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17.窮奇

 山頂に至る山肌を登り切れば、辿り着くのは拝殿に至る石畳の参道だ。
「お、四月朔日たちじゃねえか! どしたんだ!」
 そこを歩いていた顔馴染みの少女達に、レイジは大きく手を振ってみせる。
「レイジ……こっちはゲートの手伝いに回されたのよ」
「なんでぇ。どこも同じか」
 見れば、ファファ達の表情にも疲労の色が濃い。どんな戦いを繰り広げたのかは分からないが、少なくともレイジ達のそれに匹敵する激戦をくぐり抜けてきたことは間違いないようだ。
「あれ、お前ら……」
 そんな一同に掛けられたのは、やはり聞き慣れた声。
「八朔! お前、なんでこんなとこに……!」
「儀式が何とか終わってな」
「マジか! 先生達は!」
 色めき立つ一同に、八朔が見せる表情は明るいもの。
「疲れ切ってて、今は魔法庁の人達が介抱してる。後は今残ってる竜達を倒せば終わりだって」
「竜、消えないのか?」
 マナの密度が減少すれば、マナによって形を維持している魔法生物や天候竜はその存在を維持できなくなる。その法則に従うなら、再封印された事で蚩尤の力の供給を絶たれた黒竜やガルム達も姿を消してしかるべきだが……。
 確かに空を見上げれば、照明魔法やサーチライトに照らされた夜空には黒い竜が悠然と巨大な翼を拡げている。
「しばらく経てば消えるけど、倒しちゃった方が早いだろうってさ」
 周囲の被害を軽減するため、結界を張っていることも影響しているのだろう。封印が成功したからと言って、蚩尤の悪意の密度が急激に低下するわけではないらしい。
 もちろん、竜達がいるままで結界を解くなど、出来るはずもない。
「携帯や通信魔法が不安定になってるから、本部に使いに出たん……」
 八朔がそこまで言った所で、巻き起こったのは爆音だった。
「え………?」
 砕け散るのは、参道の傍らに設えられた手水舎だ。
 辺りに散乱する木材や瓦の中を吹き飛ばされてきたのは、やはり見慣れた少女の姿。
「真紀乃ちゃん!? どうしたの」
 新たなレリックなのだろうか。真紀乃は見慣れぬ黒い衣装をまとっているが……その表情には苦戦の色が濃い。
「みんな………。伏せて!」
 真紀乃の叫びに慌てて身を屈めれば、頭上を走り抜けるのは荒れ狂う暴風と、鋭く閃く雷光だ。
「これって………」
 そして。
 砕け散った手水舎の向こう。
 ゆっくりと地面に降り立つのは……。
「あれは……………」
 鳥とも、人間ともつかぬ、ヒトガタの存在。
「…………レム、か?」
 封印が成功したからと言って、蚩尤の悪意が急激に減少するわけではない。
 それは、悪意の影響を受けたキュウキもまた、例外ではないのであった。


続劇

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