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12.そして、陽は墜ちて

 アークウィパス内郭。
「おや、クワトロ。貴方の方が先でしたか」
 バルコニーに姿を見せたジークを待っていたのは、見慣れた鎧の影だった。
「ああ。正門から入ったからな」
 距離がない代わりに阻む敵は多かったのだが、超獣甲を駆るクワトロにとっては物の数ではない。
 次に姿を見せたのは、豹族の美女とネコ族のメイドだった。
「残党は追わなくて良いのよね? 投降した連中は捕虜にしたみたいだけど」
「ええ。本当は捕虜もいらないんですが……まあ、仕方ありませんね」
 雅華とマチタタはアークウィパス外郭の正門から入ってきたはずだ。その彼女達がここまで来たと言う事は、敵のほとんどは城外に撤退できたらしい。
「……そうか」
 ぼそりと呟いたのは、見上げるばかりの巨漢だった。肩に少女を乗せた、片腕の男だ。
「コイツ止めるの、大変だったんだよ。マチタタも手加減無しで暴れるしさぁ」
「……マジか」
 呆れ顔を通り越して青ざめ気味のクワトロに、暴れた本人は知らん顔。
「あの辺、見える?」
 雅華の指差す方向を見てみれば、強固なはずの白亜の迷宮に、盛大な抜け道が出来ているではないか。
「うわぁ……」
 あれだけ大きな孔が空いていては、あの辺りの迷宮は迷宮の意味を成さないだろう。
「ミンミの仕業だと思ってましたよ」
 そのミンミはこの場には居ない。
 もともと彼女は革命派のメンバーではないのだ。今回も自分の目的のついでに協力してくれただけであって、ジークも彼女に強制することは出来ない。
「マスター。警戒空域内に、敵獣機反応ありません。全て撤退、もしくは投降したものと思われます」
「そうか。ご苦労」
 そう呟き、最後まで戦闘態勢にあったクワトロも獣甲を解く。
 傍らに現れたラピスが静かに上を見上げれば、白銀の獣甲がゆっくりと降りてきた。
「シェティス、お疲れ」
 た、と足音も軽くバルコニーに降り立つ少女に、雅華は息を飲んだ。
「どうしたんだい、その髪は!」
 少女の腰まであった長い髪が、背中あたりからばっさりと切り落とされているのだ。
 獣甲をまとった彼女に攻撃を当てられる者など、グルーヴェにはそういないはずだが……。
「……何でも、ありません」
「……そう」
 獣甲を解いて階下に向かう少女を呼び止められる者は誰もいない。シスカもこちらに一礼した後、主の少女に続いて姿を消す。
「いずれにせよ、皆よくやってくれました。まだ油断は出来ませんが、ひとまずはお疲れ様」
 今の所受けた報告では、敵も味方も極端な犠牲は出なかったらしい。陽動の獣機部隊は敵の獣甲使いに手酷くやられてしまったが、幸いアークウィパスはグルーヴェ獣機の総本山だ。修復や補充も出来るだろう。
「ひとまず、じゃないよ」
 そんなジークの労いを遮ったのは、革命派の作戦班長だった。
「ここの司令官はどうしたんだい? 捕まえとくように言ったじゃないか」
「確か、イノシシの男だったはずですよね。誰か見ていませんか?」
 ジークの問いに一同は顔を見合わせ、それぞれに首を横に振る。
「まあ、撤退したのかもしれないねぇ。なら、私からもそれだけだよ」


 男は獣機を全力で飛翔させていた。
「信じられん……強すぎる」
 操縦席にいるのはイノシシ族の男だった。シェティスに迎撃部隊を壊滅させられ、イーファに助けられてそのまま逃亡した、アークウィパス駐留軍の司令官である。
「と、とにかく、コルベットに向かわねば」
 駐留軍がどうなったのかは分からない。だが、駐留軍の最強戦力は彼の率いる獣機部隊だった。
 それがあっさりとやられてしまった以上、アークウィパスは陥落したと思って間違いないだろう。
 その時、周囲を警戒していた水晶盤に反応が映った。
「な、何だっ!?」
 画面を見れば、正面に獣機の姿。それも味方機ではない。敵の反応だ。
「畜生……ッ!」
 相手もこちらの存在に気付いたらしい。男はギリューの腰に差した剣を引き抜き、出力を全開に。
「わあああああああっ!」
 軌道は全くの直線。当てるよりも、相手に避けさせ、そのまま離脱するための突撃だった。
 接敵の瞬間、響くのは鈍い音。
 あっさりと避けられ、カウンターを食らったのだろうか。
 だが、その割には騎体が墜ちる気配がない。
「な……」
 恐る恐る目を開けば、そこにあるのは……
「バカな……。俺が……」
 男の突撃に胸部装甲を貫かれた、ヴァーミリオンの姿。
「俺が、やったのか? あの、フォルミカ卿を」
 男が墜落したヴァーミリオンの操縦席からフォルミカの亡骸と一通の手紙を見つけるのは、もう少し後の事になる。



続劇
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