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 23.街へ

 コウがふらりと戻ってきたのは、一行が帰り支度を整え終わる少し前の事だった。
「コウさん。どこに行ってたんですか?」
「……なんでもない」
 小さくそう答え、荷造りを終えた馬車の隅にひょいと飛び乗ってみせる。他のルード達からは少し離れた場所に、そのまま腰を下ろした。
「ルービィとイーディスを見なかったか? お前捜しに行ったんだけど」
「……見てないな。すぐに戻ってくるんじゃないか?」
 イーディスはともかく、ルービィとは顔を合わせていたが……どこかそれを言うのはルービィを巻き込む気がして、適当に誤魔化してしまう。
「……まあ、ならいいけどよ」
 コウの症状は、時間に解決を委ねるしかないと悟ったのだろう。塞ぎ込んでしまったコウにそれ以上言葉を掛ける事も無く、カイル達は肩をすくめてその場から離れていってしまう。
 ルービィが戻ってきたのは、それから少ししてのこと。
「あ、コウ……戻ってたんだ」
 ちらりと視線を寄せるコウに、それ以上返す言葉を見つけられず。ルービィも自分の荷物が馬車の荷台に乗っている事を確かめると、やはり少しだけ距離を置いて座り込んでしまう。
「どしたんだ? 何か元気ないな」
「大丈夫。ちょっとお腹減っただけ」
 彼女には珍しい、どこか気弱な笑みだったが……その理由に、カイルは苦笑いをするしかない。
「何か食うか? 途中で腹減ったって言っても、休憩しないぞ?」
 いつものルービィなら、即座に食いついてくるはずだ。
 それが今日は、小さく首を振ってみせるだけ。
 コウとのやり取りを見ても、何かあった事は間違いないだろうが……恐らく、今問いかけても教えてはくれないだろう。こちらも時間に解決を委ねるしかないらしい。
 そんな中、最後に戻ってきたのは、この魔晶石農場の管理人だった。
「あ、コウさん、戻ってたんですね! 探したんですよ」
 帰ってきた者達の中で、唯一出る前と表情が変わっていない。恐らくは本当にコウ達と会えなかったのだろう。
「ああ……」
「……どうしたんですか?」
 塞ぎ込んだコウの様子に小さく首を傾げると、近くにいた律に小声で問うてくる。
「何か機嫌悪いらしい。魔晶石狩りで大暴れして、だいぶ気分転換になったと思ってたんだが……」
「そうなんですか……」
 あれだけ大暴れしておいて、結局気分転換にもならなかったというのは……魔晶石農場の管理人としては何とも言えない微妙な気持ちだったが、さすがにそれを口に出しても仕方ない事だ。
 そう答えるに留め、素知らぬ顔で馬車の荷台に腰を下ろす。
「まあいいや。とりあえず帰ろうぜ」
 誰かのその声に、馬車はゆっくりと動きだし……。
 一行は、街へと戻っていくのだった。


続劇

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