ベッドの上。重なる唇に、女は甘い息を漏らした。 全身にかかる男の重さと、その体重を感じさせない胸からの感触が心地いい。大きな男の手にも余るほどの乳房が、柔らかく撫で回されているのだ。 「ね……もっと、強く」 そうねだっても、男は込める力を変えなかった。手の中でふにふにと形を変えるふくらみからは、少しの痛みも伝わってこない。ただ節くれ立った男の指の感触が感じられるだけ。 ジリジリと焦げる想いで、回路が動作不良を起こしそうだった。いっそショートさせてもらった方が、どれだけ楽か。 「あ……んぁ……っ!」 唇が離れ、刻々と姿を変える、火照った双丘の間へと。 押し込んだ舌を狭間の奥へと突っ込み、一番根本に小さく見えた感知器官をゆっくりと舐めあげた。 「ひやあっ!」 男の顔を乳房で挟み込まれた感触と、敏感な部分をいじられた衝撃に女の体がビクっと跳ねる。押さえられた裸の胸に、飛び散った白い液体が熱い。 「なんだ。まだ入れてたのか?」 指に付いた甘い白を舐め取り、男は呆れたように呟く。最初にやった俺を散々絞り上げておいて、この態度かよ、とその声は雄弁に物語っている。 「ぁは……。だって、槍一郎さんもお好きでしょう?」 薄紅に染まった胸に白を塗り広げていた手に自分の手を重ね、月姫はそっと力を込めた。 「ん……っ。このくらい、やって下さらないと」 乳房がいびつに歪み、尖った先端から白い乳液がさらに飛ぶ。焦らされ、敏感になったセンサーには、これくらいの刺激が一番気持ちいい。 「もっと焦らしたかったんだがなぁ、俺ぁ」 苦笑し、ふわりと広がる栗色の髪を撫でる。手にこびりついた白い液体が柔らかな髪に絡んでいくが、気にした様子はない。 「もぅ……」 嫌がらせと知っていてやる男の様子にふくれつつも、月姫は両胸をこすり合わせた。ぬるぬると絡む液が潤滑油の役割を果たし、強く揉んでいるのに痛みはほとんど無い。 そこに、熱いものがきた。 「はいはい」 ふ、と笑み、二つの胸で優しく挟み込んだ。もう二度ほど月姫の内に射精したそれはいまだ硬さを失っておらず、薄い白で染まった乳房に濃く濁った液体を塗りつける。 まずはソフトに揉み、次に間から出た先端を舌でそっと舐めてみた。 「う……っ」 まずまずの反応。今の槍一郎の快楽は、月姫の思うがままだ。 その支配感が嬉しくて、月姫は苦い液体を飲み下し、再び槍一郎の分身に舌を這わせていく。 「月……姫ぃ……」 「ふふ。さっきの、お返しです」 上目遣いに見上げれば、主の表情はなかなかに苦しそう。生殺しに遭うとこんな感じなんだよ、とご主人様に教え込んでおいて、月姫の唾液にまみれててらてらと艶を放つようになったそれをようやく口にくわえ込んだ。 挟んだ竿に柔らかな振動を続けざまに与えておいて、一気に鈴口から吸い上げ……。 「だぁぁっ!」 達する半秒前で、吸うのを止める。 「月姫ぃ……勘弁、してくれよぉ……」 いつもの槍一郎にはありえない、情けない声だ。とても恵や部下達に聞かせられる声ではない。 「もう、仕方ないわねぇ」 そんな男の様子にくすくすと笑い、蕩けそうになった男根をもう一度くわえこむ。流石に懲りただろうから、今度は一気に押し上げてやる。 「あ……いや……ち、ちょっと……あああっ!」 気を抜いたところに本気の責めだからたまらない。一瞬で勃ち、達する、痛みさえ伴った射精感に男は悲鳴。何かが潰れるようなくぐもった音と共に、月姫の口の中へ白い汚液が放たれ、呑み込まれる。 「ン……んむ……ちゅぷ……ぁ……はぁ……」 ビクビクと暴れるそこを乳と精に汚れた乳房から解放し、そのまま口の中へ滑らせていく。喉の奥に当たってそのまま流れ込む精の熱さが、たまらなく心地いい。 「んちゅ……」 槍一郎を根本まで呑み込んだところで、ようやく射精は止まった。 「槍一郎さぁん……」 口の中で粘つくそれを最後の一滴まで吸い上げると、今度は唇で締め付けたままゆっくりと抜き始める。 きゅぷ、と濡れた唇から解放された時、後ろから子供の声が掛けられた。 「まま……」 ベッドに倒れ込んでいる槍一郎に毛布を掛けてやり、声の主に振り返る。幼子に槍一郎との情事を見られたというのに、慌てる様子もない。 「どうしたの? クロエ」 入口に立っているのはクロエだった。 ゲッターの家庭用モデルであるブラックゲッターも半年ほど前にようやく量産体制が整い、クロエは実験機としての役目を終えた。それ以来、クロエは実働試験を行った槍一郎にそのまま引き取られ、月姫の娘として家事を手伝う生活を送っている。 少女を招き寄せ、ベッドの上にそっと抱き上げてキスすれば、表情に乏しい少女の顔がほんのり赤らみ、かすかに弛む。まるで、その先にある快楽を知っているかのように。 「あなたも、一緒にやりたいの?」 問われ、幼子は首をふるふると横に。 「あのね、お姉ちゃんが……来てるの」 二階の月姫の寝室にはチャイムの音が届かなかったらしい。隣の部屋で眠っていたクロエだから、気付いたのだろう。 「……ミクマが?」 だが、どうしてこんな時間に……。 そう思いつつ、月姫はクロエの渡してくれた夜着を慌てて着込むのだった。 泣きじゃくるイクルの話を聞いた月姫は、何の助言をする事も出来なかった。 「そう……恵さんが、結婚を」 イクルとクロエを両腕に抱いたまま、まるで自分に言い聞かせるように呟く。 「ママ……。あたし、どうしたらいいの?」 チヤカとミクマはショックで塞ぎ込み、反応がない。かろうじて踏みとどまったイクルが指揮を執り、何とか月姫の家まで歩いてきたのだという。 「そうね……」 言いかけ、それ以上言葉は続かない。 その答えは、十五年の時を過ごしてきた月姫にも辿り着けないものだったからだ。 「そう……ね」 殊に恵が求めたものは、月姫の心さえ軋ませる問いだった。 いかに精巧なアンドロイドでも。恵の天才的な頭脳が生み出したイクル達にも、生きて伝説となった兜達の想いが籠もった月姫にも、たどり着けない限界の先。 夢見て至れぬ扉の向こう。そこに、その領域はあるのだから。 「私達は、どうすればいいのかしらね……」 月姫がここにいる限り、槍一郎は独身を貫くだろう。そして槍一郎が修理し続ける限り、月姫もここにいるだろう。月姫は一生槍一郎のものでいい。けれど、槍一郎もまた、一生月姫のものなのだ。 それは果たして、正しい事なのか? はるか昔に至ったはずの答え。諦めたはずの問いかけが、純粋な涙によって再び問いかけられる。 「……まま? お姉ちゃん? 泣いて……るの?」 「ううん……平気」 クロエの幼い言葉に、浮かんだ涙をそっと拭う。 そうだ。これからは、この子も居る。 永遠にこの姿のままの、愛しい娘。 それが、槍一郎の今の答えなのだろう。 (私には、クロエもいるものね……) だが。 だが……。 「イクル……なんにもできないお母さんで、ごめんね」 たまらず、イクルを抱きしめた。片手で豊かな胸元に抱き、頭や額に唇の雨を降らせていく。 イクルの痛みが、少しでも軽くなるように。軽くなって欲しいと願うように。 それ以外に、月姫は何もできないから。 「まま……ままぁ……っ」 まだ熱の冷めやらぬ胸に頬を埋め。イクルもまた、堰を切ったように泣きじゃくるのだった。 夜が明けた時、月姫の腕の中にイクルの姿はなかった。 へたくそな字で一枚の書き置きを残し、彼女は姿を消してしまったのだ。 「『ありがとう』って……あの子!」 「……どうしたんだ、こんな朝早くから」 そこに掛けられたのは眠そうな槍一郎の声。どうやらあの格好のまま眠ってしまったらしく、片手にタオルを提げている。シャワーを浴びるつもりらしい。 「槍一郎さん!」 詰め寄り、問いかけた。 「お、おう。何、お前も入るか?」 その剣幕に驚く槍一郎だが、髪や口元にこびりついた白い色を認め、ぼんやりと聞き返すだけ。まだ頭は完全に目覚めていない。 「恵さんが結婚するって、ご存じでした?」 「ああ。って、言ってなかったか」 「聞いてません! ああもう……なんてこと!」 怒ったり慌てたり、月姫も整然とした思考ができなくなっている。普段おっとりした彼女がここまで慌てる姿は、槍一郎でさえ久しぶりだ。 そんな月姫の視界が、突如として真っ暗になった。 「はえっ!?」 厚手の布によって失われた視界、暖かい腕の感触が、すっと体を包み込む。 「とりあえず落ち着け。それから、風呂にでも入って、ゆっくり説明してもらおうか」 この温かさは知っている。槍一郎の、腕の温もりだ。 「は……はい」 タオルがはぎ取られて視界が戻れば、そこには槍一郎の厚い胸板がある。 「クロエも入れ。お前が居てくれると、月姫も落ち着くから」 兜家の風呂は三人でも十分入れる広さを持つ。槍一郎の言葉にこっくりと頷いたクロエは、風呂を沸かすべくぱたぱたと風呂場へ駆け出していく。 「槍一郎さん……」 「……今は何も言うな。風呂で落ち着いてから、一つずつ、な」 開き掛けた月姫の口に汚れた指を当て、槍一郎は静かにそう囁くのだった。 「俺はずっと、お前の傍にいるから」 |