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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第5話 そして……(その3)



Act:2 力、胎動す

 ごぉぉん……
「また揺れた……。何か、凄い事になってますね……」
 揺れる地面の中で何とか守りきった皿をテーブルの上に置き、ベルディスの料理人
は不安そうにそう呟いた。バランスを取るために少し広げていた翼を元のように小さ
く畳むと、周りの昼御飯を食べに来たお客さんの料理を広げた翼でひっくり返してい
ないのを確認して、ほぅ……と安堵のため息をつく。
「今日は大丈夫だったねぇ、ラミュエルちゃん」
「ええ……」
 料理の代わりに広げた翼の直撃を受けたお客さんに苦笑しつつ謝ると、料理人の女
性……ラミュエルは、余震で軽く揺れる床に気を付けながらカウンターへと戻った。
翼の直撃を受けたといっても、元々が良くしなるふわふわしたものだからダメージは
特にない。
 それに、何より『今の状態』では、例え料理をひっくり返されたとしても……ラミ
ュエルに向かって怒りの感情を示す事などないだろう。
「凄い事になってるのは、ここも同じでしょう?」
 そう言いつつ奥から顔を出したのは、ラミュエルそっくりの女性だ。
「もともとあなたのお客様でしょう? しっかりなさいな」
 そう。
 ラミュエルに生来より備わる奇妙な力……万物を魅了する魔法の力は、今だ解決し
ていなかったのである。だから、相変わらずこの『氷の大地亭』の食事時はラミュエ
ルに引き寄せられてきた客で一杯だったし、更に言えばアズマやユノス達が霧の大地
に行ってしまったためさらなる人手不足に悩まされていた。
 ただ、幾つかの進展が無かったわけでもない。
「キルシュエルが新しい髪留めを使えるようにしてくれるまで、あと三日はこの調子
なんだから」
 まず、ラミュエルの魅了を封印する新しい髪留めが来た事。これを持ってきたラミ
ュエルの母親と弟の話では、今までの物よりも強力に彼女の力を抑えてくれる物だと
いう。
 使えるようになるまでに、後三日の時間を必要とするのが難点だったが。
「あ、オーダー宜しくおねがいしまーす♪ A定食が三つ、肉野菜炒め定食が二つ、
うち一つは大盛りで、一つは肉とアスパラガス抜きでキャベツ多め、それから……」
 それから、新しいアルバイト。本職は吟遊詩人だというその彼女は職業柄鍛えられ
た暴力的な記憶力にモノを言わせ、普通のウェイトレスの数倍に値する注文を確実に
処理する事が出来た。無論、客の扱いに関しても慣れたものだ。
 面接の時に年齢その他のあらゆる事を『秘密』と言って答えてくれなかったらしい
が、そのあからさまな怪しさをさっ引いても有能な人材だった。
 ちなみにアルバイトはもう一人、妙に偉そうなお姉さまが助力を申し出たらしかっ
たが……。こちらは客の注文を勝手にサクサクと決めた挙げ句に忘れ、その忘れた注
文を思いっきり違う注文で堂々とオーダーしてしまうようなマイペースな人だったの
で、丁重にお断りされていたとかいないとか、という噂だった。
「はーい。ラミュエル、こっちはお願いね」
 そして、ラミュエルの母親。ラミュエルに料理の術を仕込んだ彼女は文字通りプロ
の料理人である。その実力は宿屋の片手間に料理屋をやっている女将のクローネや、
まだまだ修行中のラミュエルと比べるべくもなく。
 アズマ達が霧の大地に行ってからも増える事すらあれ減る事のない厨房の仕事を、
ほとんど一人で完璧にこなしていた。
 ごぉぉぉん……
 と、また地面が揺れる。
 揺れの強さからすれば余震ではなく、本震だろう。
「こないだから随分あったけど……この何日か、やけに増えてるわね。大丈夫かしら、
あの子達……」
 倒れそうになっていた花瓶からそっと手を離しつつ。吟遊詩人の女性はぽつりとそ
う洩らしていた。


 ごぉぉん……
 大地が、揺れる。
 だが、それはこの所ユノス=クラウディア近辺で続いている群発地震のそれではな
い。
 ……ぉぉぉん!
 大地が再び揺れ、大気が吼える。
 彼等の中心に構えた異形の放つ、桁外れの気に感じて。
「行くぞ……」
 異形は構えていた巨大な『何か』をゆっくりと……しかし、力強い、しなやかな動
きで振りかぶると、
「受け取れよ! アズマ!」
 そのまま一杯まで引き絞った体から生み出される爆発的な力を込めて、天空へと解
き放った!
 轟……ォォォォォォォッ!!!!!
 そのあまりの勢いに限界を超える負荷を叩き込まれる形となった大気は、耐えきれ
なかった力の余力を吐き出さんと手近にあった大地と異形の影を激しく打ち据える。
 そして……。
「行ったか……」
 巻き起こった音速の衝撃波が鎮まり、既に先程までの姿を留めていない大地の上、
一人立つ異形は小さく呟く。いや、真紅と漆黒に塗り分けられた異形の鎧をまとって
いない今の彼は、一人の男、と形容すべきであろうか。
「あれで、方向は合っているの? それに、相手の……誰だったかしら? ご執心の
何とかって言うコが受け取ってくれなかったら、どうするつもり?」
 と、男の後ろから声を掛けたのは、一人の妖艶な女。
 音速の衝撃波を耐えきった姿勢からようやく体勢を戻そうとしている男の背中にゆ
っくりとしなだれかかると、彼の耳元でそんな声を掛ける。
「何……。大丈夫だ。あいつなら……な」
 『あれ』を受け取れないようなら、所詮その程度……。そんなニュアンスすら籠も
っていそうな口調で、男は背中にいる女にそう答えた。
続劇
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