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6.二つの指輪の約束

 そこに立っていたのは、いるはずのない相手。
 窓の向こうにいるはずの、届かない光。
 銀色の太陽。
 金色の月。
「沙灯…………」
 沙灯・ヒサ。
「シャトワールさん」
 けれど彼女は、ここにいる。
 ネクロポリスの黒大理の床に確かに立って、シャトワールの名を呼んでいるのだ。
「どうして……ここに……?」
 渡る術はもはやない。ゲートもクロノスもなく……ロッセ達も、新たな神術機関を作っている様子はなかったのに。
「だって、可愛い女の子にお願いされたら……嫌なんて言えないでしょー?」
 その疑問に答えたのは、物陰から現れた白猫の性質を備えた娘だった。
「柚那さん……」
 けれど、現れたのは一人ではない。
「半蔵さん……ジュリアさんまで……!」
「シャトワール殿の裏を掻かねば、対策を講じられる可能性があったでござるからな」
 ネクロポリスの古代の知識をシャトワールがどこまで神王から受け継いだかは、誰にも予想出来なかった。だからこそ彼女達は準備が整い、さらにシャトワールの注意がそれる機会を周到に待っていたのである。
「さ。一緒に帰るわよ、シャトワール」
 シャトワールが祝福を贈るであろう、万里とアレクの結婚式の時まで。
「ですが、わたしは……」
 戻れない。
 戻るわけには、いかないのだ。
 それが何故かは、ジュリア達もよく知っているはずなのに。
「向こうでちょっとした儀式をやる事になったのよ。見てない?」
「これも、そこまで万能ではないもので」
「奉様とロッセ様。あとはククロと、クズキリ家の二人……。みんなに協力してもらったの」
 より合わせた知識から編み出されたのは、一つの神術儀式だった。
「この世界にいないはずの人を、この世界に留める術」
「それは、まさか……」
 それ以上は、聞かなくても分かる。
 瑠璃と沙灯をネクロポリスの呪縛から解き放ち、あの世界に留める術。いまシャトワールのしている事に、成り代わる術だ。
「神揚でも恐らく禁呪となる術でござる。故に、信用のおける協力者が必要なのでござるが……」
 儀式というなら、確かに人手は必要だろう。それも禁呪では、おおっぴらに人を集めるわけにもいかない。
「力を、貸してもらえませんか?」
「それは……」
「わたしの我が儘です。……でも、シャトワールさんにも、力を貸して欲しくて……」
 小さく呟き、沙灯が差し出したのは、か細い手のひらだった。
 中指にはめられた銀の指輪を一つ抜き、それを静かに差し出してみせる。
「このくらいしか、出来ませんけど」
 それは、かつてシャトワールが教えた、キングアーツの風習だ。
 両手の指にはめれば、心を落ち着かせる効果がある。
 二人で付ければ、それは……。
「沙灯、これは……」
 だがそれは、シャトワールのついた嘘。
 そんなおまじないはキングアーツにはないし、実際に効果などあるはずもない。
「……はい」
 けれどそれは、沙灯自身も分かっているのだろう。
 禿頭無毛の人物に、鷲翼の少女は金の瞳でそっと微笑んで。

 その少女に、シャトワールは…………。


続劇

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