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「父さんっ!」
 ばたーんと扉を蹴破る勢いで入ってきたのは、一人の少女だった。
「何だ、すぴか。ご近所に迷惑だろう」
 もっともな事を言っておいて、少女……すぴかの父親は再びごろりと横になった。多魔総合大学で教鞭を執る優秀な魔法学者だというが、ダラダラとナイターを見ている姿はとてもそうとは思えない。
 ちなみに魔法生物の入り乱れる多魔の魔法ナイターは、冬でもやっている。というか隣国の日本のペナントレースと時期をずらしてあるため、冬こそが魔法ナイターの本番だった。
「ンなナイターなんか問題じゃないのっ!」
 相変わらずの大声に、ばん、っとちゃぶ台をぶっ叩く音が加わる。
「すぴか。静かになさい」
「何やってんだ、すぴか……」
「あ、母さんとアークもちょうどいい所に!」
 入ってきた清楚そうな女性と一匹に犬にもそう声をかけておいて、すぴかは三度父親を問いつめた。
「この項目は何よっ!」
「何って……」
 びっと突き出されたのは一枚の紙。
 夕方市役所からもらってきた、戸籍謄本の写しだ。
「アークとお前が義理の兄妹ってのはもう決着ついたろうが……」
 よっこいしょ、と再びナイターに戻る父親の襟首をひっ掴んで、無理矢理にこちらを向かせるすぴか。
「ちがーう! ここ。ここ!」
「あー?」
 のぞき込む一同。
「ここ! この種族の欄!」
 多魔の戸籍は基本的に独立前の日本のものと同じだが、新たに種族という欄が付け加えられている。何せ日本と違い、異世界から流れ込んできた魔法種族がたくさんいるからだ。
 もちろんアークと彼の母親の種族欄にはホワイトファング、すぴかと父親の欄には人間と記入されている……はずだった。
 ところが。
「『魔具っ娘』ってどういう意味よ!」
 魔具っ娘。
 主に古代遺跡から出土される人造生命の総称だ。異世界の魔法種族ではなく、多魔産の魔法種族である。もっと正確に言えば、人造生命という事で人間ですらなかったが。
「……」
 返事はない。
「あー」
 どうでもいいような沈黙が延々と続き、ようやく出てきたのは間延びした声。
「あーあー。そうそう。お前、魔具っ娘だった」
 もっとも魔具っ娘だからといって一般人と何が違うかと言えば、何が違う事もない。その辺の魔法種族が何ら差別されないのと同じように、ごく普通の多魔の住民として扱われている。
 とはいえ、自分が魔具っ娘だったと知れればそんな事は問題にならないワケで……。
「だったって、ちょっとぉっ!」
「……ていうか、前は見なかったのか? お前」
 今回すぴかが書いているのは、キングの入試の二次募集に応募するための書類だったはずだ。戸籍謄本の写しも、前のルーメスの入試の時に見ているはず。
「見てるわけないじゃない! こんな所!」
 だろうなぁ、とため息をつくアークを無視して、すぴかは父親にさらに詰め寄る。
「じゃ、母さんが死んだってのは……」
「俺みたいな所に来てくれる物好きなんて、リトくらいだって……」
 リトとはアークの母親の名前だ。15年ほど前、生まれたばかりのアークを連れてこの世界に流れ着いてきた、異世界の亡命者。今は亡命の罪を帳消しにされて、この家で穏やかに暮らしている。
「…………何で……」
 だが、相変わらずへらへらと笑っている親父に涙混じりの声ですぴかは叫んだ。
「何で言ってくれなかったのよ! あたしが人間じゃないって!」


 すぴかが泣きながら走り去った後。
「普通の人と同じように育てたつもりだったんだが……」
 ナイターを眺めながら、父親はぼそりとそう呟いていた。
「普通に育てすぎたかなぁ」
 人造生物『すぴか』が発掘されてこの家に来たのは、もう16年も前の事だ。
 赤ん坊だったすぴかが来て、リトが来て、アークが来て。
「おかげで、アイツが魔具っ娘だったなんてすっかり忘れてたよ」
 リトとアークが異種族だったという事もある。家族が増え、何やかんやと賑やかに過ごすうち、いつしか人並み以上の感情を示すすぴかが人造生命だという事をすっかり忘れていた。
 さっきすぴかに突っ込まれて思い出したのは、演技ではなかったのだ。
「で、どうよ。兄としては」
「ま、親父も一言言ってりゃよかったんだろうけどな。俺、ちっと探してくるわ」
 この父娘の迷惑さ加減はいつものこと。もう慣れた、という風にため息一つ残して白狼化し、そう言い残して去る。
 そんなアークに、父親は例によってのんびりと呟いていた。
「アークぅ。ついでにすぴかがぶっ飛ばしたドアも直しといてくれー」


「すぴか……」
 アークが匂いをたどって追い付けば、すぴかは家の倉庫の隅にうずくまっていた。
「お兄ぃ……」
 薄暗い闇の中、弱々しく頭を上げ、泣きはらした顔で小さく呟く。
 まあ、人間だと思っていたのがいきなり人造生物だと教えられればショックだろうけれども。
「帰ろ。な?」
 白い鼻面をそっと寄せ、アークは珍しく優しい声をかける。
「嫌……」
「すぴか……」
「触らないで!」
 そう叫ぶとすぴかはアークの鼻面を振り払った。
「あたし、魔具っ娘だったんだよ。お兄ぃの妹でも……ううん。人間ですらなかったんだよ……」
 そう言って再び顔を膝に埋め、うずくまるすぴか。
 だが、そんなすぴかに掛けられた声は……
「……お前なぁ。それ、変だぞ」
 苦笑だった。
「……どうせ変だもん」
 すぴかはうずくまったまま、涙声で答えるのみ。
「妹なのに……お兄ぃの事が好きだったりするしさ……」
「……」
「笑っちゃうよね。あたし、お兄ぃの事考えるとドキドキしちゃうんだよ? これって、やっぱり魔具っ娘だから……かな?」
 そこまで言って顔を上げたすぴかは、軽く笑う。
「すぴか……」
 自嘲気味に笑ったその笑顔が痛々しくて。
「お兄ぃ……」
 アークはすぴかに顔を寄せ、目元に浮かんだ涙をそっと舐め取った。
「それは多分、変じゃない」
「お兄ぃ……そこ……」
 そのまま胸元に狼の顔を押し入れ、襟元から覗く細い鎖骨に優しく舌を這わせてやる。軽く首を振ると、シャツの胸元のボタンがするりと外れ、飾り気のないブラが露わになった。
「俺も……お前の事……」
「あ……や……やぁ」
 胸元を這う獣の舌。
 だが、声は嫌がっていても、それをはねのける手は動かない。
 いつもなら平手の一発も出ているタイミングだというのに。
「あ、そこ……ッ!」
 センターホックのブラを器用に口で外されても、力ない言葉で弱々しく拒むだけ。体育座りをした胸元にねじ込まれた狼の舌に、腕の力が抜け、両脇にだらりと垂れ下がる。
 開いた裸の胸と膝の隙間に、狼の頭がさらにねじ込まれた。
「お兄ぃのバカぁ……けだものぉ……」
「欲望の世界出身のケダモノに言う言葉じゃないよなぁ……。そりゃ」
 苦笑しつつ、それでもアークはすぴかの胸を舐める事をやめない。
「ひぅっ!」
 それどころか、鼻面を薄い乳房に押しつけられ、軽く尖った乳首を舐められて。
 すぴかは小さく悲鳴。
「俺も……変か?」
 ようやく視線を上げた狼が、そう言って穏やかに問うた。
「……うん。変だよ」
「変か……。ま、俺も人間じゃないしな」
「……そうだね。そうだった、ね」
 くすり、すぴかはようやく笑い、胸に顔を埋めたままのアークの背中をそっと抱きしめた。少し硬い純白の毛並みに頬を寄せ、血の繋がらぬ兄に言葉を紡ぐ。
「やっと分かったか。バカ」
「……うん」
 人間じゃないのは自分だけじゃない。
 落ち込んで、泣いて。そして落ち着いたら、自分の事なんて大したことないように思えてきたのが不思議だった。
 それに……たとえ魔具っ娘でも、作られた存在でも、自分は自分だ。
 きっと。
「ありがとね、お兄ぃ」
 抱きしめたまま、にっこりと笑う。
「なら、その格好を何とかしろ。目に悪い」
「お兄ぃがやったくせに」
「襲われたいか」
 こちらもへらりと笑うアーク。
 だが……答えはない。
「……すぴか?」
 抱きしめている妹は沈黙を守ったまま。
 薄暗がりの中、沈黙は重く。
「お兄ぃだったら……」
 ようやく破られた沈黙は、妹から。
「……でもね」
 決めたんだ。
 創られた存在、創られた想いだろうと……。
 自分は自分。
 自分の想いには、素直に行こうって。
「……はじめては、人間のお兄ぃがいい」
「……そっか」
 狼がそう答えた瞬間。
 月光の中、少女の腕の中に現れたのは白髪の長身の少年だった。
「すぴか……」
「お兄ぃ……」
 好き。
 抱きしめてくれるこの腕が。
 見つめてくれる瞳が。
 この人が。
 大好き。
 そう思う事が、ひどく自然に思えた。
(魔具っ娘でも、お兄ぃが好きでいられるんなら、いいかな)
 そんな思いを抱きながら、暖かい腕に身を任せる。


「あ……はッ……」
 いきなり吸われた乳首の感触に、すぴかは小さく悲鳴を上げた。
「お兄ぃ……ッ!」
 甘噛みされ、先端を舌で転がされる。人の姿になってもなお鋭い犬歯に挟まれた根本から、ちろちろと舐められる先端から、痺れるような感触が伝わってきて、アークを抱いている両腕から力が抜けていく。
「だって、目の前にあるんだぜ?」
 そう笑って、またもや軽く吸う。
 人化したとはいえ、基本的な構造は変身前と変わらない。犬科特有のざらざらした舌で硬くなった先端を根本から舐めあげられ、また声が漏れる。
「おに……ぃ……。最初は……」
「ん?」
「キス……が……ぁ」
 痺れる頭で、それだけを呟く。
 兄を心から受け入れた今、感度は先程の何倍にも高まっている気がした。火照った頭ではそう言うのが精一杯だ。
「あ、悪ぃ。そうだったのな」
 苦笑し、アークは上気したすぴかの唇に軽くキス。
「お兄ぃ……?」
 初めてのキスは少し乳臭い味がした。
 不思議そうにしていると、唇を離したアークが意地の悪い笑みを浮かべる。
「お前の、だよ」
「んもぉ……意地悪ぅ……」
 その言葉の意味をようやく理解したすぴかは、少し拗ねたように自分からセカンドキスを求めた。
 2度目は、最初より少し長く。
 3度目で、すぴかの舌が遠慮がちにアークの歯を割る。
「すぴかってば、だいたぁん」
「……いいじゃないよぉ」
「ん、いいよ」
 4度目のキスはアークが主導で。
 すぴかの口内に入ったアークのざらついた舌が、少女の口の中を舐め上げていく。それを迎え入れるようにすぴかも舌を絡め、ちろちろとアークの温かい物に触れ合わせる。
 舌から滴り落ちる粘度の低い液体がすぴかの口の中へと流れ込み、すぴかのそれと混ざり合っていく……。
「……くは……っ」
 息が苦しくなるまで唇を重ねて、ようやく離した。
「ちょっと、いやらしいね」
 抱き合ったままの2人だから、唇を離しても互いの上気した息がかかる距離から離れる事はない。2人の唇をつなぐ銀の橋もあまりの近さに途切れていないほどだ。
 くすりと笑い、薄明かりに光る橋はようやくぷつりと途切れる。
「満足?」
「……うん」
 少しはにかみながら、すぴかはかすかに首を縦に振った。
「じゃ、胸な」
「やだ。お兄ぃ。あたしのおっぱいの事しか考えてないのぉ!?」
「……なら他の所にする」
 そう言った時にはもう遅い。
「え? あ、ひゃぁっ!」
 乳房の下、へそから脇腹にかけてをすっと一文字に舐められ、悲鳴を上げるすぴか。
「お兄ぃ、そこ……あたし、弱ぁ……ぁう」
 気持ちいいというよりくすぐったい感触に、細い身体を曲げて堪える。が、相変わらず舌を這わせる兄に容赦はない。
「お前な……。なんつーか、俺の前で無防備すぎなんだよ」
 自分がいくら犬の格好だからといって、目の前の娘は自分の前で平気な顔をして下着姿でうろついたり、服を着替えたりするのだ。おかげでアークはすぴかの身体のラインから弱い所に至るまで、しっかりと把握済。
「だから、ここも弱かった……よな?」
「ひあぅ!」
 他の場所を舐められ、またも甘い悲鳴。
「ま、いいや」
「よ、よく……ない……っ」
 息も絶え絶えにしているすぴかを尻目に、アークはそっとスカートに手をやった。
「やだ……お兄ぃ……ちょっと!」
 服の上、下着の上からだというのに、軽く押さえるだけでそこにはじわ……と黒い染みが浮き出てくる。
「ちょっとくわえてて」
「え、あ、やだ……んっ……」
 捲り上げたスカートの端をすぴかにくわえさせておいて、アークはそっと染みの源へ鼻先を押しつけた。
「ひゃ……お兄ぃっ! あたしの匂いなんか嗅いで! や、変態っ!」
「だって、俺ら、こういうのねえと燃えねえんだもん。ケダモノだから」
 じゅぶ、という水音と共に湿り気が鼻先に絡みつき、ショーツの吸いきれなかった水気が下着の上に溢れ、コンクリートの上に滴りおちていく。
 すっとその上に舌を走らせると、暖かいそこは小さく震えているのが分かった。
「見ていい?」
「ひゃ……やぁ、だっ」
 思わずスカートの端を離し、すぴか。薄暗い倉庫の中で露わになっていた下着姿の下半身が、アークの顔と共に再び覆い隠される。
「じゃ、見ないけど……」
 やれやれとスカートの下から顔を抜き、変わりに空いた右手をそっとその下へ差し入れる。
 くちゅり
「はぁ……ッ!」
 中がどうなっているのかはすぴかにもアークにも見えない。けれど、互いの身体に伝わってくる感触で分かる。
 濡れそぼったショーツを越え、熱く湿ったすぴかの中に細い少年の指先が浅く挿し入れられた音だ。
「見えた方が、よくね?」
 挿入と言うほどではない。入り口の薄い襞に指の腹を絡ませるようにしているだけだ。それでも、ゆっくりと動かすだけですぴかは熱に浮かされたような声を上げてくれる。
 その顔を見るだけで、目の前の少女が愛おしくてたまらなくなる。
「ぁ……お兄……ぃっ!」
 溢れる想いを注ぎ込むように唇を奪い、股間の指を感触だけで動かした。見えない右手は愛液に濡れてベタベタになっているようだったけれど、それが逆に嬉しくて、濡れた所をショーツの中に滑り込ませ、秘所全体に塗りたくっていく。
「や、お兄ぃ、手がぁ……」
 甘い喘ぎに、再び唇を奪う。
 顔と股間の火照りを楽しむかのような、少し長めのキス。
「すぴか。後、向いて……」
「後ぉ……?」
 その唇を離した後の言葉に、すぴかは少し不満そうな声をもらした。
「種族的な問題だよ。悪ぃ」
「もぅ……。でも、最初は犬はヤだからね?」
「分かったよ」
 そう言って、すぴかはアークの方にお尻を向ける形でうずくまった。本当は正面からアークの顔を見ていたかったけれど、ホワイトファングがそれに向かないというのなら仕方ない。
 ぺた。
 服のずり落ちた裸の背中あたりに、肉球の感触。
 ……肉球?
「や、お兄ぃ、犬じゃないっ!」
「悪い。やっぱ、制御効かんかった……」
 ずく、という熱い感触が腰の辺りに来た。
 まだ入ってはいない。けれど、熱いものは入り口まで確実にやってきていた。触れられている滾りに、すぴかの柔らかい部分が痛い程震えているのが分かる。
 求めている。
 自分のカラダが兄を求めているのが分かる。
 けれど……嫌だった。
 初めては動物のように犯されるのではなく、互いの想いを確かめるような形で成し遂げたかった。
「やっぱ……人の方がいいか?」
 けれど、耳元で囁かれる声は、柔らかな動物の匂いがした。すえた獣の臭いではない、艶のある白い毛並みの、ふんわりとした温かい匂い。
 いつもすぴかがアークを洗う時に使っている、石鹸の匂い。
「……いいよ」
 背中から包んでくれる白い毛並みは、優しく、暖かかった。
 さっき包んでくれていた腕と同じか、それ以上に。
 だから、
「お兄ぃだもんね」
 受け入れた。
 そして、入ってくる。
 熱い。内側が灼かれそうなほどに熱を孕んだ兄のものが。
「ンっ! …………くぅっ……」
 ぶつっ、という音と痛みに叫び声を上げそうになるが、背中から伝わってくる温かさで何とか乗り切る事が出来た。
「力、抜いて……」
「くふぅ……」
 最後の最後でやってきた入り口を拡張されるような異様な感触を必死に乗り越え、ようやく一息。一杯に満たされた躯の中とのし掛かられた背中全体、兄の温かさを全身で感じながら、長く長く息を吐く。
 結合部に鈍い痛みはあったけれど、アークと一つになれたという事の方が今は何倍も嬉しい。
「ね、お兄ぃ……」
 前にアークの部屋で読んだエッチな本には、挿入が終わった後で一息つくと書いてあった。
 何をお話ししようかな。でもでも、黙ってお兄ぃの事を感じるのも悪くないな……。
 そんな事を思いながら、少し甘え気味な声で切り出す。
「悪ぃ。もう出る」
「えっ!? え、あ、はぅっ!」
 抽挿ともいえない軽い前後運動の後、すぐにそれはきた。
「あっ! ひゃ……あっ! やだぁっ、ばかっ!」
 犬だから行為から出るまでが早い。
 どうやら、最後まですぴかの予定どおりにはいかないらしかった。


「お兄ぃ……」
 狼のままのアークに背中から抱かれたまま、すぴかは上擦った声を上げた。
 もう何度目になるだろうか。20分ほど経っているのは腕時計で分かるが、何回放たれたかまでは思い出せない。
「悪いな……何せ、犬だからさ」
「ゴロゴロ言ってるよぅ……」
 うずくまったままで腹の方に視線をやれば、アークの精に満たされてお腹がぷっくりと軽く膨らんでいるのが見えた。
「んぅ……っ」
 そこに、さらに追加の射精。
 ドクドクと遠慮なしに注ぎ込まれる熱いたぎりに、すぴかは細い身を震わせる。
 既にすぴかの中はアークの精で満たされている。さらに放たれる精に胎内をぐるぐると掻き回されるような感触は、既に慣れた。ただ……。
「お腹、破裂しちゃわないかなぁ……」
 犬のペニスは射精中に抜けないようになっているから抜くに抜けず、際限なく注ぎ込まれる精に下腹部の膨脹感だけが高まっていた。心地よい膨脹感だが、そんな心配がないわけでもない。
「大丈夫だって。そろそろ終わると思うから……ほら」
 そう言うと、アークは腰を軽く引いて見せた。
 今まで抜ける気配など微塵もなかったペニスがあっさりと抜け、それと同時にすぴかの股間からゴボゴボとアークのものが溢れ、流れ落ちはじめる。
「よくがんばったな……」
「……ひっく」
 掛けられた優しい声と同時にすぴかの胸にこみ上げてきたのは、奇妙な喪失感と……涙。
「すぴか……」
「お兄ぃ、知ってる? 魔具っ子だってね、愛してもらえたら……赤ちゃん、出来ちゃうんだよ?」
 その上でこれだけ精を放たれればどうなるか。その結論に辿り着くのはそう難しい事ではない。
「……へぇ、そうなんだ?」
「そうなんだ、って……」
「俺が責任取りゃいい話だろ? 何そんなに腹立ててんの?」
 ……。
「……ナンデモアリマセン」
 さらりと言うアークに、すぴかは返す言葉がない。あまりにも当たり前に答えたそれが、嬉しくもあり、どこか悔しくもあり。
「すぴかぁ……」
 しゃくりあげるすぴかに、アークは背中からそっと鼻面を押し付けた。目元に浮かぶ涙を申し訳なさそうに舐め取ってやる。
 狼のアークには、少女の涙が少しだけ塩辛い。
「あとね、お兄ぃ……あたしね……。ホントは、人のお兄ぃに最初はやってほしかったの……」
「……悪かったな。こっちじゃなきゃ、制御がな」
 アークの本体はあくまでもこちらの狼の姿だ。人化の魔法は集中が途切れたり体力が極端に落ちたりすると維持できなくなる。リトくらいになればまだしも、まだまだアークは半人前なのだ。
「だから、約束」
「ん?」
「次までには、人でも出来るようにしてね?」
 満面の笑みで無理難題をふっかけるワガママ娘。
「それと、前から入れてくれるようにすること♪」
 まあ、いつものすぴかでは……ある。復帰早々ワガママをぶちかますのを喜んでいいものかは微妙なラインだったが。
「いい?」
「はい……善処します」
 念を押すように言うすぴかに、アークはがっくりとうなだれる。
「帰ろうか。母さんも親父も心配してる」
「……うん!」


「お帰り」
「へへぇ。ご迷惑おかけしました」
 相変わらずナイターの延長戦をダラダラと眺めている父親に、すぴかは少し照れ気味にそう答えた。
「お風呂、沸いてるわよ」
「うん。ありがと、母さん」
 ホワイトファングの女性。異世界からやってきた異種族の女性。
 いつもと同じはずなのに、素直に『母さん』と呼べる事に少しだけ照れくさい物を感じる。
 同じ異種族だから?
 たぶん、答えは否。
「どうしたの。変な顔して」
「ね。あたしって、母さんの娘だよね?」
「何バカな事言ってんの。早く入ってらっしゃい」
 穏やかな笑顔で軽く頭を撫でてくれる母親に、そうだよね、と軽く笑って、すぴかは傍らにいたアークの首を掴んだ。
「お兄ぃ、一緒に入ろ」
「はぁ? 何考えてんだ、お前」
「いいじゃない。そう言う気分なんだから」
 そのまま嫌がるアークを抱え上げて、すぴかは風呂場へと向かう。狼になっている間はどうしてもすぴかの方が大きいから、アークに抗う術はない。
「なぁ、おい」
「何?」
 ふとごろ寝している父親に呼び止められ、すぴかはアークを抱えたまま足を止めた。
「外はまだ寒いから、ヤる時はアークによく暖めてもらうんだぞ」
「……なっ!」
 相変わらずダラダラしている割にとんでもない事を言った父親に、2人は言葉を失う。
「気付いてたの? っていうか普通怒らない?」
 何せ、義理とはいえ兄妹の間の出来事だ。普通の感性の持ち主であれば、大目玉くらいでは済まないだろう。
「アークは責任取ってくれるんだろう?」
「まあ、そりゃ、取るけど……」
「ならまあ、いいんじゃないか? なあ。母さん」
「そうねぇ」
 2人は忘れていたのだ。
 彼女たちの両親が、異世界の存在が明らかになるはるか昔から愛を育んでいたという事に。異種族の壁が気にならないなら、義理で血のつながりのない2人の感情も気にしない……かもしれない。
「……あたしがバカだったわ。父さんって、こんな人なのよ」
 何せ自分の娘が魔具っ娘だった事すら忘れるような父親だ。少々の事を気にするとは思えない。
「だな……」
「お風呂いこ、お兄ぃ。なんか考えるのもバカみたいに思えてきた」
 相変わらず狼なアークを抱えたまま、すぴかは今度こそ風呂場へと姿を消した。
「なぁ、母さん」
「何ですか?」
「あいつら、上手くやっていけるかな?」
「ええ」
 そう言って、二児の母親はころころと笑った。
「だって、私たちの子供ですもの」

< 単発小説 >



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