6.転章・見果てぬ物語の締めくくりに 「全部、終わったみたいだね」 ゆっくりと降下を始めた箱船を見上げ、少年は静かに呟いた。 「……だな」 傍らに立つのは、隻腕の巨漢。 「どうする? このまま死ぬ?」 男の半身は真紅に染まり、表情にも死相が濃い。エミュやコーシェイの治癒をもってしても、もう助かりはしないだろう。 「最後を迎えるなら、戦の方が良い」 だが、既に周りに敵はない。打ち砕かれた客人と、後は少年がいるだけだ。 「……そう」 だから、少年は髪の一本を引き抜いた。 本来なら絶対に敵わぬ相手だ。しかし、今の男は力の全てを使い果たした半死人。 少年の力があれば、倒す事は造作もない。 「シェティスに怨まれるぞ、貴公」 「『彼』が恨まれるよりは、マシじゃない?」 少なくとも少年と彼女に接点が無い。これから共に歩むだろう『彼』が恨まれるよりは、マシな結末となるはずだ。 「損な性分だな、貴公も」 巨漢は笑い、ゆっくりと足元に転がる大剣を引き上げた。構える体は隙だらけで、周囲の客人全てを打ち倒した鬼神の面影はどこにもない。 「……まさか、僕がこんな役目を引き受けるとは思わなかったけどね」 そして。 「手加減はしない。全力で行くよ」 「そうでなくては死に切れぬ。来い!」 少年は一片の容赦もなく、自らの全力を解き放った。 「……ようやく全部、終わったか」 スクメギからの退避命令を出し終わり、雅華はやれやれとため息を吐いた。 「そうですわね。一応、一段落ですわ」 頭上には制御を失った箱船が一杯に広がっている。落下地点となった遺跡は無事では済まないだろうが、それはもうどうしようもない。 街に墜ちなかっただけで、十分だ。 そんな二人に影が差す。 「客人……制御を外れたものがいたか」 「……雅華さん?」 「逃げな。こいつは私が足止めしよう」 とん、と背中を押され、メティシスは走り出した。雅華の力は知らないが、非戦闘員の自分がいても邪魔になるだけだと思ったからだ。 「使わずに済むと、思ったんだけどねぇ……」 ぎぎ、とこちらを睨み付ける客人にため息を吐き、包帯の巻かれた腕で眼帯を引き千切る。 「まあ、いいや。最後くらい盛大に行こうか」 不敵に笑い、光の宿る『両目』でにらみ返す。その視線に、意志を持たないはずの客人が半歩後ずさった。 鋼の本能が、理解したのだ。 相手をしてはならない相手に、相対した事に。 「残念、遅いよ。……死にな」 倒壊の始まった遺跡の上、どこからともなく大鳥の羽音が聞こえ…… 闇に覆われた世界が、ぐにゃりと歪む。 その一撃が、この戦い最後の一撃となった。 |