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5.レッド・リア陥落

 歪み、曲がった装甲鈑を蹴飛ばして、ベネは通路に飛び込んだ。
 装甲の薄い部分に四人渾身の『無』連携を叩き込んでこれである。主装甲がどれだけ硬いか、あまり考えたくなかった。
「時間がない! 二手に分かれるよ!」
 通路は資材の搬入路も兼ねているのか、獣機が普通に歩けるだけの広さを持っている。獣甲化して飛ぶ分には問題無さそうだった。
「ロゥは私と動力炉に。イファとメルはソカロ、あんたに任せる!」
「おう!」
「分かった」
 てきぱきと割り当てを決める中、一人だけ獣甲化していなかったオルタが口を開く。
「ベネさん。回収した内部の地図と動力炉への道順、シグさんに渡しておきますね」
 どうやら、壁から箱船の情報を手に入れていたらしい。マーキスから教わったのか、獣機として目覚めてから数日と経っていないのに、堂に入った力の使い方である。
「助かる」
 今度はシグもちゃんと情報を受け取れたらしい。自信満々に通路に向かい、一言。
「ベネ、この通路、右だって!」
 通路は左に分かれていた。
「この、おバカっ!」
「ふえー」
 一つになっていては殴るわけにも行かない。やれやれとため息をつき……。
「オルタ、悪いが……」
「……はい。ハイリガードさんにも送っておきました」
 ソカロに寄り添うように立つオルタも苦笑。
「あんたは大丈夫だろうね」
「この矢印に沿って進めばいいんでしょ? 楽勝よ」
 どうやら地図には、オルタが最短コースの案内を付けてくれているらしい。ならば、思ったよりも早く決着が着きそうだ。
「なら、イファ達も気をつけろよ」
「ええ。ロゥとベネさんも」
 軽く手を振り、ロゥとベネはその場から飛翔。超獣甲の機動力を以てすれば、視界から見えなくなるのはあっという間だ。
 その姿を見届けてから。
「……オルタ様」
「メルディアさん。私達も、先を急ぎましょう」
 何か言いたそうなメルディアを目で制し、オルタもソカロと一つになった。


 巨大なローラーが大地を削り、大きくスピンする。七度、八度回転したところで回転速度を変え、体勢を立て直して再加速。
「キリがないな……。カヤタ、あとどのくらい保つ?」
 常人なら気を失うほどに続く回転の中、クロウザは平然と己の獣機に問い掛けた。
「あと三度ほどが限界かと」
 ふむ、と呟き、次の一撃を叩き付ける。
「ならば、まだ六回は行けるな」
 危ういグリップを無理矢理ねじ伏せ、体勢を引き戻す。
 本来は、一直線に相手を巻き込み、威と圧をもって破壊をもたらす技なのだ。間違っても、急転回や高加速と併用する技ではない。
「……はぁ」
 次が最後です、と言えば良かったかな……と少しだけ思うが、どうせ言っても聞かない男だ。限界を超えて挑むのは、目に見えている。
「……くっ」
 その主の制御が、滑った。
「クロウザ様!」
 途端に回転は制御を失い、隙だらけのクロウザ達に鋼の弾幕が殺到する。
 それを撃ち落としたのは、銀に輝く拳の一撃だ。
「ペースが落ちてるよ、クロウザさんっ!」
 そう言うシューパーガールも、必殺技の連発で息が上がっている。
 彼女の銀の拳も、本当ならば必殺の一撃。乱発すべき性質の物ではない。
「大事な……危ない!」
「……え?」
 顔を上げれば、そこに迫るのは次弾の鋼雨。
 クロウザは加速直後でスピードを得られず、シューパーガールも息を整えたばかりで技を放てない。
 周りに味方はなく、防ぐ術は、どこにもない。
「全く」
 死んでいた。
 呆れ声と共に生み出された、炎の壁がなかったならば。
「周りのことを見ないのは、貴女も同じじゃない」
 少女の背中に立つように。
 炎をまとい、赤い長衣をひるがえすその姿。
 背中だけだが、見間違えようはずもない。
「ボンバーミンミ!」
 ココ王都では幾度となく拳を交えた、シューパーガール最大最強の敵。
 しかし今は、最大最強の戦友として、そこに立つ。
 絶望さえも焼き尽くす、余裕の笑みを携えて。
「飛んでくる弾は私に任せなさい。二人は、上の足に集中して!」
 構えた杖を一振りすれば、迫る弾幕は端から焼け落ち、灰燼と化していく。
「……承知」
「分かった!」
 百万の味方に等しき応援を得、二人は絶望的な戦いを再開する。


「ロード・シェルウォード」
 シュライヴの言葉と共に、無数の立体映像が姿を現した。
 断面で表示された、レッド・リアの内部図だ。そのいくつかには、様々な角度から捉えられた二組の侵入者の姿が映し出されている。
「先ほどの一撃、ノックにしては随分と乱暴な気がしたけれど……」
 この箱船にもノッカーを付けるべきかね、とぼやき、同胞の名を呼ぶ。
「フィアーノ」
 現われたのは、蝶の羽根を持つ道化の女。
「君はどうする? 今ならまだ、逃げることも出来そうだけど」
 冗談めかした問いにフィアーノは少し考え、首を横に振る。
「今から来る相手、知り合いなのよねぇ」
 彼女の視線は、薄緑の超獣甲をまとった男に注がれていた。
「そうか。なら、会っていくと良い」
「そうさせてもらうわ。シュライヴ、椅子を一つ貰えないかしら?」
 フィアーノはその場に椅子を喚び出すと、優雅に腰を下ろす。もはや完璧な観戦ムードだ。
「シュライヴ。面会の支度は?」
「予定通りに」
 立体映像の中から一つ選び出せば、そこに描かれているのは箱船の詳細地図だった。二つの矢印が縦横に駆け巡っているのは、侵入者達の経路を示しているのだろう。
 片方の矢印がこの部屋に辿り着くまで、もう幾ばくもない。
「上等だ。では、次の段階を始めよう」


 巨大な斧が砕ける音は、細く高く、まるでガラスが砕けるようだった。
「マチタタちゃん……」
 短い息と共に、走る巨大ネコの上、砕け散った斧の柄を放り投げる。
 砕けた鋼も長い柄も、ネコ族の少女の手を離れて暫くすると、そのまま空へと溶け消えていく。
「大丈夫だよ」
 片手を力強く振れば、そこに現れたのは新品同様の巨大斧。
 しかしコーシェは気付いていた。フランシスカを喚び出し直す間隔が、徐々に短くなっていることを。
「まだ、大丈……ぶ」
 ふらつき、転がり落ちそうになる躯を、イシェが慌てて抱き留めた。
「マチタタちゃん!」
 そう叫び、意識を取り戻す間も、巨神の足は容赦なくアークウィパスへ向かっている。
 レッド・リアがアークウィパスに辿り着いて、何が起こるのかは分からない。しかし、世の中が幸せになる事ではないのだけは、分かる。
「コーシェイ!」
「う、うんっ!」
 イシェの声に呪文を詠唱。マチタタの一撃、地形を変えられる一撃に等しい力を、口の中で構築していく。
「ナインボールッ!」
「サンダガッ!」
 一瞬先に放たれた炎の弾丸に雷光の衝撃が加わり、一際大きな破壊の焦熱を創り出す。マチタタのクレーターほどではないが、そこで足を踏み外したレッド・リアが、わずかに姿勢を傾がせた。
「畜生。あいつら、まだなのかよ……っ!」


「ロゥ。そっちを右」
 ハイリガードの導きに沿い、右へ左へ、ロゥ達はあてどない飛翔を続けていた。
 ただの飛翔、である。
「誰もいないね……ベネ」
 そう。必ず来ると予想された、敵の迎撃が全くないのだ。
 レッド・リアの外壁に備え付けてあったような、弾丸が飛んでくる仕掛けすらない。
「何だか気味が悪いね。罠なんじゃないか?」
 だが、シュライヴを倒すか、動力炉を破壊するしかレッド・リアを倒す策はないのだ。罠でも何でも、早く進めるに越したことはなかった。
「まさか……オルタ様達に一点集中とか?」
 シグがふと呟いた最悪のケースにも、ベネからの叱責が飛ぶことはない。
「そうでないことを祈るだけだね」
 それは誰もが思うこと。
 イーファとメルディアの護衛があり、最強の体を手に入れ、熟練の剣士であるソカロを伴侶としても……オルタ自身は、連携どころか武器さえろくに持ったことのない一介の修道女だ。イルシャナは剣技の訓練を積んでいるが、オルタにはそれすらもない。
 そこを突かれれば、無敵の獣機将といえどどうなるか……。
「無駄なことは考えない方が良いぜ」
 速度を緩め、降下していくロゥに言われ、少女達は押し黙る。
 ロゥとて考えていないわけがない。言わないのは、言ったり悩んだりしても無駄だからだ。
「ロゥ。その矢印のボタン、押して」
「おう」
 慣れた手つきで、壁に描かれている三角の記号に触れる。扉が開けば、先にあるのは狭い小部屋だった。
「この部屋に入るのかい?」
 さすがに翼を開いた姿で入るわけにもいかず、仕方なく獣甲を解く。ベネが頭一つ抜けている以外は小柄な一同だが、四人入ればさすがに一杯だ。
「ああ。この部屋が、まるごと別の階に移動するんだ」
 確か、リフトと言ったはず。
 スクメギにあったものと同じように音もなく扉が閉まると、奇妙な浮遊感と共に軽い駆動音が辺りを満たす。
「ねえ、ベネぇ……」
「何だい? 足踏んでるのは私じゃないよ」
「じゃあ何でわかるのよぅ!」
「で、何だい?」
 逆ツッコミを容赦なく叩き潰されてうーとうなるシグだが、話が進まないので仕方なくツッコミを諦めることにする。
「この道、矢印の通りに進めばいいんだよね?」
 彼女の脳裏には、オルタから渡された地図が描かれていた。分かり易く、矢印での道案内まで付けられている。
「そうらしいけど、どうしたんだい?」
「うーん。あたしが地図読むのヘタなだけなのかなぁ……」
 今の所、その矢印通りに来ているのだが……。
「間違いなくそうだと思うけど、何が言いたい」
「ひどっ!」
 あっさりと同意されたシグを制し、頭一つ小さな少女も口を開いた。
「ロゥ。あたしもこの矢印、変だと思う」
 複雑な階層構造を持つレッド・リアの内部を一瞬で理解するのは至難の業だ。だからこそ、こうして地図の矢印を頼りにここまで来たのだが……。
「ハイリガードも違うってのかい?」
「うん」
 落ち着いて考えてみると、やはり違和感がある。
「ねー。なんであたしの言うことは信じないのに、リッちゃんの言うことは信じるのよぅ」
「いや、見てりゃ分かるだろ……」
「ぶーぶー」
 ブーイングを上げるシグをしっかり放置して、ベネはハイリガードに問い掛ける。
 狭いリフトの中だ。分離しているからといって、殴るわけにも行かない。
「で、何が変なんだ?」
「これさぁ、動力炉じゃなくって……」
 その瞬間。
「艦橋を目指してない?」
 音もなく扉が開き。
「え……?」
 その向こうにいたのは……。


 飛んできた鋼弾を、振り回した戦棍で弾き飛ばす。
「ちっ!」
 だが、炎の守りのない戦棍で、全ての弾丸を防ぎきることは出来ない。肩と腕に数発くらい、イシェは思わず声を漏らす。
「イシェさん!」
 ネコの最前にまたがっているコーシェが呪文の詠唱を始めるが、それを短く制す。
「大丈夫だ。それより、そろそろヤバいな……」
 ティア・ハートとて、人の意志を力の源とする以上、有限の力。それも、奥義に等しいだけの力を乱発しているのだ。限界などあっという間に来る。
「大丈夫」
 それ以上に、コーシェの魔力が底を着く方が早かった。イシェが呪文を止めさせたのも、治癒魔法に消費する魔力が惜しかったからだ。
「まだ行けるよ」
 だが、息の上がったコーシェに諦める様子はない。
「当然だね」
 大斧の形すら維持できなくなったマチタタにも、諦めの意志はない。
「そんな死にそうな顔して、大丈夫じゃねえだろ。おいネコ、下がるぞ」
 イシェの意見に賛同したらしい。一度も速度を緩める気配のなかったネコがにゃあと鳴き、駆ける速度を緩め始める。
「イシェファゾ!」
 そこに掛けられたのは、少女の声だった。
「ボンバーミンミか」
 炎の魔術師は、ミーニャ達の組に加わって足止めをしていたはずだが……。
「まだ力が余ってるなら、こっちを手伝ってよ。ウチの獣機使いも、そろそろ限界なのよね」
「クロウザさんか……分かった」
 どうやらネコが速度を緩めたのは、このためだったらしい。
 イシェが飛び降りるとネコは速度を戻し、主と共に戦域を離れていく。


 白銀の光に覆われたフロアの中央。
「お前ら……何で」
 そこにあるのは、中枢を目指したはずの少女達の姿。
「何でと言われても、見ての通りだよ」
 そして、中央の座に構える、少年の姿だった。
 赤の後継者。
 シェルウォード。
「こちらには、優秀な部下もいるしね」
 鷹揚な言葉に、少年の脇に控えていた蝶羽根の道化が優雅に一礼する。
「まだそんな奴が……」
「フィアーノと申します。短い間ですが、どうかお見知りおきを」
 美しく歪んだ貌は、笑ったの、だろうか。
 表情だけ見れば美しい女性の物なのに、彼女の笑顔には異様と嫌悪しか感じられない。それは、奇怪な道化の化粧だけが理由ではないはずだ。
「まさか……」
 フィアーノの動きにつられるよう、ソカロ達もこちらに表情を向ける。
「シェルウォード! あんた、まさか!」
 彼らの表情には、意志の色がない。
 先ほど別れたときの決意の表情も、戦いを前にした緊張の表情も。
「彼女達のように話し合う事を望むかい? それとも、さっさと実力行使で片を付ける?」
 恐らく、ソカロ達は話し合おうとして罠にはまったのだろう。
 ならば、話し合う余地などはなから無い。
「テメェっ!」
 獣甲をまとい、重矛の石突きで床を打つ。
 力任せに床を打った石突きは床板を穿つことなく、鈍い音を立てるだけ。どうやら、この部屋全体が恐ろしく強固な素材で作られているらしい。
 少々強力な技を放ったところで、自壊するといった事態には陥らないだろう。
「分かり易いね、君達は。なら、僕の炎に灼かれて死ぬが良い……と言いたいが」
 ウォードが玉座を立つことはない。
「な……っ!」
 それよりも迅く襲い来る斬撃を、ロゥは反射神経だけで受け止める。
「ソカロ……っ!」
 駿足で間合を詰め、隙無き迅さで攻め立てるのは、獣甲をまとった兎族の若者だ。
「メルディア、イーファっ!」
 見れば、ベネも双剣でイーファの槍撃とメルディアの矢を受け止めているではないか。
「フィアーノの得意技も幻覚でね。僕の幻術とは少々趣が違うが……彼女に掛かれば、獣機でさえもこの通りさ」
「ちぃっ!」
 槍を受けようと剣を十字に構えれば、それを防ぐように鋼の矢が飛んでくる。
 切り払った瞬間。腕を駆け抜ける異様に重い衝撃に眉をしかめれば、続けざまに放たれるのは五連の槍撃だ。
「こいつら、初めからあたしの剣を……っ!」
 生まれる桁外れの破壊の力に、ベネの剣が軋みを上げる。慌てて反対の刃で払わなければ、そのまま叩き折られていたはずだ。
 剣にまとわりつく重力の枷を払う間に、既に相手は次の陣形を組み終えている。
 操られていてもなお、このコンビネーション。シグがベネの死角をフォローしていなければ、到底対応できるものではなかった。
「オルタ様はなぁ……お前と分かり合えるかも、って思ってたんだぞ!」
 叫びと共に打ち込まれたロゥの必殺の踏み込みを、ソカロは軽い動きで回避。
 間合が広く、動作の重いロゥの重矛では、近接と手数を得意とする細剣の連撃は避けきれない。左のバックラーをハイリガードの指示で防御に回しながら、ロゥも必死に反撃の機会をうかがうだけだ。
「そんな事は興味ないね。僕はただ、このレッド・リアの想いを受け継ぐだけさ」
 高らかな笑い声に、ロゥの護りは焦りと共に遅れ、ベネの双剣は苛立ちと共に弾かれる。
 がら空きになった体へと放たれるのは、容赦のない一撃だ。
「貴様ァァッ!」
 銀の広間に、少年達の絶望の叫びが響き渡る。


 黒い螺旋が突撃を駆ける度、刃の如き黒羽根がはらはらと舞い散っていく。
 既に大地を巻き込むローラーは失われていた。大半の黒羽根が失われている今、クロウザ達も限界が近いのだろう。
「インフェルノ!」
 力ない攻撃に光の拳を連ねても、強力な連携は起こらない。ミンミが魔法を重ね、ようやくバランスを崩せる程度だ。
「クロウザさん! あんたも下がれ!」
 着地のタイミングを失い、たたらを踏む黒羽根の青年を後ろから受け止め、叫ぶ。
「イシェファゾか……援護を頼む」
 だが、男は退かぬ。拳を握り、それ以上の言葉もないまま、次の突撃の構えを取るだけだ。
「援護とか、そういう話じゃねえだろ! ボロボロじゃないか!」
「まだ戦えるよ、クロウザさんは……」
 その傍らに立つのは、仮面の少女。拳の輝きは鈍り始めており、彼女の限界も近いことを知らせている。
「それに、あたし達がいなくなったら……誰がこいつの足止めをするの?」
 確かに、龍王達は上空の牽制で精一杯のようだし、足元でこれだけ戦える力は彼ら以外に持ち合わせていない。
「そりゃ、そうだがよ」
 ミンミを見遣れば、「ね」と肩をすくめてみせるだけ。
「征くぞ!」
 どう説得しようか考える間もなく、クロウザは次の突撃を開始。弾幕に黒羽根が弾かれ舞うが、もはや気にした様子もない。
「あなたも手伝って!」
 シューパーガールも弾幕を縫い、遅れず走り出す。その鋭さは、極限の疲労にあるとはとても思えぬ。
「お、おう」
 イシェとて、別に彼らを見捨てたいわけではない。慌てて走り出し、彼らに追従する。
「インフェルノ・パーンチ!」
 衝撃に揺さぶられた一点を起爆点に、拳の一撃が世界を炎熱の地獄へと変えていく。
「火属性か……アースクラッシャー!」
 イシェが連ねたのは、大地割る戦棍の豪撃。ティア・ハートの炎を加速と衝撃波に変えた、力押しの一撃だ。
 衝撃波に揺さぶられた灼熱は、その圧に耐えきれずに内側から崩壊。より強力な爆発へと、自らの姿を生まれ変わらせる。
「やるじゃない。バーストッ!」
 爆発に灼熱の焔が重なれば、地形を変える事など造作もない。即席の溶鉱炉に足を取られ、さしもの巨神も大きく体勢を崩す。
「カヤタさん。ここは俺が引き受けるから、クロウザさんを頼む。コーシェ達も、一度下げさせてるから」
「はい……」
 静かな言葉と共に、ボロボロになった黒羽根が大きく広がり……
「……む」
 その瞬間、巨神の首もとが、爆裂した。


「……やっと、やってくれたか」
 内側から吹き飛ばされた装甲鈑の内より、五つの閃光が飛び出した。
 巨神の左膝が折れて大地を割り、巨大な三条の筒を背負う躯が、ゆっくりと大地に近付いてくる。
「……あれ?」
 既に火器の斉射もない。
 倒れ込むレッド・リアをぼんやりと見上げていたイシェは、ふと思った。
「何?」
 シューパーガールが、荒い息を整えながら、問い掛けてくる。
「あれがここに倒れてきたら……」
 上空には、レッド・リアの上半身が大きく広がっている。どう見ても、この上に倒れかかってくる間合だ。
「……やべっ!」
 とっくにミンミは居なかった。
「あのコ!」
「逃げろ!」
 だが、もはや人間の足では間に合わない。
 右手が大地を穿ち、巨大な破壊音を響かせる。
 今度は、彼らの真上で破壊音が響くのだろう。
「あ……」
 その瞬間、二人の体がふわりと持ち上がった。
 ボロボロの黒翼が天を打ち、迫り来る滅びの抱擁からするりと抜け出して加速する。
「な」
 背後で起きる大破壊を聞きながら。
「俺が下がらなくて、良かっただろう?」
 そいつは、悠然とうそぶいた。



続劇
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