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登場人物
散花のユイリ  サクラの主。
虹色のサクラ  自ら意志を持った傀儡人形。





反乱 −ある、傀儡人形使いの悪夢と解放−



「ねぇ、ユイリ様ぁ……。サクラのこと、受け入れて下さいませね?」
 硝子玉の瞳を淫らに潤ませ、サクラは動きの取れない自らの主……ユイリに向かっ
て婉然と微笑んだ。サクラはまだ7歳程度の小さな童女の姿を模されている。その幼
子が宛然と微笑むというのは何とも異様で、不思議な違和感を感じさせた。
「ユイリ様ぁ……。何か、仰って下さいませ」
 華奢な腕に細い糸で繋がれた手首をからり……と鳴らす。
「サ……ク…………ラぁ……やぁ……」
 ようやく動く口を必死に動かして漏らされたユイリの言葉は、淡いうめき声。
 体の制御を、奪われているのだ。
 自らが操る筈である、傀儡人形のサクラに。
「サクラ、ずっと待っておりましたのに……。ユイリ様に、体を捧げる日の事を……」
 そっと瞳を閉じ、祈るような恍惚とした表情で、サクラは言葉を紡ぐ。まるで、主
である少女に躯を捧げる事が、神聖な儀式であるかのように。
「ユイリ様……」
 自らの主の青ざめた頬にそっと手を触れさせる、サクラ。体温のないその掌は生命
の温もりを宿すはずもなく、ただただ冷たい。
 からり……。
 鳴る音は、儚く、脆く、そしてあまりにも空虚。中ががらんどうの細腕では、それ
も詮無き事かもしれないが。
「ユイリ……様……」
 幾度となくその名を呼びつつ、主の手を放れた傀儡人形は、青ざめ、僅かに震える
ユイリの唇にゆっくりと細い指を這わせ始める。主の化粧箱より取り出した紅の塗ら
れた細い絡繰の指は、少女の唇に鮮やかな軌跡を残していく。
 主の姿は、常に見ていた。
 だから、化粧の仕方も分かる。
 主も、こうして紅を塗っていた。
「サク……ラぁ……」
 絡繰の童女が動く度、少女の肌には彼女と繋がる細い丈夫な鋼糸が食い込んでいく。
擦れた鋼糸は白磁の肌に赤く醜い痕を刻み続ける。
「あぅ……」
 その肌が、割れた。ひび割れはしない。白磁を覆う薄い皮が裂かれ、内に秘められ
た紅く温かいものがゆっくりと滲んでいくのみ。生まれた傷に擦り付けられる鋼糸は
更に食い込み、滲んだ紅いものはいつしかか細い流れへとその姿を変える。
 ―痛み―
 だが、少女の声は、既に彼女には届かない。静かな狂気を宿した人形は、紅に染
まった繊手を少女のもう片方の頬に添えている。少女の頬に一条の真紅が引かれるが、
既にそれもその目に映っているかどうか。
 蒼白い暗き焔を宿したかのような硝子の双玉には、怯える少女の姿が妙に鮮明に
映った。
「お慕い……お慕いしております……」
 その述懐と共に紅の引かれた唇に押しつけられる、柔らかいもの。
 くちゃり……
 それの間から現れ、歯を割って押し込まれた更に柔らかいものが、少女の未踏の領
域を静かに踏み躙っていく。
 柔らかいが、温かくはない。
 優しくとも、暖かくはない。
 絡み付く舌は冷たく、絶望に心は凍える。
「ユイリ……様」
 少女からの返事は、ない。
 くちゃり……
 響くのはただ、水の音だけだった。

< 単発小説 >



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