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2.ヤキモチ焼きなアナタ

「終わったー!」
 その言葉には、二つの意味がある。
 一つは単純に、中間テストの日程が全て終了したということ。
 そしてもう一つは、中間テストのバッドエンドな結果が容易に予測できるということ。
「どうだった、良宇……って、聞くまでもねえか」
 一番後ろの席に座ったままの巨体は、真っ白になったまま微動だにしない。どこからどう見ても、後者の意味での『終わった』だった。
「レイジ、すまん。お前の努力を無駄にさせた……」
 その白いのの口元がわずかに動き、また動作を停止。
 どうやら、よっぽど酷い結果だったらしい。
「気にすんなって。それより、これで茶道部の活動も本腰入れてかかれるじゃねえか。まずはそっちを頑張ろうぜ!」
 レイジのその言葉を聞いた瞬間、巨漢はあっさりと動きを取り戻す。
 これからの一番の課題は、新設となる茶道部の立ち上げだ。そして茶道部を同好会ではなく部たらしめるためには、明日から期末テストまでの部員獲得期間に五人の正部員を集めなければならない。
 兼部ではない正式な部員は、良宇を入れて現在二人。あと三人で、茶道部は茶道部として活動できる。
「おおぅ! 確かにそうだ! まずはポスターの印刷かのぅ!」
 そのためには、こんな所で真っ白になっている暇などありはしないのだ。
「あと、補習な」
「おおぅ……………」
 その言葉を聞いた瞬間、燃え上がる背景はへなへなと力を失うのだった。


「終わった………」
 その言葉には、二つの意味がある。
 一つは単純に、中間テストの日程が全て終了したということ。
 そしてもう一つは、中間テストのバッドエンドな結果が容易に予測できるということ。
 華が丘高校魔法科1年A組にも、B組の巨漢と同じく真っ白になっている輩が、一人いた。
「ま、まあ、まだ僕の答えと合わせただけですから……」
 もちろん、祐希ではない。彼の所にテストの答え合わせに来た、リリである。
「委員長の答えが外れてボクのが合ってるって、どういう状況だよぅ……。ねえ、晶ちゃん」
 ただ良宇と違うのは、真っ白になったままでも硬直はせず、ひたすらネガティブなオーラを垂れ流している所だろうか。
「委員長。悪いけどそれ、逆効果だから」
 かといって、フォローを入れなければ落ち込んだまま。素直に言っても、やはりどん底だろう。
 何とも、面倒な相手に当たったものである。
「いえ、僕のも外れてる可能性が……ねえ、ブランオート君」
 傍らのセイルに困ったような視線を投げてみたが、セイルは無言で首を傾げるだけで助け船を出してくれそうにない。
 ちなみにセイルの問題用紙もリリ並みにバツ印と空白が並んでいたが、本人は特に気にする様子もないようだった。
「うぅぅ……。委員長が分かんないような問題が、ボクに分かるわけないじゃん……」
 ついでに言えば、祐希の必死の再フォローもダメ押しにしかならなかったらしい。
 何を言っても無駄な以上、放っておくのが一番のようだった。
「あの、祐希さん」
 だが、助け船は意外なところから来た。
「何ですか? キースリンさん」
 ほぼ最高のタイミングで会話に割り込んできたのは、黒髪の美少女だ。静かだが、どこか凜とした気品をまとい、少年へと問いかけてくる。
「今日の帰りのことですけど……。よかったら、一緒に……」
「ああ……すみません。今日はクラス委員長の集まりがあるので、先に帰っていてもらえますか? お昼の支度は、冷蔵庫に入れてありますから」
 生徒会の仕事を手伝うのも、クラス委員長の仕事の一つだ。今日の招集はテスト期間中に溜まった雑務処理程度らしく、副委員長までは呼ばずに済むと伝えられていた。
「あ……はい。なら、先に帰っておきますね」
 生徒会の仕事なら、仕方ない。
 キースリンは穏やかに微笑むと、鞄を取りに自分の席へと戻っていった。
「ちょっと委員長。今の、ひどくない?」
「……何がです?」
 どうやら、また地雷を踏んでしまったらしい。
 今度は晶の。
「だって、せっかくキッスちゃんが一緒に帰ろうって誘ってくれたのに……」
 しかも、真っ白になっていたはずのリリまで話に加わってくる。
「ですが、委員会が終わるまで待ってもらうのも悪いですし……」
 今日の集まりはすぐに済むと聞いていたが、実際の所は行ってみないと分からない。
 暇なようで、案外と忙しいのだ。委員長委員会というものは。
「悪くないわよ。キースリンさん、授業中だって委員長のことちらちら見てるくらいなのに」
「それは……」
 おそらく、晶たちが思っているのとは別の理由だろう。
 その辺りの事情を説明すれば彼女たちも分かってくれるのだろうが……。それを祐希の口から説明する事だけは、絶対にしてはならない事だった。
「そういえば、委員長が誰かと話してたら、結構入ってくるよね? キッスちゃん」
 女子の話だけではない。男子との間に入ろうとしている所も見た覚えがある。
 中には、キースリンと話をしたいがために、あえて祐希に声を掛ける強者までいると聞いていた。
「ああ見えて、独占欲強いタイプなのかもね。可愛いとこあるじゃない」
「そうなんですかね……。それじゃあちょっと、委員長委員会に行ってきます」
 これ以上話していても祐希の立場が悪くなるだけだし、キースリンの事を突っ込まれても困るだけ。風向きがわずかにそれた隙を突き、祐希はいそいそと教室を後にする。
「あきらーん! B組にご飯食べに行くけど、一緒に行きませんかー?」
 声の主を見れば、真紀乃が弁当を片手にこちらに手を振っている。
 真紀乃はテスト期間の始まる少し前、水泳部に入ったと聞いていた。B組という事は、同じ水泳部の冬奈の所にでも行くのだろう。
「行く行く! キースリンさんも行かない?」
「いえ、私は遠慮しておきますわ……」
 やはり祐希と一緒に帰れなくて寂しいらしい。どこか儚げな影を背負ったキースリンに、晶とリリは顔を見合わせる。
「何とかならないのかしらね。あの唐変木は」
 頭も良いし、運動神経もある。顔だって悪くないし、細かいところもちゃんと気が付く……完璧超人のはずなのだけれど。
 自分に向けられた好意には疎いのか、意外に好みにうるさい性格なのか。
「だよねぇ。悪い人じゃないんだけど……あれじゃキッスちゃんがかわいそうだよ」
 愁いを帯びた瞳で窓の外を眺めているキースリンは、まさしく深窓の令嬢といった様相だ。
 どうにも声を掛けづらいその様子に、一同は仕方なく隣のクラスへと移動を始めるのだった。


 帰り支度をしている少年の所に来たのは、パートナーの少女だ。
「悟司くん。テスト、どうだった?」
 さっきまでは冬奈のところにいたはずだと思ったが……その冬奈はファファと話し込んでいる。どうやらパートナー同士の話に入るのを、遠慮してきたらしい。
「まあまあかな……美春さんは?」
 テストそのものは、終わってすぐにレイジやレムの答えと照らし合わせていた。赤点になるほどの大きな失敗もなかったが、自信のないところはやはりそれなりのもの。
 全体でみれば、真ん中より少し上といったあたりだろう。
「えへへ……。何とか、大丈夫そうかな……って。悟司くんが色々教えてくれたからだよ。ありがとね!」
「いや、俺も結構教えてもらってたから……」
 実際の所、教えてもらった割合は百音より悟司の方が多かった。
 ただ、ことテストにおいては小さなミスの多い百音よりも、ミスの少ない悟司のほうがトータルの点は良いという、それだけの話だ。
「あと、これ」
 どうやらテストや話し相手以外にも、用事があったらしい。机の上に置かれたのは、両手に乗るほどの布に包まれた箱……弁当箱だ。
「弁当? でも、俺は……」
 包まれた布や箱の大きさを見る限り、百音の弁当ではないだろう。かといって、悟司は今日は昼までで、午後からは家に帰ろうと思っていたのだが……。
「うん。そうなんだけど……今日はお母さまも遅番だから、お弁当なんだって」
 悟司の家は、共働きだ。弁当は母が作ってくれるが、悟司のぶんだけ冷蔵庫に入れておくよりも、父親や百音達のぶんとまとめて弁当にしてしまう方が楽だったのだろう。
「そういうことか。じゃ、食べて帰るか……」
 とはいえ辺りを見回しても、仲のいい顔が見当たらない。冬奈とファファの間に混ざるのは百音ではないが気が引けたし、茶道部の準備をすると言っていたレイジや良宇も、今は姿を消していた。
 百音を誘って良いものかと思ったその時だ。
「百音ー! お弁当、一緒に食べないー?」
 教室に入ってきたのは、隣のクラスの女子達だった。
「あ、うん。食べるー! 悟司くんも一緒にどう?」
 見れば、中にはセイルの姿もある。男子一人で肩身の狭い想いをすることもなさそうだ。
 もちろん悟司に、その誘いを断る理由はない。


続劇

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