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 チヤカはいつもは恵が座る運転席に、ゆっくりと身を横たえた。左腕のドリルもシートの間にすんなりと納まっている。サイドブレーキは足元だから、ドリルの邪魔になるものは何一つない。
「恵、次は左ハンドルの車にしませんの?」
「そんなお金あったら、新しいパーツでも買うよ」
 突拍子もない申し出に苦笑しつつ、恵はチヤカと唇を重ね合わせた。触れてすぐ離すついばむようなキスに、思わず笑みがこぼれる。
「もう、さっきみたいな事はしませんわ」
 次に来た唇は、触れても離れなかった。シートに押し付けられ、息を塞ぐように強くねぶられても、呼吸をしないチヤカにとっては気持ちのいい時間が長いだけだ。
 絡んだ舌をぷは、と離し、細い首元へ。
「ぁは……」
 上向いた口からすっと息が漏れる。喉元から聞こえてくるぺちゃぺちゃという音が、何だかひどくいやらしい。
「チヤカ、服」
「ええ」
 チヤカのワンピースはただの表面処理ではなく、イクルのマントと同じ実体だ。体の一部だから、脱ぐわけにもいかない。
 仕方なく恵にたくし上げてもらい、落ちないように右手でそっと押さえる。
「恵……次は、この服を何とかして下さらない?」
「考えておきます」
 正直、邪魔なのは恵も同じだ。せめて着脱式にしよう、などとぼんやりと思う。
「とりあえず、今はこれで我慢して」
 そう言って恵はシートの上に手を伸ばした。しゅるしゅると引き出されたそれをチヤカの前に通しておいて、右下の金具にかちゃりとはめる。
「少し窮屈だけれど……」
 胸元の恵の頭を、開いた右手ですっと抱いてみた。
 シートベルトに押さえられたワンピースが落ちる気配はない。
「悪くないですわね」
「なら、何よりです。お嬢さま」
 恵の舌が、喉元からゆっくりと下がり始めた。鎖骨の谷間を抜け、ワンピースの壁を越えてその先へ。
「そういえば、チヤカ」
「何……ですの……っ?」
 胸元に届いた舌に、返事の声は上擦っている。
「月姫さんと、こんなことやってたよね?」
「ひぁっ!」
 両方の手で胸を覆われ、そっと押し上げられた。指の間に挟まれた先端が、両手の動きに巻き込まれてふにふにと形を変える。
 手から力が抜け、恵の頭に上げたワンピースの束がぽそりと落ちた。
「やぁ、らメぇ……」
 片手と唇が入れ替わり、暖かい恵の舌と優しい恵の指で同時に責められる。
「ここもだっけ?」
「やぁあ!」
 続いてきたのは、ねちゃ、という鈍い感触。
 いつもの痺れるような感覚ではない。薄い紗の掛かったような……ショーツごしの指使い。
「ここは月姫さん、どうしてたっけ?」
 優しい声で、指で、くりくりと嬲られる。
 でも、足りない。目の前にあってなお届かない、もどかしさ。
「やだ……やだあ……っ」
 そう言いながら、チヤカは細い脚を必死に動かした。濡れはじめたシートに尻を押し付け、覆い被さる恵の腰にお腹をすりつけて、薄桃のショーツをずり下げる。
「良くできました」
 何とか太ももの辺りまで下げた時、ごほうびが来た。
「はあぁっ!」
 今度の指は本物だ。軽く押し込まれただけで、濡れそぼったチヤカは嬉しそうに甘い液体を吹き出した。
「ふぇ……」
「そういえば、初めてエッチした時は、口とエッチなところから同じのが出てたっけね」
 シートにどろりと垂れた液をすくい上げ、恵は軽く一舐めする。懐かしい甘さを確かめてから、二人分の液が絡んだ指をチヤカの口へ。
「ちゅ……。にゃぁ……っ」
 指をチヤカにくわえさせておいて、自分は硬くなった乳首へ戻る。
 音を立てて吸い上げれば、広がるのはもっと柔らかい甘み。
「こんなところばかり……改良するんですもの」
 とろとろとチヤカの唾液にまぶされた指を吐き出して、チヤカは恨めしそうに主をにらみ付けた。狭い車内だから変形はできないが、仮にイクルに変形しても、胸のチヤカは乳首から別の液体を出す事が出来る。
 そういう風に、改良されたのだ。
「……恵のエッチ」
 ふくれ気味の娘の態度が可愛くて、チヤカの唾液を舐めていた恵は微笑する。
「それは、お互い様、でしょ?」
 シートベルトがしゅるりと戻り、シートのリクライニングが全開まで倒された。
 仰向けに倒れ込むチヤカの上に、細身の影が覆い被さってくる。
「きゃっ!」
 月光を背にした影は、思いの外大きい。まるで恵ではない姿に、一瞬身が竦む。
「……怖かった?」
 だが、その声はいつもの優しい恵の声。額を撫でる掌も、かかる重さも、みんな恵のもの。
「そんなこと……ありませんわ」
 機械の右手を伸ばし、大好きなひとの前で少しだけ強がってみせる。
 腕を取られた瞬間、ずんという重みがチヤカを貫いた。
「……ッ!」
 胎内から熱いものがこぼれ出すのが分かる。体の内をドロドロに溶かし、愛しい人を導き入れようとしているのだ。
「恵……恵!」
 叫ぶチヤカに、柔らかいキス。押し入る時の痛みを紛らわせたいのか、彼はいつでも彼女達の顔にそうしてくれる。
 けれど、今日は少し違った。
 顔ではなく、彼女の右腕。挟み取る事しかできない、鋼鉄の腕に唇を触れ合わせたのだ。
「恵……腕……やだっ」
 チヤカが腕にコンプレックスを持っているのはさっき話したはず。イヤイヤをするように振り解こうとするが、力の抜けた体では恵を振り切ることもできない。
「チヤカの努力の証でしょう? 僕の大好きな、チヤカの手」
 気付けば、左腕からも恵の温もりが伝わってきた。もう一度右手にキスすれば、チヤカの胎内は恵のもので一杯に満たされる。
「恵……」
 抱きしめられた。大嫌いな、両手ごと。
 ハサミとドリルを間に置いて、恵との距離は果てしなく遠かった。
 今までは。
「チヤカ」
 でも、今は違う。両手を自分の一部と思えば、恵と自分は今も触れ合っている。
 抱き合っているし、繋がっている。
「ねえ……。キス、して?」
 そのおねだりに、恵はチヤカと繋がったまま体勢を変えた。
「ん……ッ」
 さらに押し込まれ、突き上げられるような感覚に、くぐもった声を漏らすチヤカ。思わず吐息を吐いたその唇が、次の瞬間暖かい唇で覆われる。
 ぎゅぷ……。
「あ……は……っ」
 腰が揺れ、離れた唇から声が漏れる。
 昂ぶる想いが、小さなチヤカの体を幾度となく貫いていく。
「このまま……中?」
 押し上げられるたびに揺れる少女に、恵は優しく問いかける。
「ううん……」
 欲しかった。久しぶりの恵を、体の中一杯に。
 そんな想いを抱きつつ、チヤカの首は横に振られた。
「今日はね……」
 続く言葉はぎゅぷぎゅぷという淫らな水音にかき消され、聞こえない。
「何?」
 問い返す恵の息も荒い。もう絶頂が近いのだ。止めて聞けるほどの余裕はない。
「今日はね……はぁっ!」
 必死で近付けた耳に、途切れ途切れの言葉を流し込む。チヤカにももう、余裕はない。想いを伝えるだけで精一杯だ。
「ひぁっ! ……あああっ! 恵……けいぃっ!」
 一度抜き放たれ、今度こそ奥まで突き込まれた。
 体が跳ね、胸を覆った鋼の腕ががしゃがしゃとリズムを奏でる。
 熱いものがびしゃびしゃと、チヤカの細いからだと顔を汚していく。
 恵の想い。
 恵の、精が。
「……ありがとう……恵」
 ドリルに絡み付いた恵の愛をそっと舐め取ると、チヤカは幸せそうに微笑むのだった。


続劇
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