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 石畳の上、長靴の音が響き渡る。
「曲者だ! 出会え! 出会え!」
 跳ね返るのは誰何の声と、警戒……否、臨戦を促す兵士達の怒声ばかり。
 いかに練度が低いとは言え、グルーヴェ王城を護る警備兵だ。剣は瞬く間に林となり、槍は波濤と化して一点を取り囲む。
 悠然と進む、ただ一人を止めるためだけに。
「……どうした。こんなものか?」
 闇夜の中。ぱちぱちと爆ぜるかがり火に照らされ、黒外套の男は一人ごちる。
 男の前には立ち並ぶ刃の林。
 男の後には崩れ落ちた無数の兵士達。
 死にはしていない。けれど、剣を折られ、甲を螺旋に穿たれて戦意を保てる兵士など、そうはいない。
 そんな暴挙をたった一人で成し遂げておいて。
 男は何事もないように辺りを見回し、朗とした声を放つ。
「夜分の無礼を知った上で、お目通り願いたい。ミクスアップ卿は、居られるか?」
 月は上天、丑三つ時だ。常軌を逸した問い掛けに返される言葉にも、敵意しか存在しない。
「閣下は既に寝所に入られておる! 用があるなら、また明日にしてもらおうか!」
 が、その鉄の林が左右に割れた。
「貴公、名は?」
 静かな声で問うたのは、中央に立つ鎧の騎士だ。黒鎧に身を包んだ、若い男である。
 フォルミカ様。誰かがそう呼ぶ声が、侵入者の耳にかすかに届く。
「クロウザ、と呼んでもらえれば結構」
 その、刹那だ。
 かがり火を受け。朱に染まる黒外套が渦を巻き、黒い鎧が銀光と共に乱舞した。次の間には石畳を叩く鋼の音が連打する。
 マントに絡め取られ、剣に叩き落とされたのは、いずこかより放たれた無数の矢だ。
「そう急くな」
 長剣を鞘に納め、男は苦笑する。
「クロウザ。ちと、前後したが……試験と行こうではないか」
 フォルミカ様、と非難の声を上げる兵士達を片手で制し、十歩ばかりも下げさせた。
「これは我等が主も承知して居られる。案ずるな」
 そして指差したのは、はるか城門の上。月光を背に長弓を構える、小柄な娘の姿。
「次の攻撃を退けられたなら、貴公の入営を認めてやろうとの仰せだ。異存はないな?」
「……承知」
 その時男の答えが聞こえたか、城門の少女が弓を携えた右腕をすいと掲げた。
「むぅ!?」
 流石の男も息を飲む。
 傍らに現れたもう一人の少女。侍女然としたその少女の放つ、人ならぬ気配を感じて。
(いや、違う。麒天、ではない)
 弓を構えた少女の声が、はるか隔てた男の耳まで、確かに届いた。
「グレシア……」
 そして。
「超獣甲」
 鋼ならぬ、閃光の雨。
 夜の中に、一瞬の昼が生まれた。


ねこみみ冒険活劇びーわな
Excite NaTS "Second Stage"
獣甲ビーファイター
#2 グルーヴェの紅き海(前編)

0.空白の三ヶ月間

 柔らかな陽差しの下で、幼い娘は同い年の少女にふと問い掛けた。
 ココ王城で最も美しく、最も手入れされていて、最も入るのが難しいと言われる第二姫の庭園だ。そこでゆっくりくつろげる者など、この城の中でも数えるほどしか存在しない。
「ねえ、トーカさま」
 問われ、少女は答えない。ただ小さく首を傾げ、問いかけの続きを求めてくるのみ。
「私、ここが好きだよ」
 うん。聞こえぬほどに小さな声で、トーカと呼ばれた一角獣の娘は相槌を打つ。
「……」
 それ以上の言葉はない。
 娘達の傍らでくぅくぅと眠っていた兎族の少女がころりと寝返りを打つ。それだけが、刻が動いた事を示している。
「うん。気を、つけてね」
「うん。行ってきます」
 そう言ってネコと共に立ち上がり、少女はココ王城を後にするのだった。


 ココ王都には、水の都という別名がある。
 それは王都に張り巡らされた水路や、それに伴って発展した水上交通網。そしてもちろん景観の美しさを評して付けられた二つ名だ。
 だがもう一つ、水の都の名を戴く由来があった。
 完備された下水施設の存在、である。

「兄貴っ! 追っ手だっ!」
「ちっ、もう嗅ぎ付けやがったか!」
 二人の男が水音を立てながら、暗闇を走っていく。地下の用水路とはいえ、主幹部ともなれば大の男でもそのまま走れるほどに太い。
「待ちなさいっ! キミたちが反乱を起こそうとしてるのは、わかってるんだからね!」
 二人の後を、一人の少女が全速力で追いかけている。悪臭の籠もる水路だが、任務に集中している少女にはなんの妨げにも成らない。
「くっ、王家の狗が! それほど王家に飼われることを望むか!? 王政などという古い体制は、打破されなければならぬというのに!」
 だが、その問いに答えたのは背後の少女ではなかった。
「あたしは一応、猫なんだけどなぁ」
 二人の前にも、一人の少女が現れる。
「マチタタちゃん!」
 後ではなく、男達の正面に。
「別に革命でも何でもすればいいけど……あたしを下水道に放り込むような真似は、できればやめて欲しいなぁ」
 どこまでも嫌そうな顔で、マチタタ。どちらかといえば、追跡していた少女よりもマチタタのほうが女の子としては当然の反応だろう。
「それに、ココの民が陛下の悪口言ってるの、見た事ないけど?」
 気怠げな表情を見せる少女には、一分の殺気も感じられない。血気盛んな後の娘より与しやすしと見たか、逃亡者達は手に手にナイフを引き抜いた。
「黒の魔女がいなくなれば、ココの民もそれが正しい姿だと目を覚ますッ!」
 正面突破すれば逃げ道はある。後の少女も二人がかりならば始末出来るだろう。
「王家の狗に我等の大義が理解できる物か! 旧い王制と共に、大人しく散れっ!」
「っていうか、あたしをこんな狭い所に押し込むのって、間違ってる気がするんだよねぇ」
 ムディアが出掛けてるからしょーがないけど、と呟き、マチタタは胸元から黄土色の輝石を取り出した。
「ってマチタタちゃん! こんな場所でそれ使っちゃ……」
 マチタタの掌から金の輝きが放たれ、無明の地下を一瞬強く照らし出す。
 平和なココの地下深く。
 誰にも聞こえぬ破壊の音が、鋭く轟き渡る。


 そのはるか上方。
 ココ王城の廊下を走る、小柄な影があった。
「へーかっ!」
 薄い黒檀の扉をばんと開け、中にいるであろう人物に声を投げつける。
「キッド。ノックくらいなさい」
 そこにいたのは『陛下』と呼ばれた少女と……
「……あれ? アルド殿下、戻っても良くなったんだ?」
 蒼いマントをまとった、長身の青年の姿。
 かつてはシーラの護衛団長であり、今は彼女の夫となった、アルドである。三ヶ月前の結婚式の時に姿を消して以来、シーラの厳命で入城禁止令が出ていたはずだったが……。
「そんなわけないでしょ。陛下の会談があったから、ジェンダから借りていただけよ」
 青年の姿が、柔らかな少女の声を放った。
 それと同時に蒼いマントがふわりと宙を舞い、それが光となって散った後には、青年の姿は気の強そうな少女の姿に変わっている。
 蒼いマントこそ、ジェンダの変身ティアハート『喝采』だったに違いない。
「アリス様でしたか」
 状況を見て、キッドはあっさりと納得した。
 おそらく他国との会談でもあったのだろう。新婚のシーラとアルドが同席しないのは不自然だが、かといって政治知識の皆無なジェンダがそのまま会議に臨むのも不安が残る。
 そこで白羽の矢が立てられたのが、王城屈指の才媛である妹姫のアリス、という事らしい。
「気分はどうでした?」
「これ以上最悪な気分はそうないわね」
 肩をすくめ、ココ王城最強と噂される美姫は忌々しそうに呟いた。
「ナコココも傍に置けないし、品のない話は持ちかけられるし、かといっておにゃのこにも触れないし……国の信用がかかっていなければ、引き受けなかったわよ」
 ナコココで気晴らししてくるわ、と言い残し、アリスは姿を消す。
「で、何用ですか? キッド。プリンセスガードの皆との会議は午後からだったはずだけど」
 シーラにそう言われ、キッドは本来の用事を思い出した。
「陛下! 俺のティア・ハートがないってどういう事ですかっ!」
「無い……って。聞いたとおりの意味よ」
 キッドのティア・ハートの属性は『雷』。多くの属性を持つティア・ハートの中でも特に稀少なもので、王城にもキッドの使っている物を含めて二つしか存在していない。
 三月前、スクメギでの戦いでそのうちの一つを失ったのだが、非常時ということで残り一つの使用許可が下りた……はずだった。
「貴方がリィル達と戦った時に失った『雷』のティア・ハートの事は覚えているわね」
 半年前の戦い。リィル達新人ロイヤルガードの選抜試験で失ったティア・ハートの事だ。
「リーグルー商会のツテで、陛下が買い戻してくれた……あれですよね?」
 その時の戦いで相手側に取られてしまったキッドの魔石は、あろうことか冒険者ギルドに売られてしまったのだが……その後シーラが個人的に買い戻してくれたのだ。
「あれがねぇ、買い戻せなかったのよ」
「……はい?」
 ということは、先日失ったティア・ハートこそが、王家に残る最後の『雷』のティア・ハートだったということか。
「いまリーグルー商会の皆や、エノクのお義父様にも探してもらっているから。もう少し我慢していて頂戴」
 オーバーイメージには他属性の石を使う事も出来ないから、ごねた所でどうにもならない。
「はあ……」
 だが、あんな特殊な属性を持つティア・ハートを誰が引き取ったのか。
 疑問も解けぬまま、キッドはシーラの執務室を後にするのだった。


 ココ王国の回廊を悠然と歩く少女に、すれ違う誰もが思わず振り返った。
 腰まで伸びる銀髪が目を引くわけでも、耳元から伸びたエラ状の器官が珍しいわけでもない。凛とした美少女ではあるが、容姿の整った少女が多く仕えるココ城では普通に近いほうだろう。
「シェティス先輩! お久しぶりです!」
 後から掛けられた声に、グルーヴェの軍服をまとった銀髪の少女はすいと振り返った。
 王城にはやはり似つかわしくない、簡素な服をまとった少女だ。傍に侍女が控えているあたり、ある程度の家柄の人間ではあるらしい。
「久しいわね、イーファ。今までココに?」
 かつては銀髪の少女の指揮下、スクメギ侵攻部隊に所属していた娘だ。
 シェティスと同じく、混乱するグルーヴェでどう振る舞って良いか分からないのだろう。
「はい。ある程度の状況が分かるまでは、メルディアのような盲動は控えようかと」
「そう。メルディアは戻ったの」
 メルディア・レヴィーは賢い娘だ。最初にある程度の情報を得さえすれば、後は前線で自ら情報を集めながら行動できるはずだ。
「はい。シーラ様が戴冠式の後すぐに出された調査隊が戻った後、すぐ」
 二月ほど前の話になる。その後シーラは二度目の調査隊を出し、彼らが帰ってきたのが三日前。
「先輩は今日は?」
「シーラ様から、革命派への返答が決まったと呼ばれたのよ」
「そう……ですか」
 今のシェティスはグルーヴェの革命派に籍を置いている。シーラの対応さえ決まれば、彼女も戦火のグルーヴェに舞い戻るのだろう。
「先輩はどうしてレジスタンスに?」
 それは、イーファの中でこの三ヶ月間ずっと疑問に思っていた事だった。
 シェティスはグルーヴェでも有能な軍人の一人だ。堂々と戻って報告すれば、ただでさえ人材不足のグルーヴェのこと。正規軍への復帰は難しい事ではないはずなのに。
「私の隊はもともと本国から切り捨てられていたから。それに、戴冠式の戦いでジンカ卿も私の存在に気付いているでしょうし」
 ココに堂々と協力していた者が、今更軍部に戻れるはずもない。戴冠式の日の戦いでジンカが何も言わなかったのは、彼らも秘密裏の行動だったからだろう。
「だったらアタシ達も同じじゃ……」
「イーファ達はギリューに乗っていなかったから、大丈夫だと思うわ」
 グルーヴェにはギリュー以外の獣機は存在しない。それ以前に、イーファの後に控えるたおやかな美女が巨大な機械甲冑に姿を変えるなど、常識の範囲を超えている。
「先輩。アタシも、今日の事が決まったら一度レヴィーの家に戻ります」
「そう。その方が、レヴィー伯も安心なさるでしょうね」
 シーラはレヴィー家の近況も調べてくれると言っていたから、今日その答えも来るはずだ。上手くいけば、メルディアの動きも分かるかもしれない。
「シェティス様。そろそろ、お時間のようですが……」
「イーファ。では、また」
 傍らにいた侍女の言葉に軽く会釈を返し、グルーヴェ・レジスタンスの若き戦士は回廊を後にする。
「イーファ」
 侍女が問いたいのは、彼女が初めて発した決意の言葉についてだろう。
「うん。分かってるヨ」
 全てはただの思いつきだ。前々から決めていたわけではない。
「イファが決めた事だもの。わたくしは、応援するだけですわ」
「……ありがと、ドゥルシラ」


 そして舞台は、やや南に移る。
「何だ君は。唐突に」
 宙を舞う剣を空中でひょいと掴み、長身の青年はバツが悪そうに頭を掻いた。
「唐突なのはお前も一緒だろうが!」
 叫んだのは小柄な少年だ。
 剣を弾かれた腕のしびれを誤魔化すかのように、青年を大声で怒鳴りつける。
「お前だろう。この村で前から色々嗅ぎ回ってる怪しい奴ってのは!」
 ココの南方にあるこの村に温泉が湧いたのはほんの数ヶ月前のこと。いずれは様々な客が訪れるようになるのだろうが……まだ湯治場として立ち上げたばかりの村では旅人はまだまだ目立つ。
 故に、村の用心棒役を任された少年が呼びだされたのだ。
「……まあ、怪しいのは否定しないが」
 少年の手から弾き飛ばした剣を手の中でくるりと回し、少年へと戻した。剣を一瞬で弾き飛ばした細剣は、すでに男の鞘の中だ。
 実際、自覚はある。白いコートに濃いサングラスを掛け、村の老人達に話を聞いて回っている長身の人物……と言われれば、自分でも怪しいと思うのだから。
「だが、前からってのは濡れ衣だな。俺がこの村に着いたのは、今日の昼だぜ?」
 それと、と青年は言葉を続けた。
「問答無用で剣を突きつける方もどうかと思うが?」
「悪かったよ。最近、俺一人で用心棒やってるから……ちょっと気が立っててな」
 今までは五人でやっていたのだ。だが一人はふらりとどこかに出掛けたままで、さらに二人が王都に向かっている。そして一人は気性が荒すぎて役に立たない。
「そうか」
 故に、いま戦えるのは少年一人なのだ。
「そうだ。お前、蝶の羽根を持ったビーワナを知らないか?」
 ふと思い立ち、男は先程村人に問い掛けた質問を少年にも問うてみた。
「何フザけたこと言ってやがる。そんな奴、いるわけ……」
 フェアベルケンの住人であるビーワナは、古より鳥・獣・魚・蜥蜴・幻獣の五種族のみ。
 蝶の羽根、昆虫の特性を持つビーワナなど、存在するはずが……。
「なあ、お前」
 否定の言葉を止め、少年は逆に問いを返す。
「ソカロだ」
「……ソカロ。自由に伸びる六本腕を持つビーワナがいるって言ったら、お前信じるか?」


 広いシーラの執務室には王家三姫とその補佐であるイルシャナを筆頭に、ロイヤルガードやプリンセスガードの大半が集められていた。
「ミクスアップ、フェーラジンカ、オルタ・リング、ジークベルト……。ムディア達がこの二ヶ月で調べてくれた結果よ」
「残ったのはやはり、その四勢力ですか」
 グルーヴェのクーデターが起きた直後は、無数の小集団が小競り合いを繰り返す混乱状態が続いていた。だが三ヶ月が過ぎた今、大半の勢力が姿を消し、グルーヴェは大きく分けて四つの勢力の下にある。
「そして、ジークベルト以外のどこかに、先日王都を襲撃した『赤の後継者』がいる可能性がある……」
 調査隊はごく少数の精鋭だけで編成されていた。グルーヴェ全土の情報収集を行うのが精一杯で、組織内部の細かい調査までは行えていない。
「では……」
 他国の革命に干渉して良い道理はない。国が滅びるのは定めだし、そこにつけ込むのは侵略者のする事だからだ。
 が、そこに世界の『敵』の姿が見えるとなれば、話は変わってくる。
「ええ。非公式にではありますが、支援させて頂きましょう」
 シェティスが一礼と共に下がったのを見て、シーラは改めて一同を見回した。
「それでは皆さんに初めての国外任務を与えます。グルーヴェから赤を祓い、彼の国の革命を正常な姿に導いてください」
「それは、全員に、という事ですか?」
 その言葉に応と答えず、問いかけの手を上げる者がいた。先日アリスのガードに登用された、ネコ族の娘である。
「せいぜい総員の二、三割といった所でしょうね。けど、ティニャがそんな事を言うなんて珍しいわね」
 もともとティニャは冒険者出身だ。アリスとしては、彼女は王宮勤めよりもこういった探索向きの人材だと思っていたのだが。
「獣機……過ぎた力には、少し嫌な思い出がありまして。私は姫様の護衛に残らせてもらいましょう」
 そう、と答え、アリスはティニャの言葉を承諾する。
「皆も無理はしなくていいわ。ティニャのように断ったからといって、私達の心証が悪くなる、なんて事は無いから」
 アリスの言葉に、数名のガードがそれぞれの意見を延べる。結局、三割ほどのガードがグルーヴェ行きを決めた所で、その日の会議は終わりを告げるのだった。


 グルーヴェに通じる街道は、ココ王国にも何本かある。セルジラ内海に沿って進む内海ルートと、山中を抜ける山道が幾本か。
 その街道を歩きながらムディアの話を聞き、少年は静かに呟いた。
「そうか。シェティスが」
「ええ。グルーヴェに戻るって……やっぱり知らなかったのね」
 受け取った資料には、少年の名はロゥ・スピアードとあった。引き続き第三次の調査隊としてグルーヴェに行くなら声を掛けて欲しいと、イルシャナから頼まれたのである。
「そういう素振りを見せる事はあったがな」
 ムディアよりは少し年下だろう。パートナーだという少女に至っては、十にも満たない子供でしかない。
 スクメギの戦いでの功労者の一人とあったが、訪ねた途端に出発するような余裕のなさは、話ほど頼りになりそうには見えなかった。
「それで、貴方はどうするの?」
 一応、王城でシェティスから革命派の連絡場所は聞いている。ロゥがシェティスとの合流を望むならば、出来ない事はない。
「アンタはどうすんだ?」
「私は軍部派のフェーラジンカ将軍の所に向かう予定になっているわ。傭兵としてね」
 先日のジンカとの約束では、ココはグルーヴェの内乱に不干渉の立場を取る事になっていた。そのため、ムディアは普通の傭兵としてもぐり込むしかないのだ。
「あの角付きの所か。……なら、オレもそこに行こう」
「そうだけど……革命派には行かないの?」
 革命派と軍部派は対立関係にある。今は小康状態を保っているが、状況が変わればシェティスと正面から戦う可能性さえあるのだ。
「あの六本腕や赤覆面が何か企んでるんだろ。シェティス一人追い掛ければいいってもんじゃねえんだろうよ。オレもハイリガードも、な」
 そう言って先を歩く娘を見遣るが、ハイリガードがこちらに気付いた様子はない。
「報告と随分違うわね……」
 全てはロゥの勘一つ。しかし、今までの戦いも、先日の戦いも、何か大きな流れの一つに思えて仕方ないのだ。
「何の報告だ?」
 この間の黒コートが語っていたように、もっと深く、昏い処にある何かが……。
「何でもないわ。なら、急ぎましょう。今日中に山を越えないと、野宿するハメになるわよ」



続劇
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