黒金の巨体がその身を預けたのは、鋼の寝台。
いつもならばどれほどの遠征を行っても活力を失わないその身体は、恐らく今までで最も短い出撃距離でありながら……今までで最も疲れているように見えた。
足に数本繋がっていた制御ケーブルを億劫そうに引き抜いて、ハンガーのタラップを伝ってのろのろと降りてくるのは小柄な影だ。
「姫様」
「うん。二人とも……これから会議?」
そんな少女に駆け寄って来たのは、軍服を纏った二人の男。だが、そんな二人に向けて浮かべた微笑みは、いつもの少女とは思えないほどに疲れ、弱々しいものだった。
男の一人がもう片方の男をちらりと見れば、そいつは穏やかな表情を崩さないながらも、わずかに首を振ってみせる。
姫君との付き合いの長い彼ですら、恐らくは初めて見るほどの疲弊具合なのだろう。
「いえ。今日はもうお休み下さいませ。今の頭で考えても、良い案など浮かびますまい」
着任したばかりの司令官代理には重く、長すぎる一日だった。
動ける時間はここからたったの三日しかないが、その三日を乗り切るためには休息する事もまた必要なのだ。
それにまだ余力を残している者達にも、今日起きたことを反芻し、まとめあげる時間はやはり必要なのだった。
「そうだね……。プレセア」
「はい。沙灯の部屋は用意させていますわ」
「かたじけない」
城内に留まったもう一人の使者が案内の兵に連れられてハンガーから去って行くのを見送って、少女は小さく息を一つ。
「それと、姫様にもお風呂を用意していますわ。ジュリアとリフィリアを付けますから、少し落ち着いてからお休み下さい」
「ありがと。……なら、今日はもう寝ましょ。みんな、明日からもまた、よろしくね」
こうして、長い長い三日間を控えた一日は、ようやく終わりを告げるのだった。

第3話 『ふたりの選択肢』
−キングアーツ編−
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