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「ヒカリさん?」
 問いかけに姿を見せたのは、階下で作業をしていたニイハチだった。
 彼はヒカリがスクラップから造り上げた重作業用アンドロイドだ。ゲッターよりも小柄な体に高出力のモーターを内蔵している彼は、体に数倍する荷物も軽々と運ぶ事が出来た。小さな体は一見不利だが、狭い場所での作業をする上では何物にも代え難い武器となる。
 そしてヒカリとは対照的に、ニイハチはあまり喋らない。
「あんたさ……」
 そのニイハチが、珍しく喋った。
「はい?」
 だから、反応が遅れた。
「邪魔なんだよ」
 敵意のこもったその言葉と共に、両肩をしっかりと掴まれる。ゲッターの中でもさらに非力なチヤカでは、重機並の力を持つニイハチに抗う術など無い。
「きゃあっ!」
 肩から押さえられては逃げる事も出来ず、力任せにベッドの上へ押し倒された。細いパイプで組まれたベッドがぎしりと大きく揺れる。
 青い大きな瞳の中に深く昏い光を見つけ、チヤカの体に震えが走る。
 怖い。
「やだ……やだ……っ!」
 自分より小さな少年が、今は怖くてたまらない。腹の上にのしかかる少年の重さが。胸元に伸びる少年の手が。
 怖い。
「……」
 耳障りな断裂音がして、胸元を冷気がすっと撫でた。
「やぁぁっ!」
 少年の大きな手のひらがゆっくりと開けば、その中から引き裂かれた白い金属布がひらひらとシーツの上に落ちる。それは、ボロ布と化した、白い、チヤカのワンピースだったもの。
 ふくらみかけの胸元を覆うものは、もう何もない。
「……」
 小柄な体には不似合いに大きなニイハチの手のひらが、チヤカの裸の胸をそっと覆う。
「……ひぃ……ッ!」
 ショックでフリーズした駆動回路は、どれだけ叫ぼうとも動かなかった。ただ、感覚器から伝わってくる怖気が駆け巡るだけの場所。
「や……ぁ……っ」
 チヤカは今まで、胸は気持ちの良い処だと思っていた。イクルの頬、ミクマの指、月姫の舌、恵の唇。触れられれば甘い息が漏れたし、舐められれば愛おしさを感じた。
 それが、今は痛みを感じるだけの場所と成り果てている。
 気持ち悪い。
 はだけられた胸に重なる手のひらには、嫌悪感しかない。
「かは……ッ!」
 そこにかかる、重量感。
 ニイハチの重さでベッドに押し付けられ、息が漏れる。ニイハチが両胸に手をついて、身を乗り出してきたのだ。
 顔が近付く。
 嫌だ。
 嫌だ。
 顔を荒く振り回し、しなやかな黒髪を振り乱して叫ぶ。
 嫌だ。嫌だと。
「んんんんっ!」
 だが、片手でおとがいを掴まれた。単純な力勝負で、ニイハチには敵わない。
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!」
 唇が、押し付けられる。
 キスなどと呼びたくなかった。
 噛みつかれ、押さえつけられ、吸い上げられる、こんなものが。
 恵との蕩けるような口付けではない。姉妹と親愛を深めたキスとも、月姫の安らげる唇とも違う。いや、同じ行為とすら認めたくなかった。
 泣きながらイヤイヤしようとしても、唇を押さえられては首も動かせない。チヤカが身をよじろうとするたびに簡素なベッドがギシギシと鳴り、ニイハチの体を揺らす。
 長い長い長い、唇への陵辱。
 胸を嬲られ、唾液を流し込まれる。舌でしっかりと閉じた歯を叩かれる。チヤカは残る力の全てで歯を食いしばり、最後の砦を守り抜こうと……。
 ちゅ……
 けれど、それは無駄だった。
 股間から響く、わずかな水の音。
「え……。う……そ……?」
 一瞬弛んだ歯を割り、陵辱者の舌がチヤカの舌に絡み付く。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 膨大なデータを強制的に押し込まれ、焼かれたAIが意味不明な叫びを上げた。唇を押さえられようと、舌を蹂躙されていようと関係ない。機械の娘の絶叫は、フローリングの部屋を縦横に跳ね回る。
 混乱した情報が全身を駆け巡り、動かぬ体をギシギシと揺らす。
 がだん、と音がし、ついにパイプベッドが真っ二つに折れた。
「やぁ……」
 中央から折れたベッドに挟み込まれ、チヤカの体は完全に束縛される。もう腕一本、動かす事は出来ない。
「何でぇ……何でよぅ……」
 繰り返すオーバーフローと処理遅延で、言語プログラムすらまともに走らなかった。それでも思考し、呂律の回らない言葉で問いかける。
 ニイハチとは仲良く……少なくとも、対立するような事はなかったはずなのに。
「……AIが三つもあって、分からないのかよ」
 パイプベッドに挟まれたチヤカの前に立ち。ニイハチは、息も絶え絶えな少女を哀れむように見下ろしている。
 その手が腰に伸び、大きな金具に触れた。
「ヒカリは、ぼくだけのものだ……」
 じじ、とジッパーが鳴る。
「え……? だって……私達……」
 チヤカはニイハチの言葉の意味が分からなかった。
 自分達は同じ仲間ではないか。これからは四人で、ヒカリに仕えれば……。
 そこで気が付いた。
(あ……)
 いつも三人で一人だったから、理解が遅れたのだ。
「だから、お前は邪魔なんだよ……」
 下がりきったジッパーの奥から、ゆっくりとそれを取り出す少年。
 ニイハチの司る、もう一つの役目。
 恵に対するチヤカのように、ヒカリに対する……。
「ぁ……あ…………っ!」
 恵のものよりはるかに太く、黒いものが、涙に覆われた瞳に映る。
 動けないチヤカのスカートを押し上げて、ニイハチはチヤカの最後の部分を蛍光灯の下にさらけ出した。
「……ぁは……」
 空調の風が当たり、ショーツが水分を含んだ冷たさを伝えてくる。
(うそ……)
 震えが、走った。
(何で……何で!?)
 濡れていることに。
 濡れてしまっていることに。
 感じているのか。こんな相手に。
 愛も優しさもないこんな奴の行為に、感じ、濡れてしまったのか。自分は。

 くちゅ……

 ショーツ越しに伝わる熱さに、今度こそ決定的な水音が届いた。
 細い両足を力任せに割られ、両肩を押さえつけられ。
「どっか、行っちゃえよ」
 ショーツごと、一気に打ち込まれた。
 絹の裂ける音と衝撃が同時に体を打ち貫く。ぐちゅりという醜悪な音が響き、布きれを絡ませた熱いものが体の奥へ無理矢理に押し入ってくる。痛みと苦しみだけを伴って、チヤカのからだを犯し抜く。
「いや……いやいやいや…………いやぁ……」
 もう全てが嫌だった。
 恵も。月姫も。タツキも。ニイハチも。ヒカリも。
 犯されている自分自身も。
 それで濡れている体も。
 ニイハチのペニスをくわえ込んだ機械の性器も。
 ブルブルとバイブレーションを始めたニイハチのペニスも。
 全て。全て。
「ぁ……ぁは……っ! ん……やぁ……ふとぉ……いっ!」
 全身の回路が真っ白に染まっていく。頭の中に狂ったような笑い声が響き、正常な感情が覆い尽くされていく。
「すご……恵……すごいのぉ……っ!」
 ベッドに縛り付けられ、常人を越える力でバイブするペニスを打ち込まれながら、チヤカは悶えた。甘い声を上げ、愛らしい声でよがり狂う。
 感情プログラムが何か黒いものに覆い尽くされ、押し流されていく。
「ん……っ!」
 どくどくと流し込まれた欲望のたぎりに、高い声を上げ……。
「ちやちゃんっ!」
 突如心の中に響き渡る、強い声。しゅるしゅると伸びた長い腕が、バラバラになりかけたチヤカの心をしっかりと抱きとめる。
 体が勝手に動き、設定値を振り切ったモーターが全身で炸裂した。いくつかの回路がはじけ飛び、少女の体を紫電が駆け回る。
 砕け散るパイプベッドの破砕音の中、高らかに響く、鋼鉄のタービンの音。
「こいつ……ちやちゃんから……離れろぉぉぉぉぉぉっ!」
 怒りにまかせた鋭すぎる衝撃は、ニイハチの胴体を穿ち、容赦なく貫き通す。
「あ……ああ……」
 強く強く抱きしめられたミクマの腕の中。
「ああああああああああああああああああっ!」
 ドリルから伝わる鈍い衝撃に身を震わせて、魂消える叫声が響き渡る。


続劇
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