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 ゆっくりと、日が昇っていく。
 朝日だ。なすび色のぬいぐるみが朝刊配達を終え、牛乳屋さんも配達を終え、早朝ジョギングのおじいちゃんおばあちゃんがそろそろ走り出そうかという、夜と朝の中間に位置する時。
 そんな中。普段ならまだ眠りの底に沈んでいるはずの古びた建物に、ぽつんと光が灯っていた。
 朝日に照らされた表札には、『味楽来学園・学生寮』とある。
「困りましたわ……結局何もできませんでしたわ」
 まだ暗い学生寮でただ一つ灯った自習室で、少女は呆然と呟いた。ただ、間延び気味でおっとりとした口調は、緊張感のある内容とはかなりかけ離れていたが。
「どうするんでプ〜!」
 追い打ちをかけるように叫んだのは、調理台の上に転がっているぬいぐるみのような物体だった。甲高い声を放つそれは、何かを食べ過ぎたかのように丸々と太っており、動くことさえままならない。
「そうですわ!」
 ふと、少女が口を開く。
「どうしたんでプか? ミミカ」
「そういえばわたし、もう一つ料理の作り方を知ってましたわ……」
 父親から教わったレシピは、ゆでたまごたった一つ。しかしもう一つ、父の書斎でこっそり読んだレシピがある。
 それを思い出したのだ。
「なら、それを作るでプ! ……でも、まともに作れるでプか?」
 疑いの視線を向けてくるぬいぐるみに、ミミカは言葉を詰まらせる。
 レシピはちゃんと覚えていた。作り方も、さして難しくない。後は……それが、実際に形になるかどうかだ。
「作り方はちゃんと覚えてますもの……だから、それに賭けてみますわ!」
 だが、時間はもうない。
 それに賭けてみよう。
 そう思い、姫野ミミカは強く拳を握り締めるのだった。


ゆで☆たまご(つの○☆ひろと同じ読み方で)のひみつで味楽る
でプモ!


「段田はじめ、黒星!」
 無情な声が、教室に響き渡った。
 味楽来学園に入って初めての実技テスト。分厚い瓶底メガネを掛けた少年に下された評価は、最低の黒星。
 しかし、その評価を受けたのは彼だけではない。
「これで、クラス全員黒星なのネ!」
 椅子の上に立った小太りの男は、呆れ顔でそうぼやく。
 リンゴの帽子にくるくるほっぺ。でっぷりとした肥満体に、椅子の上に立たねばならない小さな体は、人を馬鹿にしているとしか思えない。けれど、彼こそが一流の料理人にしてこのクラスの担任、アジマルその人だった。
「アジマル先生! まだ……」
 あの子がいます。
 お団子髪の少女がアジマルの言葉に反論しようとした、その時。
「遅れてすいません!」
 がらりと教室の扉が開き、一人の少女が姿を見せた。
 ふわふわの髪に、フリルの付いた愛らしいエプロン。おっとりとした口調も、この時ばかりは真剣そのものだった。
「アジマル先生お願いします! わたしの料理、食べてください!」
 ミミカ。
 誰かが、そう口にした。
 そう。まだ一人、このクラスには彼女が残っている。
「で、何を作るのネ?」
 だが、その言葉にもアジマルはつまらなそうに呟くだけだった。
 ミミカの料理の腕前を、アジマルはとっくに見抜いていたのだ。
 舌は確かだが、料理の腕前は素人以下。どうやってこの味楽来学園に入ったのかは謎だが、どんな秘策をもってしても、アジマルの真意をくみ取った料理が作れるとは思えない。
「むきタマゴ酒!」
「なにぃーっ!」
「むきタマゴ酒ぇ!?」
 高らかに叫ぶミミカの言葉に誰もが言葉を失った。
 誰もが聞いたことのない料理名だったからだ。
 どんな料理か首を傾げた者が半分、そもそもタマゴ酒は料理じゃないじゃんと無言のツッコミをかました者が半分、といったところか。
「むきタマゴ酒!?」
 そんな中で驚きの声を上げた者がいた。
「知っているのか? 若旦那」
 お団子髪の少女の問いに、若旦那と呼ばれた少年、段田はじめは短くうなる。
「ああ、聞いたことがある。かつて……」
 伝説の料理・ワカメ酒。
 はるか中国は春秋戦国の時代、それを飲みたくて飲みたくて仕方のない漢が居た。しかし並外れた下戸で酒が一滴も飲めなかったその漢は、タマゴ酒にヒントを得、酒の代わりに卵を使うことによって、その欲望を満たしたのだという。
「……民明書房刊『世界のびっくり飲酒伝説』からの抜粋だ」
「いや、それお酒じゃなくてワカメタマゴって言うべきじゃないの……? それにムキの意味は……?」
 ツッコミどころ満載の説明だったが、いちいち突っ込むとキリがないので主要ポイントだけをかいつまんでツッコむお団子髪の少女。
「そこは伝説のまんまなんだ。どうやら、どうしてもお酒って言い張りたかったようで、酒を付けたらしいんだけど……」
「へぇ……で、ミミカがその伝説の料理を……?」
 ごくり。
 目の前で蘇る伝説の料理に息を飲み、少女達はミミカの次の動きを静かに見守るのだった。


「まず、卵を割ります」
 ぱかりとタマゴを割り、ボールに落とす。新鮮な卵は黄身に張りがあり、料理の苦手なミミカでもきれいに割ることができた。
「それから、服を……」
 ふと、言い淀む。
 繋がる言葉が見つからないのか。ミミカはもじもじとしたまま、料理を続ける気配すらない。
「どうしたのネ?」
 アジマルの問いにも、服を、で止まるばかりで、可憐な頬を赤らめるばかり。
「ミミカさん、早くするのね」
「服を……脱ぎ、ます」
 その言葉と同時、愛らしいフリルの付いたエプロンがひらりと床に舞い落ちた。
(あ……みんな……みんな、見て……ますっ)
 それは、伝説の料理に関する興味だけではない。
 おっとりとしたミミカでさえ、理解できた。異様な熱の籠もった視線が、自分一人に集まっている。
(見ている者をドキドキさせる工夫なのネ!)
 無論、アジマルも少女から視線を外せずにいる一人だ。むきタマゴ酒はアジマルも、食したことはおろか見たことすらない。それが、目の前の少女によって再現されるとなれば……。
「みんな、伝説の料理の再現なのネ! 各自、見やすい位置で見ていいのネ!」
 アジマルの言葉と同時、教室が歪んだ。
 あっという間に机はその位置を失い、ミミカを取り囲むように人垣が組み上げられる。
 ぱちりというホックの外れる音に続いてスカートが細い脚を滑り落ち、その中央を覆う純白の三角に教室中の視線が注ぎ込まれる。
「ん……んん……っ」
 かすかに上擦った声と、息を飲む空気の中。
 純白のショーツに少女のか細い指が絡み付き、少しずつその位置を下げていく。太ももを抜け、膝頭を過ぎて、姿勢は軽く前屈みに。
 少女の後ろにいた男子達は、ミミカの小さなお尻に視線を釘付けにしたままだ。しゃがみ込み、立ち上がる気配すらない。
 少女の前にいた少年達も、ミミカのショーツの奥、淡いスリップに遮られた処を瞳に焼き付けようと必死だった。やはり、立ち上がる様子はない。
「ん……っ」
 わずかに足を上げ、片足ずつショーツから引き抜いた。音もなく床に落ちた白い布の塊に、どこからともなく憧れとも感嘆とも取れぬ声が届く。
「あれ?」
 男達の視線を一身に受けながら、ふと我に返った少女はぽつりと呟いた。
「どうしたのネ?」
(あれ……? どっちにすればいいの……)
 エプロンとスカート、ショーツまで脱いでしまったのは仕方ない。少なくともショーツは脱がないと、むきタマゴ酒は作れないからだ。
 しかし、上は脱ぐべきなのだろうか。
(着たままと裸……アジマル先生はどっちが好きなんだろう……?)
 そこを外せば、むきタマゴ酒は真価を発揮できない。
「先生……」
「どうしたのネ? 早く作るのネ」
 視線を投げてみるが、アジマルの答えは冷たい。今更問うたところで、好みの答えが返ってくるとは思えなかった。
「は……はい……」
 おずおずとボタンを外し、肩口にブラウスを滑らせていく。アジマルに視線を送るが、小太りの男の表情は微動だにしない。
(着たままのライン、越えちゃいました……どうしよう)
 明るい色のブラウスが指先を滑り落ち、ぱさりと床の上に広がれば、そこにあるのは半裸の少女の姿。下に着たスリップを脱ぎ、ブラを外してしまえば、ミミカはもう全裸になってしまう。
(次は……)
 二枚の薄布だけで覆われた胸元。
 完全に露わになった秘所。
 柔らかく丸まるお尻と、そこから伸びる幼い脚線。
 男子生徒の視線を痛いほど全身に受けながら、ミミカは今度は淡いレースのスリップに手を掛けた。
 裾を引き上げ、透けるほどに白い肌の上。少女の裸身を覆うスリップを、ゆっくりとたくし上げていく。
(あ……!)
 その瞬間、アジマルの鼻がひくひくと蠢いた。
「今だ!」
 いまだ幼児体型から変わり切らぬ、白いお腹のわずか上。ブラが少しだけ見える位置。左腕でスリップをその位置にキープしたまま、ミミカは床にぺたんと座り込む。
「脱ぎ終わったら、すぐに卵を入れます……。ふぁ……つ、冷たい……」
 ぴったりと閉じられた太ももの間。三角州となったその場所に、割ったばかりの卵をとろとろと流し込んでいく。
「なぜ! 先生の好きな脱ぎ加減が分かったのネ!?」
「えへっ。分かり……ました」
 冷蔵庫の冷たさが残ったままの卵に微かに身を震わせ、ミミカはあどけなく笑う。
「脱ぎかけ手前の、ちょいとおなかが見え、なのネ〜!」
 稚ない笑顔に、幻の料理。そしてその上を飾るのは、アジマルの好みの脱ぎ加減。
「それじゃ、先生。召し上がれ」
「いただくのネ」
 ミミカの三角州に顔を寄せ、アジマルは伝説の料理に口を付ける。
「ほんのり塩味が効いてるのネ〜」
「やぁ……そんな……っ」
 昨日は徹夜でお風呂にも入っていないことを思い出し、恥ずかしくなったミミカはうつむいたまま。羞恥に身を震わせる少女に気付く様子もなく、アジマルは新鮮な卵をすすり上げる。
「あ……っ! ふぁ……せんせ……っ……そんな、音……立てちゃ、だめですわぁ……っ!」
 無論、口の中で黄身を割り、その混ざり具合を愉しむことも忘れない。
 だが。伝説の料理を愉しんだ後、ふと目をやったその場所に……アジマルは、息を飲んだ。
「ああ。白身の絡んだあそこが、むきタマゴみたいにつやつやしてるのネ……」
 ワカメ酒ではない理由。
 確かにこれは、むきタマゴ酒。
 まだ毛も生えていないミミカだからこそ再現できた、伝説の料理だ。
「や……だめ、ですぅ……。そのお鼻はだめぇ! 息がぁ……っ」
「はっ!」
 余りの感動に顔を近付けすぎていたらしい。
「お、美味しいのネ〜」
 頬を赤らめ、幼い快感に立ち上がれずにいるミミカの声に我に返り、アジマルは満面の笑みを浮かべる。
「嬉し……い……っ」
 男子生徒達の視線を一身に受けながら。
 下半身を粘液にまみれさせた半裸のお嬢様は、花のような笑みを浮かべるのだった。
おわり
< 単発小説 >



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