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sun-day stories
連作[6/6]

[2012/06/12]


 そこは、見渡す限りの荒野であった。
 地平線の彼方の彼方、さらなる彼方まで尽きる事無いひたすらの平原。
 それは、千年万年の長きに渡り意思ある刃としての生を過ごしてきた喋る剣にとっても、初めて見る光景であった。
「まあ、それはそうですよね」
 宇宙。
 それも、剣の生まれた星より数百、数千光年も彼方にある巨星の荒野だ。
 太陽よりも巨大な惑星の大地に突き立つ剣は、小さくため息をひとつ。
「あのー」
 傍らに声を掛けても、返事は無い。
 剣の感覚では少しだけ前。宇宙船は不慮の事故でこの星に不時着し……以来、剣はこうして地面に突き刺さったまま。
 大破した宇宙船から何とか脱出した天然素材好きな人型ロボットも、救難ビーコンを発信した後、助けを待つ為の長き眠りに就いていたが……人型ロボットにとっては圧倒的な長い時が、頭頂部に取り付けられた追加太陽光発電パネルの効力を喪わせ、スリープモードにしたバッテリーさえも干上がらせてしまった。
「機械っていっても、頑丈さじゃ知れてますね」
 それは、果たしてどれほど前の事だったか。
 人ならぬ時間感覚を持つ剣にとっては、ほんの少しだけ前の事。
 頭に巨大なパネルを装備して座り込む、動かぬロボットの女性は、昔見たどこかの狩猟民族の髪型にも見えた。
「あの髪型、何て言うんでしたっけ……」
 遙かな昔に聞いた事だ。思い出せるはずも無い。
 けれど剣にとっては、その思い出す事すら十分な暇潰し。
 たとえ千年、万年かかろうとも、その間の時間潰しと考えるならば十分に有り難い事なのだった。


 それから、さらなる時が過ぎた。
「そうだ。モヒカン」
 思い出すまでに、千年かかったか、万年かかったか。
 思い出せた事が重要なのであって、掛かった時間は剣にとってさしたる問題では無い。
 だが、そこで気がついた。
「ああ、しまった。思い出してしまった」
 どうしよう。
 そうも思うが、思い出してしまったものは仕方ない。
 視線をやれば、相変わらず止まったままの女性型ロボットの首筋に、小さな銘板が打たれているのに気が付いた。
「輸入元は……何で読むんですかね、この国」
 以前見た言語のはずだが、どうにも思い出せない。
 どうやら次の暇潰しは、この銘板の読み方をたぐっていけば良いらしい。
「……おや」
 そんな、新たな暇潰しを見つけた剣に掛かるのは、影。
 星の影でも、傍らに不時着したきりの宇宙船の残骸の影でも無い。
 歩み寄る、人の影だ。
「お久しぶりです」
 そいつは無言で剣の柄に手を伸ばし。
「どうやってここまでいらしたんです?」
 今更救難ビーコンが近くの星に届いたのだろうか。それにしては、見知った顔が千年万年を経てここまで来るというのも過ぎた偶然だとは思うけれど。
「ったくもう。また乱暴に扱うんですか?」
 宇宙服の奥。
 剣が知る中で、最も乱暴で、最も取り扱いが雑で、最も適当で、最も自分を安く売り叩いた手が、柄を握り締める。
 剣を抜き放つその動作は、やはり剣の記憶の中で最も力任せで……。

 最も愛おしくて、最も思い出深いものだった。

 願わくば……。


お題:『モヒカン』『平原』『輸入元』



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