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20.時歯車夢恋偲語 (ときはぐるまゆめこいしがたり)

「ひとまず、何とかなりましたか……」
 部隊指揮用に強化された思念通信器に流れ込むのは、懐かしいリズムを刻む無骨な打音と、少女達のどこかほっとしたような歓声だ。
「瑠璃」
 後詰めで後方に待機する騎体の中で、ロッセは静かに息を吐き……口にしたのは、その名である。
「どうやら我々は、一度失敗してしまったようです」
 彼の見た夢の中。
 燃え陥ちる八達嶺で、アレクは万里に妹を手に掛けさせた事を最後まで悔いていた。
 恐らくは、この戦いでそれを防ぐために何らかの策を取り……何らかのすれ違いを経て、自らの身を犠牲にしてしまったのだろう。
「それも、小官達が躓いた、はるかはるか手前で……」
 そこで歯車が狂い始めた事は、万里の周囲にいる者達がこの戦いをひたすらに気に掛けていた事からも、間違いはないはずだ。
 そして、その狂った世界の果てに……沙灯が、時を巻き戻しただろう事も。
「その所為で、沙灯を……あなたの妹まで、貴女と同じ所に送ってしまった」
 それが良かったのかは分からない。
 むしろ、彼女に再び会えたなら……馬鹿と罵られてもおかしくはないはずだ。
 アレクとソフィア。
 万里と沙灯。
 皆が笑って過ごせる世界を、彼は彼女に託されたのだから。
「ですが、そのおかげで……万里にも、アレク達にも、協力者が増えました。ですから……」
 呟き、撫でるのは自らの騎体の胎内だ。
 クロノス。
 古き歴史の、刻を支配する神の名を冠されたもの。
「今度こそ、貴女の願った歴史を……」
 捻れた世界を正し、忌まわしき軛を打ち壊すための……彼の、真の願いを叶える騎体。
 奉達が沙灯の願いを叶えるために奔走してくれたからこそ、創造をここまで早める事が出来たのだ。
「そして、貴女と沙灯を…………」
 あと少し。
 あと少しで、皆が望んだ世界の第一歩がやってくる。
 笑われようとも、罵られようとも、本当のやり直しをする事が出来るのだ。
 だが。
「これは……!?」
 指揮用に強化された思念通信器から伝わるのは、和平の第一歩となる歓声ではなく……。

続劇

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