屋は完全に取り囲まれている。
 逃げる術は……ただ一つ。
「シグ!」
 その危機を脱するため、ベネンチーナは戦友の名を呼ぶが。
「ベネ! イーファが!」
 返ってきたのは、悲鳴に近い声だけだ。
 見れば、イーファはいまだ部屋の隅にうずくまったまま。生気の籠もらぬ瞳で、あたりを呆ッと見つめている。
「ちぃっ! イーファっ!」


 魔物が現れたのは、裏門や留置所だけではなかった。
「なんで、こんな所に魔物がっ!」
 つがえた光の矢を次々と解き放ちながら、メルディアは悲鳴に近い声を上げていた。
「グルーヴェじゃどこでもこんな感じじゃねえのか?」
 重矛を叩き付けながら、ロゥが通信機越しに問い返す。
 どちらも超獣甲ではない。中型の魔物であれば、獣機の質量に物を言わせた力押しの方がやりやすいからだ。
 その戦い方の機微も、このグルーヴェで魔物を討伐するうちに身に付けたもの。
「そんなわけないでしょ! ここ、グルーヴェ軍部の本拠地なのよ!」
 アークウィパス近辺では、過去何度も魔物の討伐が行われている。もちろん、これだけの規模の魔物が出てくる泉を見逃すはずがない。
「けど、ヤバいな……」
 ぼそりと漏らしたロゥの言葉に、メルディアは首をひねる。
「イーファ達ならこれくらいで死にゃしないでしょ。ドゥルシラもいることだし」
 魔物の数は多いが、質は大したことがない。イーファと一緒に別の獣甲使いもいるというし、仮にイーファ一人でも超獣甲が使えればどうにでもなるはずだ。
「ドゥルシラは……」
「……いないの?」
 答えが来た瞬間、グレシアから放たれる光矢の数が三倍に増えた。
「ったくもう、そんなことは早く言いなさいよ!」
 それに伴って攻撃のモーションも変化。ロゥの後ろで支援する持久戦の姿勢から、連射の近矢で道を自ら切り開く速攻の態勢へ。
「あのコ一人じゃ何にもできないんだから! グレシア! 超獣甲っ!」
「素直じゃないんやから……」
 相棒の苦笑を、噛みつくように押さえ付ける。
「何か言った!? さっさと超獣甲する! ロゥも早くしないと、置いていくわよ!」
 輝く鎧をまとった少女から放たれる光矢は、さらに倍に増えた。
 高速突撃砲台と化した少女を止められる魔物など、この界隈にどこにもいないだろう。
「……へぇへぇ」
 何もする事が無くなったロゥは、手持ちぶさたのハイリガードをゆるゆると飛翔させていく。


 少女はいまだ、闇の中にいた。
(ドゥルシラ……ごめんね)
 想うのは、姉のように慕った少女の事ばかり。
 瞳に映るのは、光となって消えていく少女の事ばかり。
(ごめん……本当に……)
 心の中を過ぎるのは、悔恨と懺悔の言葉ばかり。
「イーファ! 目を覚ませっ!」
 だが、叫びにも似た強い声に、沈んでいた意識が一瞬引き上げられた。
「え……?」
 その声に半覚醒したイーファは、言葉を失った。
 目の前に在るのは、血の色の悪意を映す瞳。
 振り上げられているのは、赤く濡れた鎌の如き節足。
 イーファの鈍った思考は動かない。だが、本能がそれを理解した。
 迫り来る、死を。
 光の中に消えた少女の姿が、心の中に次々と映り込む。
 光。
 死。
 闇。
 嫌悪と恐怖に意識が覚醒し、闇が、爆ぜた。
「嫌ッ! まだ死にたくないっ! ドゥルシラ! ドゥルシラぁっ!」
 胸元のプレートを抱きしめ、絶叫する。
「イーファっ!」
 既に殺意の節足は振り下ろされた後。いかに超獣甲、ベネンチーナの神速をもってしても、間に合わない。
「……まったく、もう」
 はずだった。
「……え?」
 胸元のプレートを両腕で抱きかかえ、小さく身を縮こまらせたイーファだったが、いつまで経っても斬撃が降ってくる気配がない。
 次に気付いたのは、抱えていた小さなプレートが、イーファの胸元から姿を消していた事。
 恐る恐る、顔を上げてみる。
「あ……」
 そこに、あった。
「いつ呼んでくれるのかと思っていたのに」
 小さな背中。けれど、少女にとってはとても大きな背中が。
「ああ……」
 緩やかにたなびくアクアブルーの髪の向こう、小さな背中がかざすのは、凌駕する意志で喚び出した光の盾。
「大丈夫、って言いませんでした? 私」
 振り向いた表情は、いつものわずかな呆れ顔。
「……あんな場面で、ホントに大丈夫だなんて思わないよぅ……ばかぁ」
 浮かぶ涙を拭いもせず、イーファはその場に崩れ落ちたまま。
「二人とも! 悪いんだが、感動の再会は後にしてくれや!」
 だが、そんな二人を悲鳴じみた声が現実に引き戻した。
 周囲には魔物の群れ。ベネンチーナが獣機で押し返してはいるが、誰かを守りながらの戦いは相当に負担が大きい。
「そうですわね。イファ、随分と腑抜けていたようだけれど、大丈夫?」
「ふぁひ! ふぁふぁへふぉひへ!」
 傍らにあったパイを口に押し込んでいる少女を見て、ドゥルシラは再びため息。
「……まったく。後でお説教ですからね」
 指先に付いたクリームをひと舐めし、少女はすいと立ち上がる。
「それじゃ、ドゥルシラ。超獣甲!」
「イエス! マイ・ミストレス!」


 最後の魔物を打ち倒したのは、双剣も槍矛でもなく、輝く一条の光矢だった。
「無事か! お前ら!」
 舞い降りてきたのは白い重装獣機。双剣の獣機と人魚に似た超獣甲が健在なのを見て、一息つく。
「ああ。危なかったけど、何とかね」
 周囲に魔物の気配はない。双剣の獣機が宙に消え、二人の少女の姿に変わったのを皮切りに、周囲の獣機達も次々と姿を解き放っていく。
「……あれ? ドゥルシラ姉さま。もう起きて大丈夫なの?」
「ええ。皆さんにも、心配お掛けしましたわ」
 穏やかに微笑むドゥルシラに、ハイリガードも安堵の表情を浮かべてみせる。
「……知ってたのかい? ハイリガード」
「知ってるでしょ、普通」
 ドゥルシラから受け取った籠からパイをひと切れ取りながら、ハイリガードはベネの問いにそう答えた。
「や、このバカは知らないみたいだったから」
 残っていたパイに手を伸ばそうとしていたシグを半目で牽制し、ベネは呟く。回されたパイの籠からひと切れだけ取り、籠はイーファの所へ。
「じゃ、この間あんな言い方したのは……?」
「姉さまを寝込むまで無理させれば、機嫌くらい悪くなるよ。イーファだってそうでしょ?」
 そう言われれば、今は納得出来なくもない。
「……そう、だね」
 籠のパイを目で数えれば、あと三切れ。ロゥにひと切れ渡してやって、自分のぶんをひと切れ確保し、残った籠を隣ではなく、その向こうに座っていたグレシアに手渡した。
「何かあったんか? ドゥルシラ、ちゃんといるみたいやけど……」
 最後の一つを取ったグレシアは、ハイリガードと話し込んでいるドゥルシラの方を眺めながら、そのままぼんやりとパイを口に運ぶ。
「色々あったんだが……無理がたたって寝込んでただけ、らしい」
「ああ、なるほどな。……ってご主人! パイ食べたいんならウチのわけたげるから!」
 そこで、隣の様子に気が付いた。
「あら、これ美味しい」
 イーファが持っていたパイに、隣に座っていた主人がぱくついている姿を。
「あーーーーーーーーーっ!」
 戦場の一時の休息は、パイひと切れで早々に終わりを告げるのだった。


「……で、お前らはこれからどうするんだ?」
「とりあえず、魔物の掃討は手伝っても良いけど……」
 頬にひっかき傷を残したまま、メルディアは憮然とした様子で呟く。
「ドゥルシラ、大丈夫?」
 ばさばさになった髪を梳き直して貰いながら、イーファが心配するのは獣機の事。
「言う前に、自分の心配をしたら? 息が上がってるわよ」
「そんなことないっ!」
 口喧嘩を始め掛けた二人を放っておいて、ベネはあさっての方向を眺めていた少女に声を掛けた。
「グレシア。魔物の動きは?」
 グレシアはここにいる獣機の中で、最も情報収集能力に長ける騎体だ。アークウィパスの半面くらいなら、魔物や獣機の動きを把握する事が出来る。
「魔物はアークウィパスの裏側から攻めてきてるみたいやな。かなり奥まで入られとるわ」
「クワトロは大丈夫かな……」
 報告を聞いたロゥの頭に、黒いコートの青年の姿がよぎる。相当な実力者のハズだから、まさかやられてはいないだろうが。
「あの兄さんなら平気だろ。とりあえず、奥から押し返すのが先かね」
「……だな。軍部派は正面から攻めてるだけみたいだし、かち合ったりしないだろ」
 戦力が少ない以上、分散する意味はない。まずはアークウィパス中枢に向かった敵を討ち、それからクワトロの所まで押し返せばいい。
 定番だが、確実な作戦だ。
「じゃ、案内はメルディアかイーファだな」
 ロゥもベネンチーナもアークウィパスの構造には疎い。そんなロゥがここまで迷わずに来られたのは、正規軍所属のメルディアが道案内したからだ。
「了解。じゃ、まずは……」
「右」
「左」
 二人が指差したタイミングは、全くの同時。
「……お前、きっと指揮官に向いてないよ」
 またもや言い合いを始めた二人にため息を吐き、ベネはロゥの方をぽんと叩いた。
「俺もそう思うよ」



続劇
< Before Story / Next Story >


-Back-
C-na's 5th Dimentional Labyrinth! "labcom.info"
Presented by C-na.Arai