7.崩牙、萌芽す
「ふわぁ………」
薄紫の荒野。電波に乗って響くのは、少年の生あくびだ。
「退屈か、アーレス」
その傍らに立っていたアーデルベルトの言葉にも、アーレスはその態度を改める様子はない。
「退屈なのは平和な証、だろ。分かってるって」
彼らの背中にあるのは、薄紫の荒野に立つ深い森。
そして、駐機状態にある数機のアームコートだ。
無人のその機体の主達は今、この深い森の奥で神揚の民に対して既に幾度目かとなる情報収集をしているはずだった。
「……そういう事だ」
最初の遭遇から、既にひと月ほどが経っている。数日から十日に一度ほどの割合でこうして顔を合わせ……今日はその警護に、アーレスとアーデルベルトが駆り出されているというわけだ。
「南側には展開しなくて良いのか?」
「構わん」
北側から清浄の地に侵入するキングアーツの面々と同様、神揚の民は南側から侵入していると聞いていた。そちらにまで隊を進ませれば、互いに不幸な展開になるのは目に見えている。
「そっか……よっと」
そんな微妙な均衡の中。
「どこに行く!」
「小便だよ! ちゃんとイイ子にしてるって」
アーレスが機体を下げたのは、ほんの少しだけ。
清浄な空気に満ちたスミルナに機体を寄せ、駐機状態にして背後から森の中へと飛び降りる。
「早く戻れよ」
軽く手を振り、アーデルベルトから完全に見えなくならない程度の距離で、軍服の前を解く。
「……何が平和だ。くだらねえ」
呟かれた昏い言葉は水音にかき消され、アーデルベルトのもとまで届くことはない。
続劇
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