第6話 鋼鉄愛するもの 「じゃあ、証拠見せてよ。証拠」 イクルはヒカリを見上げ、ぽつりとそう呟く。 「証……ンっ」 こ、とまでは続けられなかった。 ヒカリが答える暇もなく。腕の中、すっと身を伸ばしたイクルに、言葉を紡ぐ場所はふわりと覆い隠される。 「おい、イクル……」 恵よりも柔らかく、甘い唇。舐めた舌先に薄く絡んだルージュのぶんだけの甘さ。 「ヒカリちゃんも、おんなのこなんだねぇ……」 そっと唇を離し、イクルはどこか呆然としたままでそう一言。あのヒカリが化粧をしているとは、露程も思わなかったからだ。 「ひどいなぁ……。あたしだって、お化粧くらいするよ」 苦笑しつつも小指で濡れた唇に触れ、赤いものをすくい取る。 心配そうな恵に悪戯っぽく笑っておいて。そのまま小指をイクルの唇に沿わせ、すっと曳いた。 「それにしても良かったの? その体のはじめてが、あたしで」 キスされた事は気にもしていないらしい。それどころか、どこか嬉しそうな笑みさえ浮かべている。 「あ……。忘れてた」 「ま、いっか。どうせこれから、たくさん恵ちゃんとエッチするんだもんね?」 今度はヒカリの側から軽いキスをして、小さな耳たぶにルージュを絡め、囁きかけた。イクルの言う『証拠』が何か、とっくに分かっていたようだ。 「……いいの!?」 「おいおい……」 ぱっと顔を輝かせたイクルと、困ったような恵。 その対比があまりに可愛らしくて、思わずぷっと吹き出した。 「恵ちゃんは、あたしと結婚したらイクルともうエッチしないんだ?」 ヒカリも一応は大人の女。恵とイクルの関係くらい、イクルの態度を見た時からお見通しだ。 「いや、それは……」 問われた恵は、さすがに言い淀む。 「イクルは、恵ちゃんやあたしと、たくさんエッチしたいよねぇ?」 「うん! したい!」 比べて、こちらは大変素直。未来のお嫁さんを前にここまで言い切られては、もう嫉妬する気にもなれない。 「あーもう。この子はぁ」 愛おしさが爆発し、恵の腕を飛び出してフローリングへ押し倒した。 「ひゃあっ!」 慌てるイクルの胸元をたくし上げ、はだけた胸に唇を押し付ける。新たな体になってもわずかなふくらみしか無いその場所に、紅いヒカリの痕を次々と刻み込んでいく。 優しい恵よりももっと優しい、ヒカリの唇。 一番感じる場所には決して触れない。そこに踏み込まないギリギリの位置で、イクルの体をねぶり続ける。舌が伸び、かすかな丘をくっと押し上げる。同じ女だからこそ出来る、悪魔のような焦らし方だ。 「あ……やだぁ……っ」 やがてそのついばみが、もう一つ増えた。 重なるくすぐりに喘ぎながらも見下ろせば、胸元で揺れる金色の髪が見える。 ニイハチだ。 鋼の少年は、ヒカリの口が届かないもう一つの胸へと舌を這わせていた。くすぐるようなヒカリとは対照的に、イクルの一番感じる場所を執拗に責め立てる少年の舌。 ヒカリによって十分に解きほぐされ、つんと勃ち上がった乳首に、甘い痛みが走る。 「はぁ……あ……ッ!」 ヒカリが与えてくれなかったものが小さく押し寄せ、思わず息が漏れてしまう。 「あ……。やっぱり、お嫌……ですか?」 イクルの啼き声に気付いたのか、少年は舌を止めて不安そうに問いかけた。 ウィルスのせいだとはいえ、チヤカを大破させた事を気にしているのだろう。いつもは表情を出さない顔が、今は泣き出しそうになっている。 「……ううん」 心に響くチヤカの声に、イクルはそっと手を伸ばした。 ニイハチの頭に触れ、小さな胸にもう一度押し付ける。 「……ありがとう」 再び始まった舌での愛撫は、一転してヒカリのような優しいものだった。イクルの性感を甘く研ぎ澄ませるだけの、嬲るようなじれったい舌遣い。 「や……もっとぉ……上ぇ……」 届かない。届かせてもらえない。二人が注ぐさざ波のような快楽では、最後の一線を越えるには至らない。 ひどい。この瞬間だけ、ヒカリとニイハチが悪魔に見える。 その悪魔の上に、大きな影が重なった。 「……いいかな、これで」 恵だ。 「ふふ。成立、だね」 ヒカリが微笑み、イクルの上を恵へと譲る。 「恵ちゃぁ……ん。ね……キスぅ……ちょうだぁい」 新品の回路は狂おしいほどの熱い想いに灼け付きそうだ。上擦った声で、力ない手を一杯に伸ばし、ひょろ長い天使をひたすらに求める。 今度こそイクルは恵と唇を重ね合わせた。 恵に捧げる、二度目のファーストキス。 「あ……はあ……ぁぅぅ……っ」 漏れる吐息が、恵の口に懐かしい甘さを一杯に注ぎ込む。 愛おしすぎる唇は、昂ぶるイクルをそれだけで絶頂に導いていた。 「恵……」 小さな手のひらが、おずおずと恵のものを包み込んだ。 細い指をそっと絡め、納まりきらないそれへ愛おしげに頬をすり寄せる。 「私……夢でしたのよ、これが」 そう呟きながら、チヤカは頬に触れさせたままのそれをゆっくりとしごき上げた。 熱く硬いそれが透明な液体を吐き出し、うっとりしたままの少女の頬にトロトロとこぼれていく。しごく指に塗り広げられ、薄く上気した頬がてらてらと光を反射する。 唇での奉仕は今までずっとミクマの役割だった。イクルはもっと直接的な触れ合いを好んだし、チヤカの両手は恵に触れる事を許さなかったからだ。 終わった後に口だけで触れる事は何度かあったが、指でしごきあげ、唇で昂ぶらせた事は一度もない。今まで何度ミクマのデータを自分にすり替え、焦がれた事か。 「恵のおちんちん、とってもあったかい……」 頬に伝わる現実の感触を十分に愉しんでから、小さな唇へ。 先端の液体に唇の先を触れさせた。 熱い。終わった後ではない。始まる前の液体は、こんなに熱い。 「チヤカぁ……」 「もう少し、愉しませて下さいまし」 淫らに汚した顔で恵へと艶やかに微笑み、勃ちきった恵にちろちろと舌を這わせ始めた。先端からカリまでをついばみ、出口に鼻をこすりつけ、竿にすいとラインを描いて、根本をぐるりと撫で回す。部位ごとの違いを味わうかのように、少しずつ、丁寧に、甘い唾液で濡らしていく。 「……素敵」 ペニスがぐっしょりと濡れそぼったところで、ようやくチヤカは満足げな笑みを浮かべた。ニイハチの時とは違う。愛しい人と体を重ねるのは、やっぱり嬉しくて、幸せなことだと確かめ直す。 もう一度恵のものを五本の指で包み込むと、その上から暖かい手が重なった。 「やっぱ、見てるだけじゃつまんないよ」 耳元に届く、熱を持った吐息。背中にヒカリの、柔らかい胸が押し付けられる。 後ろから断続的に繋がる振動は、ニイハチからのものだろうか。先程の謝罪を受け入れたからか、ヒカリの体を介しているからか、その振動をニイハチと思っても恐怖の欠片も感じられない。 「ふふ……。なら、一緒にいかが?」 そう言って身をかがめ、チヤカは右側から恵のペニスを舐め上げた。 「じゃ、遠慮無く」 ニイハチをくわえ込み、チヤカにのし掛かったまま、ヒカリは左側から恵のペニスを絡め取った。 「ん……ッ」 存分に舌で嬲り、恵を挟んで唇を重ね、舌を絡ませたまましごき上げる。片方がくわえ込めば片方はその結合部を舌で責め、ふやけきった袋を撫で回す。 「う……っ」 いつもチヤカ達を相手にする恵も、二人同時は初めてだった。さすがに分解状態のチヤカ達とコトに及ぶほど特殊な性癖は持ち併せていない。 前戯で散々焦らされていた高ぶりを、十本の指と二本の舌でやり放題に翻弄される。後ろからニイハチで満たされたヒカリの吐息が、痛みすら覚えるペニスを柔らかくも狂熱的な興奮で包み込む。 「んっ!」 チヤカの舌が震える先を吸い上げて。 びゅぶるっ! 「ひゃぁっ!」 「んんっ!」 二人の顔に、濃厚な愛情を解き放つ。 「これが……」 飛翔の半分に小さな左手をかざしつつ、チヤカの口から蕩けるような甘い声が漏れた。 細い指に打ちかかり、顔を汚す初めての熱さに心が震えたのだ。ミクマごしのデータとも、ドリルや肌に受けた熱さともまるで違う。五本の指に絡み、とろりとこぼれ落ちる、恵の愛の温もり。 「恵の……」 指は自然と唇へ動いた。舌が触れ、熱を持ったままの粘液の味を本能的に解析する。 「……苦ぁい」 ぽつり、漏れる言葉。 「ああ、無理しないで」 「……でも、美味しい」 苦く生臭いと判断されたそれを、心はこの上なく甘いものだと受け取った。回路に欠陥があるなと思う反面、それでいい、と思う。 甘く誤魔化されたそれを愛おしそうにしゃぶりあげ、喉を鳴らして嚥下する。無心に舐め取り、顔にかかったものまですくい取り、やがて名残惜しそうに離した指には、一滴の精も残っていない。 「ね、チヤカ。あたしのは、どう?」 不満げな表情のチヤカに、後ろからの声がした。 見れば、艶めかしいヒカリの笑みを白い恵の愛がべったりと飾っている。 「あたしを混ぜてくれた、お礼」 「では、遠慮無く」 幸せそうに笑ったチヤカは、白く汚れた唇でヒカリの鼻に触れ、心おきなく精の味を愉しむのだった。 「恵さん……いいんですか?」 新品のベッドの上にぺたんと座り込んだミクマの第一声は、それだった。 「……何が?」 恵にはミクマの問いの意味が分からない。ヒカリやニイハチの方を向くが、二人も分からないらしく首を横に振るだけだ。 「恵さん、後でヒカリさんともエッチするんじゃ?」 言われ、ようやく理解した。 彼女達が知っている恵の体力は保って二回分。今日はもうチヤカで一度出したから、実質あと一回で打ち止めになる。ミクマはそう言う事を言っているのだ。 「……今日だけじゃ、ないから」 隣でヘラヘラと意地悪く笑っているヒカリにため息を吐く、恵。 「ミクマは、そんなコト気にしないの。ねえ?」 何だか落ち込んでいる恵を尻目に、ヒカリは優しくミクマの太い腕を執った。こちらは今までと同じ、自在に伸びるロボットアームだ。 「そこは……」 そっと導かれた先はミクマの新しい足の間だった。小さなショーツに覆われたそこは、合体した時からじんわりと熱く、うっすらと染みが広がっている。 「自分の体だもんね。よく、知っておかなくちゃ」 「ひぁっ!」 知らない感触が、ミクマの体を揺さぶった。 痛いような、くすぐったいような……気持ち、いいような。 幼い顔がぽっと熱くなり、長い息が漏れる。 「……はぁ」 恐る恐る、もう一度触ってみた。 ぁは、と悩ましげな吐息。 触れるたびに鈍い衝撃が走り、撫でれば甘い声が止まらない。 くてん、とベッドに倒れ込み、荒い息を吐く。 「これ……何ですかぁ……」 イクルやチヤカと一体のミクマだ。恵を迎え入れる場所という事はもちろん知っている。でも、ここまで気持ちのいい場所だとは知らなかった。 「可愛いわよ、ミクマ」 優しいヒカリの声が耳を揺らす。 その声に、うっすらと涙が浮かんだ。 「……ミクマ?」 「なんか……怖いです」 下着の上から触れただけでもこんなに気持ちいいのに、恵を受け入れれば一体どうなってしまうのか。もしかしたら、壊れてしまうのではないだろうか。 受け入れる快楽を知らぬまま、ミクマはイクルとチヤカが交わる光景を見続けてきた。強い意志を持つ彼女達でさえあそこまで乱れてしまうのだ。そんな恵の体を受け入れて、自分は……。 「大丈夫だよ」 穏やかにそう言い、手を取る手があった。 「恵さん……」 恵の手だ。反対の手は、ヒカリも握ってくれている。 「優しく、優しくやるから」 「……はい」 請われ、ミクマはゆっくりとショーツを降ろした。 「ん……ッ!」 吹きかけられる息に、ミクマは体を硬くする。濡れそぼった処に当たる恵の息は、思ったよりも随分と冷たい。 「冷たい……ですぅ」 「じゃ、こっちは?」 ぺちゃりという、生暖かい感触。恵の舌が濡れた場所に触れる様子が覗き込んだ瞳にしっかりと映る。 「ひゃぁんっ!」 慌てて身をよじるが、制御が完全ではない下半身は思った以上に動かなかった。もちろん、恵をふりほどく力を出す事も出来ない。それどころかぺちゃぺちゃと表面を撫でられるたび、力が抜けていくほどだ。 くてん、と倒れかける背が、柔らかなふくらみに押しとどめられた。 「大丈夫?」 「はぁい……」 ヒカリに背中を預け、絶え絶えに呟く。 全ての回路がダウンし、意識だけが残っているようだった。恵が舐める股間にも力が入らず、愛液が締まり無くトロトロと溢れ出すのだけが分かる。 「にぅ……」 ずず、と甘い愛液を吸い上げられても、もう声も出ない。とろんとした瞳で、恵の口に覆われた自分の膣口を見下ろしているだけだ。 「ミクマ……本当に、平気?」 その問いにだけは、こっくりと首が動いた。 こんな気持ちいいこと、途中でやめてほしくなんかない。イクルとチヤカが焦がれ、愛おしんだ快楽を、自分も味わってみたい。最初は恐怖が先に立ったが、今はその想いのほうが先にある。 「にゃあ!?」 その途端、蕩けていた意識に電流が走った。 「ミクマ。しっかりして……ね?」 後ろから手を伸ばしたヒカリが、つんと勃っていた乳首をつまんだのだ。後ろからクリクリと弄られる感覚に、体の感覚が戻ってくる。 「ヒカリさぁん……」 「ほら、恵ちゃんのが来るわよ? 準備はいい?」 穏やかな声には優しさが詰まっていた。混沌と快楽を貪るのではなく、心の底から恵を迎えさせたい。その気持ちが嬉しくて、ミクマはそっと手を伸ばす。 触れたのは懐かしい感触。これから初めて迎え入れる、愛しい恵の分身。 「……はい」 ミクマの入口は蕩けそうに熱い。ふわりと包むミクマの指使いに、恵のものにも力が戻っている。指と口での奉仕ならミクマの得意分野だ。 「じゃ、行くよ?」 「はいっ」 ビシャビシャに濡れたシーツの上。愛液を垂れ流すミクマの秘部に、恵のペニスがもぐり込んでいく。 「んんん……っ」 「ほら。声、出して」 甘噛みされた耳に忍び込んだ囁きは、心のたがを外す鍵。 「ああああっ! やぁ……いたぁ……いっ! あつぅい……よぉ……っ」 小さな口から、稚ない悲鳴があふれ出た。 「恵さぁん……やだ……やさしくぅ……って……。ぐぐって……ぐぐって来てるよぅ」 恵が奥へと進むたびに漏れる、艶の混じった叫び声。 「ばかぁ……いたいよぅ……けいさんの……うそつきぃ」 叫びは泣き声に変わり、やがて淡い喘ぎを帯びる。 「じゃ、やめる?」 意地悪な問いに、首を激しく横に振る幼い娘。 「やだぁ……」 痛くて苦しかった。 「気持ち……いい、のぉ。奥……までぇ」 けれど、それ以上に気持ちよかった。 体の奥を一杯にされるのは、口での奉仕とは全く違う。愛しいものと深く深く繋ぎ逢えるこの喜びを、どう表現したらいいものだろうか。 「くは……ぁ」 根本まで押し込まれ、目の前の恵に幸せそうな息を漏らす。いつものフェラチオと違い、恵の顔がこんなにも近い。 「恵さん……ひどいです」 「痛かった?」 ううん、とミクマは首を振った。 「今まで、キャタピラの足でもいいって思ってましたけど。今まであのせいでエッチできなかったって考えたら、すごく損した気分です」 拗ねたような口調に、彼女を抱いていた二人は顔を見合わせて笑う。 「そうだね。僕が悪かったね」 「ひゃ……やぁ……っ!」 ゆっくりと腰を動かしつつ、恵は口を開いた。 「これからは、ミクマもチヤカも、みんなで仲良くやろうね」 「うん……すご……っ……あああっ!」 揺れるミクマに抱きついて、ヒカリも耳元に微笑みかける。体を押さえられているせいで、恵からの衝撃がさらに強くミクマを襲う。 「あ……っ……やあ……っ……」 ぐっと一瞬だけ圧された膣に、やがて柔らかい熱さが伝わっていく。 どくどくという脈動と広がる熱に、一度は知覚した意識も再び蕩けていく。 「な……に……これ……。あつ……ぃぃ……熱い……よぅ……」 ヒカリの腕の中。恵の精液を一杯に受け止めたミクマは、初めての快楽にゆっくりと意識を失っていった。 全ての力が抜けた肢体からは、恵から注ぎ込まれた精液がトロトロと流れ落ちていく。 |