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 次の日の朝早く。
「で、貴族込みの30体を殲滅ぅ!? 何とまあ、この機体でよくやったもんだわ」
 翼を持った真紅の絶対奏甲『フォイアロート・シュヴァルベ』に抱え上げられたシャル
ラッハロートを見上げながら、その女性技術者は呆れたようにそうぼやいた。
「……別に」
 包帯だらけの一龍はぽつりと呟くのみ。
 シャルラッハロートの損傷はかなり大きい。腕が飛んだりはしていないから大した事は
ないだろうと思っていたら、実際は古い機体を無理に動かしたため内部がズタズタで、相
当な修理が必要だと彼女は言っていた。
「外のダメージが少ないのはアンタの腕だけど、中がアレで動いたってのは歌姫の腕よぉ。
アンタ、感謝しなさいよ」
「ああ」
 その感謝すべき歌姫はよっぽど疲れたのだろう。操縦席で眠りこんだまま目を覚まさず、
ついさっき目を覚ましたばかりだ。まだ神殿で朝食を食べている。
「ま、いいわ。今部品あるから改装したげる。直すよかいいっしょ」
「頼む」
 そんな2人の周りでは、数体の絶対奏甲が建築資材を運んでいた。絶対奏甲の改装中に
移動は出来ないからと、輸送隊の機奏英雄達が機体の操練を兼ね、協力してくれているの
である。
「そうだ」
 と、技術者の娘が唐突に声を上げた。
「アンタはいつ向こうから来たの? あたしは2月の末なんだけどさ。東京のちっちゃな
大学で、ロボットの研究してたんだ」
「……4月の始め。多魔だ」
 どうやら同郷の民らしい。ふむふむと頷き、女性は顔を寄せてくる。
「そっかぁ。じゃ、あたしがいなくなってから何かむこうでなかった? それで改装と復
興の協力費はチャラにしたげる」
「……新聞と週刊誌の新刊があるから、それでいいか」
「OK。手伝ってくれてるみんなも喜ぶわ」
 結局、異世界に飛ばされても元の世界の事は気になるのだ。
 もとの世界の事を気にしないのは自分くらいなのかな……と、一龍はふと思った。


 そして3日が過ぎ、大まかな改装の終わったシャルラッハロートと一龍達は、ポザネオ
に向かって旅立つ事になる。
 そこに待つ激しい戦いの果てに何が待つのか。
 それはまだ、誰も知ることはない……。
< Before Story / おまけ江 >



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