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2.二つの道の交わるところ

 現在のガディアは、二つの街道の交差点として作られた街である。
 その交差する街の中心部……乗合馬車の停車場にあるのは、『月の大樹』の主の姿。
「帰ってきたばかりでまた出発なんて、大変ね。ミラも」
「構わんさ。もともとこれが、私の本当の使命だ」
 見送りに来たミスティに、ミラは穏やかに微笑んでみせる。
 平野の国の彼方に向かう律達の先導役として、同行するのである。
「まあ、アシュヴィン達も一緒なら、楽なもんか」
 同行するのは先導役たるミラとディスだけではない。
 彼らの護衛として、グリフォンとジャバウォックも共に向かうことになっていた。
「本当にいいのか? グリフォン」
 グリフォンの目的地は、スピラ・カナンの南東にある静寂の国なのだという。全くの逆方向というわけではないが、カイル達の目的地である平野の国の中部を通るなら、大幅な遠回りになってしまう。
「ああ。ディスの事もあるし、大した寄り道にはならんよ」
 ミラと並ぶ先導役であるディスの役割は、カイル達を平野の国の彼の地に導いた所で終わる。その後はカイル達と別れ、ジャバウォックに同行して静寂の国に向かうことになっていた。
「本当は国に戻りたくないだけであろ」
「…………そんなことは」
 開いたわずかの間に、ディス達は苦笑を隠せない。
「やれやれ。角は嘘ヘタやな」
「つ、角!?」
「お前、角やろ? 今は生えてへんけど」
 グリフォンの肩をしたり顔で叩いてみせるネイヴァンに、辺りの苦笑はとうとう笑いに変わる。


 そんな彼らに渡されたのは、小さな包みが人数分。
「はいこれ。お弁当!」
「ありがとうございます、ターニャさん」
「そうか。アギさんも、出るんですよね」
 さしむきは馬車での旅となるジョージ達とは違い、徒歩での出発だが……アギも兄と共にガディアを離れ、新たな地に向かうことになっていた。
「はい。兄の体調も落ち着いていますから、今のうちに完全な治療法が見つかれば良いなと……」
 しばらくは泰山竜の肝から作った薬で大丈夫だろう。だが、それもいつまで効果が続くかは分からない。
 ガディアでの調査も限界に達していたし、別の地で新たな解決法を模索することにしたのだ。
「こっちでも色々調べてみるから、たまに寄りなさい」
「おや。ミスティがそんな事言うなんて珍しい」
「ミラが調べるって言ってたから」
 ちらりと見れば、その言葉にミラは小さく頷いている。
「ああ、忘れてた。律」
「どした?」
 そう言ってミスティが律に渡したのは、小さな包み。
「はいこれ。古くなってたでしょ」
 開けてみれば、その中にあったのは弓矢の調整に必要な幾つかの工具であった。
「……いくらだ」
「いらないわよ。弓の借金返したので、お金ほとんど持ってないんでしょ」
 そのひと言に、律の表情が露骨に曇る。
 あのミスティがこんな殊勝な事を言ってくれるなど……明日はガディアに再び泰山竜が襲ってくるのではないだろうか。
「まあ、どうしてもって言うんなら、出世払いにしとくけど。あんた達にもあるわよ」
「……ありがてえ。あいつと一緒に、返しにくるからな」
 他の者達にもそれぞれの餞別を渡すミスティに、律は小さく呟いてみせる。


 餞別の品を渡されたのは、律だけではない。
「コウ」
 差し出されたのは、身ほどもある大剣だ。
「……いいのか?」
「無論じゃ。わらわの得物は他にもあるでな」
 ディスの見送りに来たコウも、もう少ししたら旅立つのだという。
「で、お主はどこに行くつもりじゃ」
「フィーヱがシヲとザルツに行くって言ってたから……ルービィと一緒に連れて行って、それから考える」
 その先については、幾つかの考えがないわけでもない。だがそれは、行ってから決めれば良いことだ。
「琥珀の出身地も聞けるかもしれんしの」
「……ディス姉も、気をつけてな」
 考えていたことをあっさりと看破され、この人には敵わないと苦笑する。
「言うまでもない」
 差し出された拳を軽く打ち返し、別れの挨拶はそれでおしまいだ。
「それじゃ、お前ら、行くぞー」
 律の声に、ディスも馬車へと飛び移り。
「ウチの料理が食べたくなったら、また来てねー!」
「おう! おっちゃんスペシャルのレシピ、置いていくからな!」
「……その名前、変えて良いよね」
 元気よく手を振る律に、ターニャはそう叫び返すのだった。


続劇

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